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脳の修理にエクソソーム

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140407ab

細胞内にある小胞が神経損傷の修復に関与

活動的な生活は脳を健康にすると考えられてきた。数々の研究がそれを裏付けており、身体的・知的・社会的な活動(専門用語で「環境エンリッチメント」と呼ばれるもの)は学習と記憶を強化し、老化と神経疾患を防ぐことが分かっている。

最近の研究で、刺激豊かな環境が細胞レベルで利点をもたらすことが示された。脳細胞のミエリン鞘が修復されるのだ。ミエリン鞘は軸索(神経線維)を保護している絶縁膜で、加齢や損傷、多発性硬化症などの疾患によって失われる。

環境エンリッチメントによるミエリン修復には、細胞に自然に存在する「エクソソーム」という小胞が関与しているようだ。エクソソームは内部にタンパク質と遺伝物質を収めた小さな袋である。シグナル伝達分子が詰まったエクソソームが「手紙入りの小瓶」となって全身に拡散するのだと、米国立衛生研究所(NIH)の神経生物学者R. Douglas Fields。

エクソソームは特定の細胞を標的として、その細胞のふるまいを変える。刺激豊かな環境下で免疫細胞から分泌されたエクソソームにより、脳細胞のミエリン修復が引き起こされることが動物実験で示された。病気診断用のバイオマーカーや抗がん剤などを輸送する媒体として使える可能性もある。

刺激豊かな環境下で生じたエクソソームは「マイクロRNA」を運んでおり、このマイクロRNAが脳内の未成熟な細胞の、ミエリンを作り出すオリゴデンドロサイトという細胞への分化を促すらしい。シカゴ大学(米国)の研究チームは、ラットの血液からエクソソームを抽出し、これを高齢のラットに投与したところ、ミエリンのレベルが62%上昇した。この成果は、2014年2月のGliaに報告された。

研究チームは将来の治療に向けて、エクソソームを体外で作り出す方法も開発した。骨髄から取り出した免疫細胞を刺激することで「自然の環境エンリッチメントをシャーレ内で模擬できた」と、シカゴ大学の神経学者Richard Kraig。

Kraigらは現在、エクソソームを多発性硬化症の治療薬にする方法を探っている。彼らは、実験室で育てたエクソソームは多発性硬化症による損傷を模擬したラットの脳組織でミエリン産生を刺激し、ミエリンのレベルを正常値の77%まで回復させたと、 Journal of Neuroimmunologyに報告。

次のステップは免疫細胞から採取したエクソソームが実際に病気の動物で効果的に働くかどうかを調べることだと、同研究チームのAya Pusicは言う。Pusicは、うまくいけば5年以内に人間での臨床試験まで進むだろうとみている。

(翻訳:粟木瑞穂)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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