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電子顕微鏡でイオンチャネルの構造を決定

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140324

原文:Nature (2013-12-05) | doi: 10.1038/504093a | Ion channel seen by electron microscopy

Richard Henderson

これまで解析が困難であった熱感受性TRPV1イオンチャネルの構造が、単粒子低温電子顕微鏡を使って解明された。

TRP(transient receptor potential)イオンチャネルとして知られる膜タンパク質は、酵母からヒトに至るまで、さまざまな種に存在する。この受容体ファミリーのメンバーは、視覚、味覚、高温または低温、pH、物理的な力など、膨大な種類の刺激の認識に関与する1。このたびカリフォルニア大学サンフランシスコ校(米国)のYifan ChengとDavid Juliusが率いる研究グループ2が、TRPV1(熱を感知するイオンチャネル)の構造を初めて高分解能(高解像度)で観察することに成功し、Nature 2013年12月5日号に発表した。さらに、同号に掲載された同グループのもう1報の論文3では、3種類のリガンド分子がTRPV1と結合する部位、そしてリガンドの結合によってチャネルが開く仕組みについて報告している。

現在、ヒトのTRP受容体ファミリーとして知られるタンパク質は27種類あり、そのメンバーはそれぞれ独自の機能を持ち、異なる組織分布を示す。TRPV1は、1997年にカプサイシン(唐辛子の辛味成分)の受容体として遺伝子がクローニングされた4。TRPV1チャネルは4つの同一サブユニットで構成され、今回の研究に使用された変異型TRPV1チャネルの総分子量は約300キロダルトンに及び、イオンチャネルとしては飛び抜けて大きい。

TRPV1は、トウダイグサ属植物のレシニフェラトキシンやタランチュラ毒に代表される「シスチンノット」を持つ神経ペプチドによっても強く活性化される。これらの刺激物質は、捕食者から身を守る手段として進化したと考えられており、このような物質にさらされた捕食者はTRPV1が活性化され、正常な熱感知ができなくなり灼熱感が引き起こされる。

研究グループがTRPV1の構造解明に用いた手法は、十分確立された構造生物学的手法であるX線結晶構造解析ではなく、単粒子低温電子顕微鏡(以下、低温EM)法だ。研究グループは、低温EMに先進技術を組み合わせることで高分解能での構造解析を実現した。彼らはまず、ラットTRPV1の一部を欠失させて生化学的に安定なコンストラクトを作製した。次に、このイオンチャネルを精製し、それを「アンフィポル」(両親媒性ポリマー)骨格5に移すことで、精製タンパク質の安定性と水溶性を維持した。そして、電子を直接検出(ノイズを最小限に抑えて照射時の画像ぼけを補償6,7)するカメラと、統計的手法を利用した最先端のコンピュータープログラムを用いて、タンパク質粒子の向きを推定し、非常に正確に構造再構成の計算を行ったのである8

研究グループは、最初にEMで分解能30オングストローム(Å)の構造を得た後、低温EMで分解能8.8Åの構造を得て、最終的に分解能3.4Åの領域を含むマップを得る、という手順で解析を進めた。3.4Åという分解能があれば、アミノ酸側鎖やβシートを認識できるし、タンパク質のポリペプチド骨格を探すこともできる。なお、低温EMを用いてTRPチャネルを解析した研究は過去にもある9,10が、そのときの分解能はせいぜい15~19Åであった。従って、今回の成果は、単粒子低温EM法を発展させたという点と、単粒子低温EM法を利用して他の手法では研究困難であった高分子複合体の構造に取り組んだという2つの点で、画期的であると言える。特筆すべきは、マップの最高分解能領域がTRPV1分子の中心付近にあったことだ。

図1:閉じた状態と開いた状態のTRPV1
低温電子顕微鏡を用いて決定された構造 2,3 に基づき、閉じた状態と開いた状態のTRPV1イオンチャネルの断面を表した。チャネルは4つの同一サブユニットで構成されるが、そのうちの2つのみを図示している。各サブユニット中のヘリックスに名前を記したが、S1からS4までのヘリックスの束は1つの物体としてまとめて表した。
a. 閉じた状態から、2つのゲートの存在が見て取れる。ゲート1は細胞外表面の近くにあり、ゲート2はチャネルの深部にある。
b. ゲート1はタランチュラ毒の結合に応答して開き、ゲート2はカプサイシンやレシニフェラトキシンが結合することで開く。矢印は、チャネルをカルシウムイオンが通過することを表す。

