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ナルコレプシーは自己免疫疾患であることが確定

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140405

原文:Nature (2013-12-18) | doi: 10.1038/nature.2013.14413 | Narcolepsy confirmed as autoimmune disease

Ed Yong

Science Translational Medicine 2013年12月18日号に掲載された当該論文は、2014年7月30日に著者により取り下げられました。理由は、論文の構成上重要な実験が再現できなかったためということです。

2009年の新型インフルエンザ大流行とそれに対するワクチンの接種に付随して、ナルコレプシーという睡眠障害が多発した。この原因を解析した結果、 ナルコレプシーが自己免疫疾患だとする決定的な証拠が示された。

Credit: THINKSTOCK

2009年に新型インフルエンザ(A型H1N1亜型、ブタ由来インフルエンザとも呼ばれる)が世界的に大流行した際、中国ではナルコレプシーが多発した。この病気は、日中に時と場所を選ばず猛烈な眠気の発作に襲われる睡眠障害で、発症すると長年にわたって症状が表れるが、その原因についてはいまだ解明されていない部分も多い。一方欧州では、この新型インフルエンザウイルスの断片を含む「Pandemrix」というワクチン(現在は使われていない)を接種した子ども1万5000人におよそ1人が、やはりナルコレプシーを発症した。

これらの奇妙な現象について、スタンフォード大学医学系大学院(米国カリフォルニア州)の免疫学者Elizabeth Mellinsとナルコレプシー研究者Emmanuel Mignotの研究チームが、その謎の一部を解き明かし、Science Translational Medicineで発表した1。この報告は同時に、ナルコレプシーが自己免疫疾患であること、つまり免疫系が自身の体の健康な細胞を攻撃する疾患だとする以前からの仮説を証明することにもなった。

ナルコレプシーは主に、覚醒状態を維持するヒポクレチン(別名オレキシン)と呼ばれるホルモンを産生するニューロン(神経細胞)が次第に減少することによって引き起こされる。ヒポクレチン産生ニューロンの減少には免疫系が関わっているに違いないと多くの研究者が疑っていたが、その直接的な証拠が見つかったのは今回が初めてだ。スタンフォード大学の研究チームは、免疫を担う細胞の一種であるCD4+ T細胞を調べ、ナルコレプシー患者にのみヒポクレチンを標的とする特定のT細胞群が見られることを発見したのだ。

「ヒポクレチンを標的とする特定のT細胞群は、ナルコレプシーが自己免疫疾患であることの決定的な証拠になると考えています」とMellinsは話す。

ハーバード大学医学系大学院(マサチューセッツ州ボストン)の神経科医Thomas Scammellは、「今回の朗報に至るまで何年もの間、小さな失望を何度となく味わってきました。今回の研究は、近年のナルコレプシー研究の中で最も大きな成果の1つです」と話す。これまで、体内で作られたヒポクレチンに対する自己抗体を見つけようとする試みは、次々と失敗に終わっていたからだ。

未解決の問題

ヒポクレチンを標的とするT細胞群が一部の人々でのみ作られる理由はまだ明らかでないが、これには遺伝学的な問題が関わっている可能性がある。Mignotは以前の研究2で、一般集団では25%にしか見られない型のHLA(ヒト白血球抗原)遺伝子が、ナルコレプシー患者の98%に見られることを発見している。

また、感染症などの外的要因も関わっている可能性がある。Mellinsが考えているメカニズムは、遺伝的素因(ナルコレプシーに関連する変異型遺伝子をいくつか保有することなど)を持つ人々が、ヒポクレチンにそっくりで免疫系の応答を引き起こすような外的要因に遭遇した場合に、ナルコレプシーを発症するというものだ。今回、ヒポクレチンを認識する特殊なCD4+ T細胞群がH1N1ウイルスに由来するタンパク質も認識することが明らかになったことで、2009年のH1N1インフルエンザウイルスもそうした免疫応答を引き起こす外的因子の1つであることが確かめられたわけである。

もちろん、ナルコレプシーを発症する患者は2009年のH1N1インフルエンザ大流行のずっと前から存在していた。また、この疾患は、冬の直後、つまりインフルエンザの季節的なピークの後に新しい患者が出る傾向があるため、他のインフルエンザウイルス株もしくはインフルエンザ以外のウイルスが関与している可能性もある。

なお、ワクチン「Pandemrix」に関する謎は今回の結果からは完全に説明できない。というのも、他のインフルエンザワクチンにも同じタンパク質が含まれているが、ナルコレプシーが多発しているわけではないからだ。

未解決の問題は他にもある。「今回の研究では、問題のT細胞群がヒポクレチン産生ニューロンを死滅させる仕組みが明らかにされていません。殺人事件の推理小説を読んでいるのと同じで、本当の殺人者が誰なのかまだ分かっていないのです」とScammellは話す。彼は、問題のT細胞群が真犯人である可能性は低く、これらのT細胞は、中間物質を介して働いているか、もしくは何か他の破壊的な出来事の結果生じたのではないかと考えている。

(翻訳:船田晶子、要約:編集部)

参考文献

  1. De la Herrán-Arita, A. K. et al. Sci. Trans. Med. 5, 216ra176 (2013).
  2. Mignot, E. et al. Am. J. Hum. Genet. 68, 686–699 (2001).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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