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人工甘味料が肥満を引き起こす?

ソフトドリンクは、人工甘味料が使用されている食品の一例だ。

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人工甘味料は吸収されにくいことから、肥満および糖尿病への対処法として広く認識され、摂取されているが、一部では、そうした病態の世界的な広がりを助長している可能性が出てきた。

Nature 2014年10月9日号181ページに掲載された研究成果によれば、サッカリンをはじめとする砂糖の代用品は、ヒトの腸内細菌に作用して糖尿病などの代謝障害を悪化させる恐れがあるという。人工甘味料の使用とさまざまな代謝障害の発現との関係については、過去に、小規模な研究に基づいた主張があった。今回の研究は、人工甘味料で代謝疾患が悪化する恐れがあり、それが腸内マイクロバイオーム(ヒトの腸内の多様な細菌群集)を介して起こるものである可能性を初めて示唆した。ニューヨーク大学(米国)の微生物学者Martin Blaserは、「直感に反する結果です。というのも、人工甘味料が肥満や病気を引き起こすなんて誰も予想していなかったのです」と話す。

その知見は、食品業界にとって頭痛の種になるかもしれない。市場調査を業とするBCCリサーチ社(米国マサチューセッツ州ウェルズリー)によれば、人工甘味料市場は活況という。そして、人工甘味料をはじめとする食品添加物の安全性を追跡している規制当局は、代謝障害と人工甘味料との関係に目をつけてはいない。今回の新しい知見に対し、欧州食品安全機関(EFSA;イタリア・パルマ)の広報担当官Stephen Paganiは、「あらゆる新しいデータに対する扱いと同じであり、専門家からなる委員会による審査にかけるべきかどうかは、しかるべきときに判断する」と話す。

ワイツマン科学研究所(イスラエル・レホヴォト)のEran Elinavを中心とする研究チームは、さまざまな人工甘味料(サッカリン、スクラロース、およびアスパルテーム)をマウスに与えた結果、11週間で耐糖能異常(代謝障害の罹病性のマーカー)が発現することを発見した。

その種の疾患のさまざまなリスクを抱える人間の実情を模するため、研究チームはまずマウスを、正常食のグループと高脂肪食のグループに分けた。次に、それぞれのグループの飲用水に、グルコースのみ、もしくはグルコースと人工甘味料の1種であるサッカリンを加えて観察した。すると、グルコースだけを摂取したマウスと、グルコースに加えサッカリンも摂取したマウスとでは、後者の場合に耐糖能低下の発現が顕著に見られた。しかし、抗生物質を投与して腸内細菌を除去した場合には、耐糖能低下が生じなかった。さらに、サッカリンを摂取して耐糖能が低下したマウスの糞便を、腸内が無菌状態となるように育てたマウスの腸に移植すると、そのマウスも耐糖能低下を発現したことから、マイクロバイオーム不健全化の原因はサッカリンであることが指摘された。

Elinavらは、イスラエルで400例近くを集めて実施されている臨床栄養研究のデータも利用した。その結果、代謝障害の臨床徴候(体重の増加や糖代謝効率の低下など)と人工甘味料の摂取との間に相関が認められた。この結果は、「ニワトリが先か卵が先か、のようなものです。体重が増えた人は、ダイエット食品を選ぶことが多くなります。ダイエット食品が必ずしも体重増加の原因になっているとはいえませんよね」とElinav。

そこで研究チームは、ふだんは人工甘味料を利用していない痩身の健常志願者7例を集め、小規模な前向き研究を実施した。この7例には、1日最大許容量の人工甘味料を1週間にわたって摂取してもらった。その結果、4例に耐糖能低下が発現し、その腸内マイクロバイオームのバランスは、代謝疾患の罹病性と関係することがすでに知られている方向に変化していたが、残りの3例にはサッカリンの影響が認められなかった。「この結果は、個別的な栄養摂取の重要性を強調しています。皆が同じというわけではないのです」とElinavは語る。

マイクロバイオームに人工甘味料が影響するメカニズムについて、Elinavはまだ考えを明らかにしていない。しかしBlaserによれば、人工甘味料が一部の腸内細菌種に対してどのように作用するかを明らかにすることで、「代謝疾患の新たな治療法を開発するための手掛かりが得られる可能性がある」という。

ダイエット製品、栄養、およびアレルギーに関するEFSAの委員会で副議長を務める栄養学者Yolanda Sanzは、確固たる結論を出すのは時期尚早だと話す。Sanzは、代謝障害には多くの原因があることと、今回の研究がごく小規模なものであることを指摘している。

翻訳:小林盛方

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2014.141211

原文

Sugar substitutes linked to obesity
  • Nature (2014-09-18) | DOI: 10.1038/513290a
  • Alison Abbott