また研究グループは、TRPチャネルの全体構造が電位依存性のナトリウムチャネルやカリウムチャネル11などの別グループのイオンチャネルと似ていることを確認した。イオンチャネルスーパーファミリーのメンバーは全て、中央部にイオンが通る細孔(ポア)を持っている。図1に示すように、各サブユニット(ナトリウムチャネルの場合は各ドメイン)は、カルボキシ末端側の膜貫通αヘリックス2本(S5、S6)、短いヘリックス(ポアヘリックス)を持つループ1本、アミノ末端側の4本の膜貫通ヘリックス(S1-S4)の束からなる電位センサーモジュールで構成されており、4つのサブユニットが取り囲むことによってポアが形作られている。しかし、TRPチャネルのS4は、電位依存性ゲーティング(膜を横切る電位差によるチャネルの開口)に関与する特徴的な塩基性アミノ酸残基を1個または2個しか持っていない。この点において、TRPチャネルは、MlotiK1と呼ばれるヌクレオチド依存性チャネル12に類似している。MlotiK1も、S4に塩基性アミノ酸残基がほとんど含まれておらず、密なS1-S4ドメインは膜電位に対する感受性が低い。そして研究グループが示したように、TRPV1のS1-S4は、活性化している間も動くことはない。それにもかかわらず、TRPV1チャネルは、高温やリガンドの結合が引き金となって、電位にそれほど依存しない機構で開口する。では、その開口はどのような仕組みで起こるのだろうか?

研究グループは、リガンドの大きさによってTRPV1の結合部位が異なることを見いだした。つまり、サイズの大きいタランチュラ毒の結合部位と、サイズの小さいレシニフェラトキシンとカプサイシンの結合部位は離れた場所にあるのだ。タランチュラ毒は、TRPV1チャネルの細胞外表面のポアヘリックス付近に結合し、タランチュラ毒の2個のシスチンノット・ドメインがそれぞれTRPV1サブユニット間の接合部に結合する。これがきっかけとなり、細胞外側のゲート(図1のゲート1)が開くというわけだ。

彼らはさらに、カプサイシンの結合部位(レシニフェラトキシンの結合部位と本質的に同じ)についても、やや不確かであるが、特定を行った。カプサイシンの結合部位は、細胞質側に向けて深く膜内に入り込んだ空洞部にあり、S3、S4、S4-S5リンカー、隣接サブユニットのS6によって囲まれている所と考えられる。結合したリガンドは、S4-S5リンカーとの密接な相互作用を通して、TRPV1チャネルの構造変化を誘発する。この構造変化によってS6が移動し、ポアの直径が広がるのだ(図1のゲート2)。このように、TRPV1は、チャネルの両端に1つずつ、合計2つのゲートを持つようである。研究グループらの解析の大きな成果は、この二重ゲーティング機構を発見したことと、異なる刺激に応答する2つのゲートの相互作用が複雑である可能性を推測したことと言える。

S6のC末端に隣接するアミノ酸モチーフには、TRPチャネルに特徴的なTRPボックスがある。今回決定された構造から、TRPボックスは膜に平行な短いαヘリックス(TRPヘリックス)で構成されることが示された。このαヘリックスは、S4-S5リンカーともう1本のヘリックス(pre-S1ヘリックス)の両方と相互作用しているが、活性化状態ではその位置関係が崩れる。

今回の研究では、TRPV1が温度に応答して活性化される仕組みは明らかにされていない。温度による活性化はおそらく、開状態と閉状態の間のエネルギー差の微妙なバランスに依存しており、構造解析を通して取り組むことが難しいのであろう。それでも、今回決定された新しい構造を熱活性化のシミュレーションに役立てることができるはずだ。それは、今回の手法が熱によるチャネル開閉時のさまざまな状態を捉えるのに適している、という研究グループの示唆からも読み取れる。

今後は、検出器の効率向上、試料作成方法と画像処理ソフトウエアの改良によって、構造生物学分野の低温EM利用が進むはずだと考えられる。TRPV1などのイオンチャネルは、鎮痛薬開発のターゲットになり得る。今回の研究成果がきっかけとなり、「合理的薬物設計に役立つ低温EM技術」の時代が幕を開けるかもしれない。

(翻訳:藤野正美、要約:編集部)

Richard Hendersonは、MRC分子生物学研究所(英国ケンブリッジ)に所属。

参考文献

  1. Venkatachalam, K. & Montell, C. Annu. Rev. Biochem. 76, 387–417 (2007).
  2. Liao, M., Cao, E., Julius, D. & Cheng, Y. Nature 504, 107–112 (2013).
  3. Cao, E., Liao, M., Cheng, Y. & Julius, D. Nature 504, 113–118 (2013).
  4. Caterina, M. J. et al. Nature 389, 816–824 (1997).
  5. Popot, J.-L. et al. Annu. Rev. Biophys. 40, 379–408 (2011).
  6. Li, X. et al. Nature Meth. 10, 584–590 (2013).
  7. Bai, X. C., Fernandez, I. S., McMullan, G. & Scheres, S. H. W. eLife 2, e00461 (2013).
  8. Scheres, S. H. W. J. Struct. Biol. 180, 519–530 (2012).
  9. Mio, K. et al. J. Mol. Biol. 367, 373–383 (2007).
  10. Moiseenkova-Bell, V. Y., Stanciu, L. A., Serysheva, I. I., Tobe, B. J. & Wensel, T. G. Proc. Natl Acad. Sci. USA 105, 7451–7455 (2008).
  11. Long, S. B., Tao, X., Campbell, E. B. & MacKinnon, R. Nature 450, 376–382 (2007).
  12. Clayton, G. M. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 105, 1511–1515 (2008).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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