Japanese Author

CRISPR法が世界を変える!

徳島大学・野地澄晴 他

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140418

標的とする遺伝子のDNA配列を改変できるゲノム編集技術が開発され、注目を浴びている。この技術によって、さまざまな生物種で遺伝子ノックアウトなどが可能になるのだ。また、2014年3月14〜16日に徳島大学で国際的なゲノム編集シンポジウムが開催されるに当たり、シンポジウム直前の徳島大学の研究者たちに、この技術の持つ意味と可能性について解説していただいた。また、ラットにおけるゲノム編集技術について、京都大学の真下知士准教授にお話を伺った。

–– ゲノム編集技術は、どのようなことに使えますか。

野地: 大いに期待されるのは、例えば遺伝子のノックアウト実験でしょう。特定の遺伝子を破壊して、その影響を調べるもので、遺伝子研究で必須の重要な実験法です。

これまでの方法は複雑で、マウスなどの限られた生物でしか行えませんでした。それが、ゲノム編集技術を使えば、手順が簡単なので、さまざまな生物種でノックアウトが行えるようになるのです。

–– 霊長類や昆虫など、さまざまな生物の研究分野が活気づいていると聞きますが、そういうわけなのですね。

野地: そうです。そればかりか、マウスの研究者たちも、ゲノム編集技術を採用しようとしています。

–– 遺伝子の機能を抑えるRNAi法との違いは?

刑部: 全く異なる技術です。RNAi法は、遺伝子が発現しないように抑制しているだけ。一方、ゲノム編集は、遺伝子の配列そのものを変化させますから、より確実に遺伝子の機能を調べることができるのです。

–– ゲノム編集技術は、ノックアウト以外にも使えますか?

野地: はい。遺伝子に機能を追加するノックインも可能です。他にも工夫次第で大胆な研究が行えるはずです。今、世界中の研究者が競って実験している最中でしょう。論文がどんどん報告されると思います。私たちも急がないと(一同を見渡す)。

–– この技術の基本的な原理は?

コオロギで用いたCRISPR法の原理:
①標的DNA配列を認識するガイドRNAを設計3。Cas9酵素のmRNA配列とともに、細胞に注入。
②DNAの二重らせんが開き、ガイドRNAが対形成(緑色)。
③発現したCas9タンパク質(橙色の部分)がガイドRNAに呼び込まれ、塩基CGG(赤色)の上流を切断。
④切断された部位は、次のどちらかの過程で修復される。NHEJ(非相同末端結合)による修復の場合は高い確率でエラーが起こり、塩基の挿入や欠失(ノックアウト)が生じる。HDR(相同組換え)の場合は、あらかじめ部分的に相補的なDNA断片を加えておくことで、その断片を挿入(ノックイン)できる。
*Cas酵素は何種類か存在するが、Cas9が最もよく使用されている。

刑部: 原理はシンプルです。まず、目指す標的DNA配列を見つけるガイド分子を設計し、そのガイド分子とともに働く切断酵素を細胞内で発現させます(図:コオロギで用いたCRISPR法の原理)。すると、ガイド分子に導かれた酵素が、標的DNAを切断します。DNA切断に対して細胞は修復・再結合の仕組みを働かせますが、その過程で配列が改変されることがあります。この人為的な変異を利用するのです。

CRISPR法が人気を呼ぶ理由

–– CRISPR法1,2が登場する前に、先行するZFN法、TALEN法がありますが。

刑部: これら3つの方法は、DNA配列に結合するガイドの分子が異なります。最初のZFN法と次に開発されたTALEN法は、タンパク質分子。CRISPR法(厳密には、CRISPR/Casシステムを用いる方法)では、RNA分子です。

ガイド分子は、目的に合わせて実験者が設計しますが、RNA分子の設計はタンパク質の設計に比べてはるかに簡単です。ですから、CRISPR法への関心は、先行した2つの方法とは比べものにならないくらい大きいと実感しています。

野地: 先行する方法が手の込んだ料理だとしたら、CRISPR法はインスタントラーメンの調理くらい簡単。誰でもできます(笑)。

–– ZFN法やTALEN法で実験されている最中にCRISPR法が登場してきたわけですね。

刑部: 私は、農業生物資源研究所の土岐精一先生の下で初期のゲノム編集技術を学び、技術の開発に取り組んできました。ZFN法は、ゲノム編集技術の原理を最初に具体化した方法として意義深いと思っています。また、私は先行して研究を進めていた分4、CRISPR法に移行するのも楽でした。

CRISPR法がきっかけで、ゲノム編集技術がさらに普及することをうれしく思っています。以前と異なり、今はどこの講演でも大勢の人が興味を持って参加してくれます。

–– RNA分子が目的のDNA配列を認識できるのは、なぜ?

