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造血幹細胞にも性差がある

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140426

原文:Nature (2014-01-23) | doi: 10.1038/505488a | Sex specificity in the blood

Dena S. Leeman & Anne Brunet

血球を作り出す造血幹細胞は、エストロゲンに応答して、雄より雌のマウスでより頻繁に分裂することが分かった。これはおそらく、雌が妊娠時により多くの血液を必要とするようになることに備えているためだろう。

雄と雌では、生殖器だけでなく、性的二型性を示す組織(乳腺や脳や筋肉など)にも違いが見られる。そのような組織では、自己複製能を持ち、分化した細胞を作り出して組織の維持と修復を行う「幹細胞」の活動も、雄と雌とで異なることが分かっている1-4。一方で、血液や腸など目立った性差のない組織の幹細胞の機能にも性的二型性が見られるかどうかについては、基本的な疑問であるにもかかわらず、答えはまだ出ていない。今回、ベイラー医科大学(米国テキサス州ヒューストン)の中田大介ら5は、血液系と免疫系の細胞を作り出す造血系の幹細胞の挙動が雄と雌では確かに異なることを見いだし、2014年1月23号のNatureに報告した。著者らは、雌の造血幹細胞(HSC)がホルモンであるエストロゲンのシグナルに反応することを明らかにした。このおかげで、母親マウスは妊娠中の造血要求に応えられるようになるらしい。

HSCは骨髄に存在し、全ての血液細胞を産生する。産生された血液細胞は、免疫から凝固系、酸素運搬にまで及ぶさまざまな過程を仲介する。中田らは、基本条件下(妊娠しておらず、かつ感染症や腫瘍などがない状態)では、雌のHSCとその直近の子孫である多能性前駆細胞(MPP)は、雄のHSCより頻繁に分裂して、より多くの赤芽球前駆細胞(赤血球となる細胞)を生み出すことを突き止めた。

基本条件下では、HSCの数は雌雄で同じであり、骨髄と脾臓(骨髄と同じく造血細胞が集まっている器官)での細胞の構成も類似している。中田らが示したように、雌ではHSCの分裂頻度が高いのであれば、雌のHSCの数はどのように制御されているのだろうか。著者らはそれについて、雌のHSCの分裂はより非対称的で、娘細胞の片方が幹細胞のまま残り、もう一方は赤血球系列になるものの、新生された赤芽球前駆細胞は高率で細胞死に至ると示唆している(図1)。HSCの性的二型性がこれまで観察されなかったのは、こうした違いによるのかもしれない。

また著者らは、妊娠中にはHSCの増殖がさらに亢進して骨髄と脾臓のHSC数が増加し、脾臓では赤血球系列細胞が増加していることを観察した。つまり、雌のHSCは妊娠中の血液需要の増加に「備えて」いるように思われる。

図1:エストロゲンによる幹細胞周期の調節
中田ら5は、造血幹細胞(HSC)がエストロゲンシグナルに応答すること、そしてこの応答によって雌のHSCは雄のHSCよりも頻繁に分裂(円形の矢印)して、赤血球に分化する赤芽球前駆細胞をより多く産生することを報告した。エストロゲンシグナルに対する応答はこうした性差があるにもかかわらず、基本条件下では雄と雌とで骨髄と脾臓における細胞構成は同じに保たれている。雌では赤芽球前駆細胞が細胞死に至る確率が高いからだ。しかし、妊娠中にはエストロゲンレベルが上昇するため、骨髄と脾臓のHSC数は増加し、脾臓でより多くの赤血球が作られるようになる。この応答は、妊娠中の雌の造血要求に応えるために重要な役割を果たしていると考えられる。

中田らはまた、HSCに性的二型性をもたらす物質がエストロゲンであることを特定した(図1)。著者らは、雌では、卵巣摘出またはアロマターゼ(エストロゲン生成に必要な酵素)の薬理学的阻害によってHSCとMPPの増殖の割合は低下するが、正常な雌、卵巣を摘出した雌では、エストラジオール(雌の主要なエストロゲン)を注射投与することでHSC増殖が亢進して造血が促進することを発見した(雄でもエストラジオールの注射により、造血は促進した)。最近、エストラジオール注射が骨髄細胞の一部で細胞増殖を引き起こすことが報告された6。中田らのチームの結果はこの研究をさらに進めるものであり、エストロゲンがHSC特異的に作用するためには生理的濃度で十分なことを示したのである。また著者らは、HSCではエストロゲン受容体α(ERα)をコードする遺伝子Esr1がHSCで高度に発現しており、雌のHSC増殖の亢進には基本条件下でも妊娠中でもEsr1の発現が必要であることも明らかにした。さらに彼らは、エストラジオールによって野生型のHSCは増殖が亢進するが、Esr1が欠失したHSCはエストラジオールによっても増殖が亢進しないことを見いだした。この結果からHSCのエストロゲンへの応答は、ERαを介していることが強く示唆される。

こうした発見から、妊娠などの生物学的機能の調整のためには、性的二型性を示さない器官による性ホルモンの感知が必要だという興味深い可能性が浮かび上がる。よって、今後解明すべき重要な疑問は、エストロゲンで誘発される造血細胞の増殖亢進が、妊娠の成功、そして母親または胎児の健康に必要かどうかであろう。また、HSCのERαの作用機序や標的遺伝子も分かっていないため、これらの疑問が解明されれば、エストロゲンで誘発されるHSC増殖についての理解が進み、他の幹細胞でのエストロゲン誘発性応答とどのように違うのかが明らかになってくるだろう。

