News & Views

水蒸気を噴き出す準惑星ケレス

地表面の2領域から水蒸気を放出する準惑星ケレス(想像図)。

Credit: IMCCE-OBSERVATOIRE DE PARIS/CNRS/Y.GOMINET, B. CARRY

ケレスは太陽系の小惑星帯最大の天体で、直径は約950kmある。1801年に最初の小惑星として発見され、2006年の国際天文学連合による惑星の再定義に基づいて新たに「準惑星」に分類された。このたび、欧州宇宙機関(ESA)欧州宇宙天文学センター(スペイン・マドリード近郊)のMichael Küppersらは、ESAが2009年に打ち上げた赤外線宇宙望遠鏡、ハーシェル宇宙望遠鏡を使って、ケレスの表面から毎秒約2×1026個の水分子(質量にして6kg)が水蒸気として噴き出していることを見いだし、Nature 2014年1月23日号525ページに報告した1

小惑星における水の存在およびその存在度は2,3、地球上の水や生命の起源から、木星などの巨大惑星の大規模移動に至るまで、太陽系についての多くの研究分野に関係する重要な情報である。ケレスに関しても、水が重要な成分であることは30年以上前から推測されていたが4、今回の観測で初めて、ケレス表面の2つの領域から水分子が放出されていることが直接的に検出された。この結果は、ケレス内部に水があることを示唆したこれまでの間接的な観測結果を裏付けるものだ5,6。また、米航空宇宙局(NASA)が2007年に打ち上げた探査機ドーンが、もう1つの興味深い太陽系天体である小惑星ベスタ(直径約500km)の探査を無事に終え、間もなくケレスを訪れることを考えると、タイムリーな発見といえる7

小惑星の起源と進化に関する最も不可解な問題の1つは、ベスタとケレスがなぜこれほど異なっているか、である。両者は、いずれも火星と木星の軌道の間の小惑星帯にあり、その軌道は互いに非常に近く、太陽からの距離はベスタが約2.4天文単位(au;1auは太陽・地球間の平均距離)、ケレスが約2.8auとさして変わらない。しかし、両者の組成と外見は正反対だ。ベスタは小惑星全体にわたる加熱や火山噴火を経験しているのに対し、ケレスは表面も内部も、岩石が溶けるほどの高温に達したことはない。

小惑星ベスタとNASAの探査機ドーン(想像図)。ドーンは、2011年7月から1年余りにわたってベスタを間近で観測し、その表面が予想以上に複雑で起伏の激しい地形に覆われていること、それらが大規模な天体衝突によるとみられること、ベスタ史上最大級の天体衝突がわずか10億年ほど前に起きていたこと、などを明らかにした。ドーンは続いて2015年に準惑星ケレスの探査を開始する。

Credit: NASA/JPL-CALTECH

興味深いのは、2つの天体の現在の姿が全く異なったものになったのは、ケレスにはベスタよりもはるかに多くの水があったためかもしれない、ということだ8。Küppersらが今回観測した水蒸気の源が、ケレスでの岩石の融解を妨げた熱散逸プロセスに関係している可能性があるのだ。水蒸気の発生メカニズムの1つとして、地中の氷が融解し、それが表面に流れ出て宇宙空間に蒸発するというモデルが提案されている。水蒸気は大量の熱を運ぶことができるため、約46億年前にケレスが形成したとき、水でできた氷が昇華するのに伴い、内部の熱が宇宙空間へと効率的に散逸したと考えられる。この熱散逸によって、ケレスの表面はベスタのように火成岩に覆われるのを免れたのかもしれない。

もしも実際に、ケレスとベスタの形成時にこうしたことが起きていたとすれば、形成時のケレスにはなぜベスタよりも多くの水があったのか、またケレスにはなぜ今でも水があるのか、という疑問が生じるだろう。最も可能性の高い答えは、ケレスはベスタとは異なり、初期の太陽系において水のスノーライン(太陽から離れるにつれて温度が下がり、水が凍り始める境界線)の外側の低温領域で形成したから、というものだ。しかしこの仮説はさらに、なぜケレスとベスタは今、互いにこれほど近くにあるのか、という次の疑問を生む。これに対しては、小惑星や惑星の形成後間もない時期に、太陽系の内側と外側の領域の物質が混合したためではないかという説が提案されている。この混合は、木星のような巨大惑星の軌道の移動によって引き起こされたと考えられており9、これが、ケレスとベスタを遠く離れた形成場所から現在の位置へと移動させた可能性がある。

