News Scan

一方通行の音

マジックミラーも一方通行の道路も一方向の流れだけを許すが、音などの波動を一方向だけに伝えるものを作るのは難しい。これは「時間反転対称性」という基本的な性質による。AからBへ音が伝わった場合、通常はそれを逆転した過程も同様に起こり得る。あちらの音が聞こえるなら、こちらの音も届いているということだ。

テキサス大学オースティン校(米国)の電気工学者Andrea Alùらは1月、一方通行の音伝達を実現できそうな装置に関する研究結果をScienceで発表した。「音響サーキュレーター」というこの装置は、電気通信やレーダーに使われているアイソレーターに似ている。アイソレーターはマイクロ波や電波の流れを一方向に制限するもので、磁場を印加した物質に電磁波を通す。磁気的に変化した物質を通ることで、電磁波の時間反転対称性が破れるのだ。

気流で時間反転対称性を崩す

アイソレーターのこの効果の音響版を作り出すため、Alùらは1個の共鳴金属リングに3つの小さなファンを取り付けた。ファンは音の周波数に合わせたある速度で、リングに空気(つまり音波を伝える媒体)を吹き込む。このリングは等間隔に配置された3つの穴につながっていて、この穴に音波が出入りできるようになっている。

ファンが止まっているとき、ある穴から入ってきた音は他の2つの穴に同じ強さで流れる。だがファンを回すと、気流中を通過する音波の時間反転対称性が乱される。この結果、音はほぼ全て1つの穴に伝わり、気流と反対方向にある他の穴には伝わらない。

既製の部品を使って作られたこの装置は、望ましくない方向に伝わる音を1万分の1に抑えることができた。「非常に巧妙なアイデアを使ってこれまでにないものを作り上げました」とデューク大学(米国ノースカロライナ州ダラム)の電気工学者Steven Cummerは評価する(Cummerはこの研究には加わっていない)。ただ、この装置はごく限られた周波数の音でしか機能しないので、より幅広い周波数の音を制御することが今後の研究のポイントになるだろうと指摘する。

Alùらは現在、可動部品のない一方向伝達装置も追求している。今回の発見は新種の防音や騒音抑制、ソナーにつながる可能性がある。また、将来の研究で光や電波を操る新しい方法が見つかるかもしれないと、Alùは言う。

翻訳:鐘田和彦

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2014.140508b