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進化の小さな助っ人

生物にランダムな遺伝的変異が起こり、最も有利なものが自然によって選択されるというのが、進化の古典的な考え方だ。この考え方にひとひねりを加えた研究が最近、Scienceに掲載された。生物集団のゲノムに生じた変異は、ゆとりのあるときには隠れているが、ストレスの多い状況になると表れて、適応を助けるのかもしれないという。

変異を補正しているタンパク質

この説で中心的役割を果たすのは、HSP90(熱ショックタンパク質90)というタンパク質だ。HSP90は、他のタンパク質が適切に折りたたまれた状態を維持するのを助けている。この論文の共著者であるマサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)のSusan Lindquistは、新たなストレス環境などでHSP90の働きが鈍ると、均一だった形質が突然大きく多様化することを長年にわたる研究によって突き止めた。

考え方はこうだ。HSP90が他のタンパク質を一定の形に維持しているときは、何世代もかけてタンパク質に入り込んだわずかな変異が補正されている。このHSP90の仕事がストレスによって邪魔されると、変異したタンパク質がありのままの形で放出され、生物の形質が多様化する。こうして生じた新たな形質に自然選択が働いて、適応が進む。

魚の目に表れる変化で検証

同論文の筆頭著者であるハーバード大学医学系大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)のNicolas Rohnerは、この考え方をメキシカンテトラという川魚で検証した。一部のメキシカンテトラは大昔に水中洞窟にすみつき、これらの洞窟型はそこの新環境に適応して目を失った。

Rohnerらは、目が退化していない地上型のメキシカンテトラを、HSP90阻害剤を加えた水の中で育てた。その結果、目と眼窩の大きさが多様になった。また、地上型のメキシカンテトラに水中洞窟の水と同様の化学成分の水でストレスをかけた場合も、通常よりも目のサイズのばらつきが大きい子孫が生まれた。

この発見はHSP90によって隠されていた変異がメキシカンテトラの目に変化を起こした証明にはならないものの、その見方に妥当性を与えている。HSP90に対するストレスがどのように多様性を生み出すのかは謎のままだが、活発な研究は続いている。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2014.140508a