太陽系天体の大きさの比較。準惑星ケレスや小惑星ベスタは、地球の衛星である月よりもはるかに小さい。

Credit: NASA/JPL-CALTECH/UCLA

太陽系の巨大惑星が大きく移動したとする仮説の基になった最初の手掛かりは、太陽系外の巨大惑星の中には、親星との距離が、太陽系における水星・太陽間の距離よりも近いものがあるという1995年の発見だった10。木星サイズで高温環境にあることから「ホットジュピター」と呼ばれるこれらの惑星は、巨大惑星が形成するはずのない距離の軌道を回っている。ホットジュピターの成因については、親星から遠く離れた領域で形成した後に、現在の軌道まで大規模移動して親星に近づいた、と考えるのが現在のところ最も合理的だ。

以来、太陽系に関するいくつかの理解の難しい事柄が、惑星の移動で説明されるようになった。例えば、小惑星帯で組成の異なる複数の小惑星グループの存在が観測されていることや、約40億年前に太陽系の惑星に激しい天体衝突が起こった時期(後期重爆撃期と呼ばれる)があったことは、木星の移動が原因だった可能性がある9,11-13。このシナリオでは、木星などの巨大惑星の移動によって、岩石や氷でできた太陽系小天体(小惑星や彗星)集団の軌道が乱れ、そうした小天体が初期の地球や月に衝突したと考えられている。このとき、小天体は地球に有機分子や水を届けたはずであり、だとすれば、太陽系初期の小惑星や彗星の衝突が、地球における生命の起源と進化にかなり重要な役割を果たした可能性がある。

近年、巨大惑星移動とその関連プロセスが太陽系の初期の歴史を形作ったとする、複数の説が登場している。これらの説は、今回Küppersらがケレスの周囲で水蒸気を検出したことや、ケレスとベスタに関してすでに分かっていることと矛盾しない。だが、太陽系の形成というパズルのピースは、まだ全てぴったりと合っているわけではない。我々が小惑星と呼ぶ、この小さな世界をさらに調べることで、今後より多くの発見があることだろう。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 4

DOI: 10.1038/ndigest.2014.140428

原文

Evaporating asteroid
  • Nature (2014-01-23) | DOI: 10.1038/505487a
  • Humberto Campins & Christine M. Comfort
  • Humberto CampinsとChristine M. Comfortはセントラルフロリダ大学(米国オーランド)に所属。

参考文献

  1. Küppers, M. et al. Nature 505, 525–527 (2014).
  2. Campins, H. et al. Nature 464, 1320–1321 (2010).
  3. Rivkin, A. S. & Emery, J. P. Nature 464, 1322–1323 (2010).
  4. Lebofsky, L. A. Mon. Not. R. Astron. Soc. 182, 17–21 (1978).
  5. A’Hearn, M. F. & Feldman, P. D. Icarus 98, 54–60 (1992).
  6. Rivkin, A. S., Howell, E. S., Vilas, F. & Lebofsky, L. A. in Asteroids III (eds Bottke, W. F. Jr, Cellino, A., Paolicchi, P. & Binzel, R. P.) 235–253 (Univ. Arizona Press, 2002).
  7. Russell, C. T. & Raymond, C. A. Space Sci. Rev. 163, 3–23 (2011).
  8. McCord, T. B. & Sotin, C. J. Geophys. Res. 110, E05009 (2005).
  9. Walsh, K., Morbidelli, A., Raymond, S., O’Brien, D. & Mandell, A. Meteorit. Planet. Sci. 47, 1941–1947 (2012).
  10. Mayor, M. & Queloz, D. Nature 378, 355–359 (1995).
  11. Tsiganis, K., Gomes, R., Morbidelli, A. & Levison, H. F. Nature 435, 459–461 (2005).
  12. Morbidelli, A., Levison, H. F., Tsiganis, K. & Gomes, R. Nature 435, 462–465 (2005).
  13. Gomes, R., Levison, H. F., Tsiganis, K. & Morbidelli, A. Nature 435, 466–469 (2005).