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軟骨魚類に骨がない理由

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140307

原文:Nature (2014-01-08) | doi: 10.1038/nature.2014.14487 | Why sharks have no bones

Brendan Borrell

今回、軟骨魚類として初めて、ゾウギンザメの全ゲノム塩基配列が解読され、脊椎動物の初期進化を知るための重要な手掛かりが得られた。

ゾウギンザメは4億2000万年前からほとんど変わっていないため、そのDNA塩基配列は、他の脊椎動物種と比較解析を行う際の参照用データとして大いに役立つ。

Credit: B. Venkatesh

鼻先が奇妙な形に飛び出たゾウギンザメ(Callorhinchus milii)のゲノム塩基配列が解読された。ゾウギンザメは、ゲノムがこれまでに解読された中で最も原始的な有顎脊椎動物(顎口類)である。この論文はNatureの2014年1月9日号に掲載された1。ゾウギンザメのDNA塩基配列データは、軟骨魚類がなぜ骨(硬骨)を持たないのか、また、ヒトを含む脊椎動物がどのようにして獲得免疫を進化させたのかを解明する上で役立つだろう。

ゾウギンザメは、サメ類やエイ類と同じ軟骨魚類に属し、軟骨魚類内の進化の過程で初期に枝分かれしたギンザメ類の一種である(ギンザメ類は系統分類的にサメ類とは別の一群である)。ゾウギンザメの生息地はオーストラリア南部やニュージーランドの沖の深海域で、その特徴的な鼻を使って、砂の中に隠れた貝や甲殻類を探し出して捕食している。背びれには長さ7cmの棘があり、これを使って捕食者から身を守っている。

シンガポール科学技術研究庁の比較ゲノム解析専門家で、今回の論文の筆頭著者でもあるByrappa Venkateshは2007年、ゲノムを解読する最初の軟骨魚類としてゾウギンザメを選んだ。その理由は、ゲノムサイズがヒトの約3分の1と比較的小さかったからだ。「当時すでに、両生類や鳥類、哺乳類のさまざまなゲノムのデータが得られていましたが、軟骨魚類のゲノムデータはまだありませんでした」と、Venkatesh。

ゾウギンザメは非常に原始的な顎口類であり、その姿は約4億2000万年前にギンザメ類が出現した頃とほとんど変わっていない。そして今回の研究で、ゾウギンザメは、シーラカンスも含めた既知の脊椎動物の中でゲノムの進化速度が最も遅いことが明らかになった。従って、ゾウギンザメのゲノムは比較ゲノム解析を行うための重要な基準となる。「ゾウギンザメのゲノム配列は参照配列としてこの先長く使われるでしょう」とVenkateshは話す。

これまで硬骨魚類8種と、顎のない脊椎動物であるヤツメウナギ2種のゲノム塩基配列が解読されているが、軟骨魚類ではまだ1種もゲノム解読されていなかった。軟骨魚類は、骨格が主に硬骨ではなく軟骨でできており、系統的に他の顎口類とは離れたところに位置する。硬骨の形成に関与する遺伝子群はすでに分かっているが、軟骨魚類が骨格に硬骨を持たない理由について、もともとあった硬骨形成能力を失ったのか、あるいは最初からその能力を持っていなかったのかは明らかでなかった。ただし、どちらにしても、軟骨魚類の歯や鰭棘では硬骨が作られている。

今回明らかになったゾウギンザメのゲノム塩基配列から、軟骨魚類が、軟骨を硬骨へ変換する過程を調節する遺伝子ファミリーのうちの1つを持っていないことが分かった。また、硬骨魚類に見られるこの骨の変換機構は、1回の遺伝子重複によって生じたことも分かった。今回の研究で、実際にゼブラフィッシュで、これと同じ遺伝子群のうち1つの遺伝子を働かなくしたところ、硬骨形成能力が著しく低下した。

ゾウギンザメのゲノムは、獲得免疫の進化に関する重要な疑問を解く上でも重要な手掛かりを与えてくれた。ヒトを含む脊椎動物に備わる獲得免疫は、ワクチン接種の基盤となっている免疫機構であり、この機構があるおかげで、同じ病原体による2回目以降の感染を防ぐことができる。ゲノムの解析結果から、ゾウギンザメは、ウイルス感染した体細胞を直接破壊するキラーT細胞は持っているが、感染に対する免疫応答全体の調節に関与するヘルパーT細胞は持っていないことが分かった。つまり、獲得免疫が、従来考えられていたように一段階で進化したのではなく、二段階のプロセスを踏んで進化したことを、今回得られた塩基配列データは示しているのだ。

パラー連邦大学(ブラジル)の進化生物学者で、魚類の鰭からどのように四肢が進化したかを研究しているIgor Schneiderは、今回報告されたゲノムデータの活用法を想像して心が躍るという。「今回のデータは、ゲノムの比較解析を行う上で計り知れないほど貴重なものです。動物が遺伝学的にどのような段階を踏んで陸上生活をするようになったかを解明するのに役立つことでしょう」と彼は期待に満ちた表情で語った。

(翻訳:船田晶子、要約:編集部)

参考文献

  1. Venkatesh, B. et al. Nature 505, 174–179 (2014).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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