HSCの増殖が亢進している多くの遺伝子組換えマウス系統や突然変異のマウス系統では、HSCプールが早期に枯渇することが分かっている7。ということは、雌では、雄に比べてHSCがより枯渇した状態が長期にわたるのだろうか? HSCは静止状態にあることが多く、静止状態を保つことで細胞呼吸とDNA複製エラーによる損傷から自身を保護していると考えられている。しかし、細胞分裂周期にあるHSCの方が、静止状態のHSCよりもDNA修復が効率的に行われることが以前から示唆されている8,9。従って、雌のHSCには、増殖の亢進によって引き起こされるHSCの枯渇を防ぐ性特異的なメカニズムが備わっているかどうかも検討すべきだろう。そこから、HSCが早期の枯渇や形質転換を起こさずに増殖の亢進を維持し続けられるメカニズムが明らかになるかもしれない。

組織特異的な幹細胞は、体の全身的要求に応じて発せられる長距離シグナルを受け、組織内にて、もしくは、組織外へ移動するなどの調整を受ける。では、それはいつ、どのように起こるのだろうか? こうした疑問の解明に取り組む研究も始まっている。幹細胞機能は、食餌、概日リズム、運動、交配、および妊娠などの全身性シグナルによって影響を受ける2。例えば妊娠中には、エストロゲンとプロゲステロンのレベルが上昇し、これによって乳腺再構築に必要とされる乳腺幹細胞の増殖が亢進する3。また、プロラクチンというホルモンの増加は膵β細胞の産生10と神経幹細胞の増殖を誘発する4。前者は、妊娠中に増大する雌の代謝負荷に対する応答に、後者は、産後に雌が産仔を我が子だと認識することに関係するのかもしれない。中田らは今回、長距離シグナルは特定の全身的要求に応答して作用するだけでなく、基本条件下においては幹細胞を準備状態、すなわち妊娠が起こったときにすぐに反応できるような状態にしているという新たな概念を提起している。

幹細胞の性的二型性に関する研究はまだ少なく、幹細胞研究の多くは、片方の性だけで行われているか、その分析において性差が考慮されていない。中田らの研究は、基本的な幹細胞生物学、幹細胞に関連する疾患、および再生医療についての理解を深めるためには性差に注意を向けることが不可欠であることを示唆している。また今回の研究結果は、十分に解明が進んでいないさまざまな性差の説明となる可能性もある。例えば、マウスにヒトHSCを移植した場合、雄のマウスに比べて雌のマウスの方が生着しやすい11が、これはエストロゲンに起因している可能性がある。また、ヒトの骨髄移植では女性のドナーから移植された場合の方がテロメア(染色体末端部の特定の塩基配列で、細胞分裂のたびに短くなっていく)の短縮速度が遅いという観察結果12もあり、これはHSCの枯渇を防ぐ機構が、雌のHSCの方がより整っていることを反映しているのかもしれない。

ヒトの疾患には性的な偏りが見られるものもあるが、幹細胞の性的二型性の調節についての研究がさらに進めば、その理由についてのヒントも得られる可能性がある。例えば、成熟血液細胞(赤血球の場合が多い)の産生の低下を特徴とする骨髄異形成症候群や血球減少症13は、男性の方が発症率が高い。こうした偏りは、中田らの結果に照らして考えると興味深い。中田らは、雄のマウスではHSC増殖と造血の基礎的レベルが低いことを見いだしているからだ。従って今回の研究成果は、一見すると性的二型性を示さない器官の病気であっても、疾病の原因と治療を研究する上では性差を考慮することが重要になる可能性があるという、これまでにない考え方を示している。

(翻訳:古川奈々子)

Dena S. Leeman とAnne Brunet は、スタンフォード大学遺伝学部に所属。

参考文献

  1. Nakada, D., Levi, B. P. & Morrison, S. J. Neuron 70, 703-718 (2011).
  2. Shingo, T. et al. Science 299, 117-120 (2003).
  3. Ray, R. et al. Mol. Med. 14, 493-501 (2008).
  4. Deasy, B. M. et al. J. Cell Biol. 177, 73-86 (2007).
  5. Nakada, D. et al. Nature 505, 555-558 (2014).
  6. Illing, A. et al. Haematologica 97, 1131-1135 (2012).
  7. Orford, K. W. & Scadden, D. T. Nature Rev. Genet. 9, 115-128 (2008).
  8. Mandal, P. K., Blanpain, C. & Rossi, D. J. Nature Rev. Mol. Cell Biol. 12, 198-202 (2011).
  9. Mohrin, M. et al. Cell Stem Cell 7, 174-185 (2010).
  10. Nielsen, J. H., Svensson, C., Galsgaard, E. D., Møldrup, A. & Billestrup, N. J. Mol. Med. 77, 62-66 (1999).
  11. Notta, F., Doulatov, S. & Dick, J. E. Blood 115, 3704-3707 (2010).
  12. Baerlocher, G. M. et al. Blood 114, 219-222 (2009).
  13. Jain, A. & Naniwadekar, M. BMC Hematol. 13, 10 (2013).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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