刑部: 細菌や古細菌が持つ免疫機構で、侵入してきたウイルスなどのDNA配列を認識することのできる特殊なRNA配列(CRISPR配列と呼ばれる)を利用しています。また、DNA切断酵素Cas9を呼び込むことのできるRNA配列も、ガイド分子に加えておくのです。

いろいろな生物での課題

–– 生物種によってCRISPR法の効率に違いがあると聞きますが、それぞれの生物種を扱っている研究者の方にお話を伺いましょう。まず、コオロギではどのように利用を?

コオロギ受精卵にCRISPR法の試薬を注入する。卵は約3mm。

三戸: コオロギの魅力にとりつかれて、コオロギを用いた昆虫の発生・再生の研究に携わってきました。昆虫ではハエがよく研究されていますが、ハエが昆虫の代表というわけではありません。昆虫の発生は多様です。例えば、脚の再生の研究では、幼虫に脚があるコオロギの方が適しています。また、コオロギは体が大きいので研究しやすいのも利点です。

2年前に徳島大学の支援により、第2回国際コオロギ学会を徳島大学で開くことができました。モデル動物としてのコオロギの存在が世界的に認知されるようになり、さらに研究が進むと期待しています。

発生や再生の研究では、遺伝子発現がどのように調節されているかを調べることが極めて重要です。ゲノム編集技術が使えると、画期的に研究が進展します。コオロギを使ったゲノム編集技術は、渡辺先生と開発を進めています5

渡辺: コオロギの雌は、一度に約1000個の受精卵を生みます。その卵1個1個に、あらかじめ設計しておいたRNA分子の試薬を注入します。すると、卵の中で遺伝子改変が進みます。

試薬の注入は1時間以内に終えるようにしていますが、注入する前に卵の発生が少し進行してしまうので、全身の細胞で遺伝子改変された個体を得られるのは孫世代になります。なお現在、CRISPR法の効率を上げたりして、いろいろな応用法を工夫しているところです。

–– 植物ではどのように?

宮脇: 植物では動物と異なり、細胞は細胞壁に囲まれています。ですから試薬を注入することは容易ではありません。通常、アグロバクテリウムという細菌の感染を利用した古典的な方法で、細胞にDNA分子を導入します。刑部先生が用いているシロイヌナズナでは、このやり方でCRISPR法が使えます。

私が研究しているイチゴの場合、この手法の効率が極めて悪いのです。そこで、効率が良くしかも安全な導入法を研究しています。まずは、そうした手法の開発が重要だと思っています。

–– 新しく農工商連携センターを立ち上げられたのですね。

徳島大学農工商連携センターの植物工場でイチゴを栽培。

野地: 刑部先生や宮脇先生を中心に、植物のゲノム編集の中心地にしようと思っています。基礎研究だけでなく、イチゴ、トマト、キノコなどの品種改良の研究も行っていますよ。センターに「商」の文字を入れているのは、売るところまで面倒をみるため。消費者とのつながりが大切だと思うのです。

ゲノム編集は産業界にも大きなインパクトを与えるでしょう。農業や畜産業の品種改良などに与える影響は極めて大きいと想像されるからです。なお、CRISPR法で使うRNA分子や酵素タンパク質は、ゲノムに組み込まずに使用することが可能で(動物ではすでに実現)、やがて分解され、体内から消失してしまいます。つまり、遺伝子組換えに当たらない実験方法を開発できる可能性が高いと考えられます。

–– 最後になりましたが、マウスでのCRISPR法は?

泰江: 私は歯科医で、研究から少し離れ臨床をしていたのですが、2年半前、ゲノム編集技術のおもしろさに惹かれて研究を再開しました。マウスでは、雌雄の核が融合する前の受精卵の細胞質にRNA分子を注入することで遺伝子ノックアウトが行えます。ES細胞(胚性幹細胞)を用いた従来法では、遺伝子改変マウスを得るのに半年〜1年かかっていたのですが、CRISPR法では1カ月もあれば作製可能になります。

マウスでは、他の研究者によるノックインなどの先行研究例がすでにあるので、まずはそれらを習得・実現して、光る遺伝子を組み入むなど工夫していければと思っています。CRISPR法による遺伝子改変は簡単で、かつ多彩な操作も行いやすいので、マウスを用いたヒト疾患研究も急速に進むことが期待できます。

–– CRISPR法は、医学分野でも応用が期待されるのですね。

野地: 人工多能性幹(iPS)細胞の遺伝子改変でも成功しており、医療分野での利用も極めて盛んになるでしょう。

刑部: ゲノム編集技術の開発は、海外ではもともと、医学関連の研究者の間で盛り上がっていたのです。

–– 研究上の問題点は?

