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重力波に関するQ&A

SOURCE: BICEP2 COLLABORATION

今回のBICEP2チームの発表の意義は何か

科学者たちは、今回の発見の結果を今後何年にもわたって分析することになるだろう。しかし、主要な意義はすでに明らかだ。

  • アインシュタインは、1916年に重力波の存在を予言し、理論計算によって重力波は極めて弱いことも予測した。このため彼は、重力波は決して検出されないだろうと考えていた。BICEP2チームの今回の発見は、直接検出を除けば、重力波が実際に存在することを示す最も説得力のある証拠だ。
  • 今回の重力波の検出は、宇宙論の標準的な基礎理論であるインフレーション理論が正しかったという証拠になる。インフレーション理論は、宇宙が、誕生直後の極めて短時間(1秒の1兆分の1の1兆分の1のさらに10億分の1程度の時間)に指数関数的な膨張を起こしたというものだ。
  • インフレーション時の宇宙の温度(ひいては素粒子のエネルギー)は、欧州原子核共同研究機関(CERN;スイス・ジュネーブ近郊)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)のような粒子加速器など、地球上の実験装置で現在到達できるエネルギーよりも数兆倍も高かった。つまり、今回の発見で超高エネルギー状態の世界をのぞく窓が得られたことになる。
  • インフレーションは量子現象であるため、今回の発見によって量子力学と重力とを結び付けることができる。今回の成果は、重力が、他の3つの自然界の力(弱い力、強い力、電磁気力)と同じように量子的性質を持つことを示す、初めての証拠になる可能性がある(2013年9月27日オンライン掲載のNature News 「How to see quantum gravity in Big Bang traces」参照)。

重力波とは何か

アインシュタインの一般相対性理論によれば、重力は、質量によって空間がゆがむ(曲がる)ために生じるとされている。空間は、質量のある物の近くではゆがむが、その空間のゆがみは、質量のある物の近くに常にとどまっているわけではない。地震波が地殻を伝わるように、空間のゆがみも宇宙を伝わることができることにアインシュタインは気付いた。重力波は空っぽの空間を伝わることができ、その伝播速度は光の速さと同じだ。

もしも、自分に向かって来る重力波を正面から見ることができたら、空間が重力波によって上下方向と左右方向に、代わる代わる伸びたり縮んだりするのが見えるはずだ(「宇宙急速膨張の証拠、検出される」の図『重力波の効果』参照)。

インフレーションだけが重力波を作るのか

重力波を作るのはインフレーションだけではない。質量があり、加速度運動しているほとんどの物が重力波を作ると考えられている。ただし、実際に直接測定できる可能性のある重力波は、2個のブラックホールが衝突して1つに合体するなどの、大規模で激しい現象が生み出す重力波だけだろう。世界の複数の天文台が、そうしたブラックホールの合体が起こす重力波を捉えようと試みている

今回、なぜ重力波は直接には観測されず、電波望遠鏡で検出されたのか

インフレーションの際に生じた重力波は、今でも宇宙を進んでいるはずだ。しかし、それらは現在、直接検出するには弱過ぎる。その代わりに科学者たちは、重力波が残した痕跡を探した。重力波は、宇宙の誕生から約38万年後に、宇宙に充満していた光の中に痕跡を残した。その光を、現在の私たちは宇宙マイクロ波背景放射として見ている。このため、宇宙マイクロ波背景放射の中に重力波が残した痕跡は、マイクロ波を捉える電波望遠鏡で検出された。

今回の観測は、なぜ南極で行われたのか

BICEP2電波望遠鏡が設置されているアムンゼン・スコット基地は、海面より2800m以上高い南極の氷床上にある。この場所は標高が高いために、空気が薄く、とても乾燥している。つまり、宇宙から届くマイクロ波をさえぎる水蒸気が少ないのだ。また、南極はほぼ無人で、携帯電話、テレビ放送、その他の電子機器からの電波の干渉もない。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2014.140507

原文

All you need to know about gravitational waves
  • Nature (2014-03-17) | DOI: 10.1038/nature.2014.14886
  • ※編集部訳註:日本では、岐阜県飛騨市神岡町池ノ山の地下に大型低温重力波望遠鏡(KAGRA;かぐら)の建設が進められている。2014年3月末、KAGRAを格納するためのトンネル掘削が完了した。2015年末に試験観測運転を開始し、2017年度に重力波観測運転を開始する予定である。