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青色LEDの発明者にノーベル物理学賞

左から順に、2014年のノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏、天野浩氏、赤﨑勇氏。

JIJI PRESS/AFP/GETTY

スマートフォン、コンピューターのスクリーン、省エネ電球など、我々の身の回りには青色発光ダイオード(LED)を使った製品があふれている。2014年のノーベル物理学賞は青色LEDを発明した日本生まれの3人の科学者が受賞することになった。実は、この賞が実用的な発明に贈られるのは珍しい。

発光ダイオードは、電流を流すと発光する素子である。緑色LEDと赤色LEDは1950年代に作られていたが、青色LEDの開発は技術的に非常に困難で、産業界は何十年も悪戦苦闘していた。

青色LEDが作られたのは1990年代になってからで、名古屋大学の工学者・赤﨑勇(現 名城大学教授)と天野浩、そして日亜化学工業の電子工学者・中村修二(現 カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授)によって独立に開発された。

LEDは、半導体材料の層をサンドイッチのように重ねた構造になっている。半導体にはドーパントと呼ばれる不純物が導入されていて、ある層は負電荷を持つ電子が過剰になり、別の層は電子が不足して正電荷を持つ孔(正孔)が過剰になるようにしてある。こうした構造を持つLEDに電圧をかけると、層同士の接合部で電子と正孔が結合して光を放出する。

高輝度青色LEDの作製を目指す物理学者たちは、1980年代から窒化ガリウム(GaN)という半導体材料に注目してきた。だが、GaNは結晶を成長させるのが非常に難しいことで知られており、いくつかの技術的課題があった。1つは、薄くて高品質のGaN結晶を作ること、もう1つは、窒化ガリウムが効率よく発光するようにドーパントを導入することだった。

ルードヴィッヒ・マクシミリアン大学(ドイツ・ミュンヘン)の材料化学者Wolfgang Schnickによると、ライバルたちが窒化ガリウムに見切りをつけて他の材料で青色LEDに挑戦するようになっても、赤﨑・天野と中村は窒化ガリウムにこだわり続けたという。

彼らが数々の課題を克服して青色LEDを作ったことで、従来型の白熱電球の約20倍もの発光効率を誇る白色LEDへの扉が開かれた。

白色LEDを用いた照明器具のほとんどが、青色LEDチップを1つまたは複数の種類の発光体と組み合わせて、青色の光の一部をより長い波長の光に変換している。「白色LEDは照明産業に革命を起こしました。その影響は、一般家庭の照明にも、どんどん広がっていくでしょう」と、ゲント大学(ベルギー)の材料科学者Dirk Poelmanは言う。

白色LEDを可能にした青色LEDの発明には「最大級の価値を認めなければならない」とSchnickは言う。その理由について彼は、「この発明は、世界の電力消費量を20%近く低減させることになるからです」と説明する。

Schnickはまた、青色LEDは将来、水を消毒・殺菌するための携帯用機器や、電気の代わりに光を使ってデータを貯蔵するコンピューター・メモリに利用されるようになるかもしれないと考えている。青色LEDと同じく赤﨑と天野、そして中村により独立に発明された青色レーザーは、すでにブルーレイディスク技術に利用されている。

青色LEDの開発をめぐる物語は、これで「めでたしめでたし」とはならない。2000年に日本を去りカリフォルニア大学サンタバーバラ校(米国)に移った中村は、日亜化学の社員時代に青色LED 技術の発明に対して支払われた報奨金の額が少なすぎるとして、2001年に同社を相手取って訴訟を起こしたのだ。この裁判は、日亜化学が中村に8億4000万円を支払うという内容で2005年1月に和解が成立したが、ストラスクライド大学(英国グラスゴー)のフォトニクス研究者Martin Dawsonは、「日亜化学は、当初から窒化ガリウムに集中していたわけではありませんでした。中村が強い信念をもって努力を続けたからこそ、この材料が実用的なLED技術を可能にするものであると示せたのです」と言う。

10月7日、スウェーデンのジャーナリストからの電話インタビューでノーベル賞を受賞した気分を尋ねられた中村は、雑音混じりの音声で「信じられない気持ちです」と答えた。スウェーデン王立科学アカデミー(ストックホルム)の常任書記であるStaffan Normarkはジャーナリストに、3人とも自分が受賞するとは夢にも思っていなかったようだと語った。「朝から晩まで受賞を知らせる電話を待ち受けていたという感じはありませんでしたから」とNormark。

王立科学アカデミーのノーベル物理学賞選考委員会のPer Delsing委員長は、受賞者の発表にあたり、この3人への授賞はノーベル賞の創設者であるアルフレッド・ノーベルの精神を引き継ぐものだと述べた。「彼は技術者にして発明家でしたから、きっと喜んでくれていることでしょう」。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2014.141207

原文

Blue LED wins physics Nobel
  • Nature (2014-10-09) | DOI: 10.1038/514152a
  • Elizabeth Gibney