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氷上の地質学

2月にはロシアのソチ冬季オリンピックが開幕する。カーリングは、重さ44ポンド(約20kg)の石を氷上に押し出して滑らせ、ブルームというほうきのような道具で氷を掃いて、石を標的に向かって“カール”させる競技だ。

カーリングがオリンピックの公式種目になったのは1998年でまだ日が浅い。しかし、競技に使われるストーンには長くて意味深い歴史がある。「オリンピックで使われるストーンはどれも、アルサクレイグ島というスコットランド沖の小島で採れた石です」と、米国カーリング女子チームのスキッパー(主将)を務めるErika Brownは説明する。「アルサクレイグの石の曲がり方は他の石ではまねできません」。

スコットランド本土から10マイル(16km)ほどのところにある面積1km2弱のこの小島は、極上のストーンに使われる2種類の花崗岩の産地だ。1つはブルーホーン花崗岩で、氷と接して滑る下側の層になる。もう1つは一般的な緑色花崗岩で、こちらはストーンの中間層、つまりストライキングバンド(他のストーンとぶつかる部分)になる。

「氷と接する層は欠けることも水を吸うこともありません。この層で最も重要なのは、氷上での挙動を正確に予測できることです。競技者は投げたストーンがどうなるかが分かります」とBrown。「そして中間層は、他のストーンとぶつかっても壊れないのです」。

ストーンのこの優れた性能は、約6000万年前のアルサクレイグ島のでき方に由来している。この島は大量のマグマが地層を貫いて上昇した「貫入岩体」なのだと、グラスゴー大学(英国)の地質学者John Faithfullは説明する。そのマグマが比較的急速に冷えて花崗岩になるとともに、周囲の岩は侵食によってなくなり、「侵食に非常に強い硬い岩だけが海面から突き出してアルサクレイグ島となったのです」。

この火成岩は結晶化の際に、強靱で均一な岩になった。「マグマが急速に冷えると、非常に小さな結晶ができます。それらが互いに入り組み、その小さな結晶の間に化学結合が形成されたのです」と英国地質調査所の地質学者Martin Gillespieは言う。この花崗岩には「小さなひび割れもまったくないようです」。

こうしたユニークな特性がアルサクレイグ島のカーリングストーンを“特級品”にしているとブラウンは言う。「カーリングをする私たちにとって、この島は聖地なのです」。

翻訳:日経サイエンス編集部

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 2

DOI: 10.1038/ndigest.2014.140206b