野地: 目的のDNA配列以外に影響を与えてしまう「オフターゲット効果」については、現在検討中です。倫理的な問題に注意を払わなければならないのは、当然のことです。

–– 今後、論文を発表していく人たちへのアドバイスを。

野地: 今後は、ただCRISPR法を使用したというだけでは、インパクトファクターの高い雑誌に掲載されないでしょう。それを使って何をしたかが重要になってきます。

刑部: ゲノム編集技術はもともと、より精緻に遺伝子を改変する技術として開発されてきました。テーマを決める際には、最先端の分野で障害になっているものを乗り越えるためのものがよいでしょう。今はゲノム編集技術を使った研究のバブル期で、何をやっても新しい。例えばコオロギでは何をやっても一番乗りになれますが、マウスの研究者が、「こんなこともできるのか!」と驚くようなテーマを選ぶことも必要ではないでしょうか。

–– 3月の国際会議への意気込みを聞かせてください。

野地: 世界ではどの程度応用が進んでいるか、垣間見ることができるはずです。私たちにもいろいろなアイデアがあり、早く試してみたいと思っています。

–– ありがとうございました。

聞き手は藤川良子(サイエンスライター)。

ラットのゲノム編集技術を開拓

真下知士

京都大学大学院医学研究科附属動物実験施設 准教授 博士(人間・環境学)

真下知士氏

–– 実験動物のネズミというと、ラットよりもマウスがよく用いられますね。

真下: そうなんです。しかし30年前は、ラットの方がマウスの約2倍も使用されていたのです。論文検索で調べたグラフを見てください(グラフ参照)。それが、今は逆転している。理由は明らかです。マウスでは、1990年頃に、ES細胞を用いた遺伝子ノックアウト技術が開発されたからです。

–– ラットが適しているのはどんな研究?

真下: ヒトの病気の中でも特に、代謝や神経の研究に適し、例えば高血圧、糖尿病、てんかんなどの動物モデルとして、昔から使われていました。ラットの体のサイズ(頭胴長約25cm)は、マウス(同約7cm)に比べてずっと大きいですから、実験操作で扱いやすいのも大きなメリットです。

–– 遺伝子改変技術の開発はどのように進められたのでしょうか。

真下: 多くの人たちの努力がありました。私も2002年より取り組んできました。

私自身はまず、ENU突然変異作製法という古典的な技術を改良し、2008年、標的の遺伝子をノックアウトする技術の開発に成功しました1。2010年になると、南カリフォルニア大学のグループにより、ラットのES細胞を使った遺伝子ノックアウト技術が開発され、Nature に掲載されましたが、実はこのときすでに、別のグループによりゲノム編集技術の開発が始まっていたのです。

–– ゲノム編集技術はどのように進められましたか。

真下: ゼブラフィッシュにおいて、ZFN法によるゲノム編集技術の成功が報告されたのが、2008年のことでした。これは、とんでもなく優れた画期的な方法と気付き、私はすぐにラットで試しました。報告としては、2009年末のウィスコンシン医科大学のグループに後れを取って2番目でしたが、疾患モデルの作製の論文としては一番乗りでした2

私は、これで、ラットの世界が変えられると思いました。マウスに負けていた状況を一変できると。

けれど喜んだのも束の間、ZFN法は暗礁に乗り上げました。タンパク質合成法の特許を企業が押さえていたため、自由に広めることができなかったのです。でも、その悩みはすぐに解消されました。ZFN法に代わる、TALEN法、CRISPR法という優れた方法が、次々に開発されたからです。

特に、CRISPR法はガイド分子としてタンパク質ではなくRNAを使うので、操作が格段に簡単でした。「これこそ決定的な方法」と確信しました。

–– ラットでCRISPR法を使うと、どのような遺伝子改変が可能でしょうか。

真下: 遺伝子ノックアウトが、2〜4カ月という短期間でできます。ES細胞の場合と異なり、どんな動物の系統も使用可能。複数の遺伝子のノックアウトも可能。遺伝子のノックインも、1塩基から長い配列まで可能。さらに、工夫次第で遺伝子のより精緻な改変も可能。私も今、論文を投稿中です。

CRISPR法のメリットは、マウスにおいても有効です。今後は、研究目的とする病気の種類に従って、ラットとマウスを使い分ければよいでしょう。両方のデータを比較できることも、大変貴重です。

参考文献

  1. Mashimo, T. et al. Nature Genetics 40, 514 - 515 (2008).
  2. Mashimo, T. et al. PLoS ONE 5, 8870 (2010).

参考文献

  1. Cong, L. et al. Science 339 819-823 (2013).
  2. Cho, SW. et al. Nat Biotechnol. 31 230-232 (2013).
  3. Mali, P. et al., Science, 339, 823-826 (2013).
  4. Osakabe, K. et al. PNAS. 106, 12037-12039 (2010).
  5. Watanabe, T. et al. Nat Commun. 3 1017 (2012).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度