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「泳ぐ恐竜」スピノサウルス

Spinosaurus aegyptiacusの骨格を再現したデジタル模型。骨はそれぞれ、標本ごとに色分けされている。今回新たに発見されたのは赤色の部分。

Model by Tyler Keillor, Lauren Conroy, and Erin Fitzgerald/Ref.1

全長15mと、ティラノサウルス・レックスをもしのぐ巨体を誇り、史上最大の肉食恐竜とされている白亜紀の獣脚類スピノサウルス(Spinosaurus aegyptiacus)が、水中生活に適応した「泳ぐ恐竜」だったことが明らかになった1

今回、モロッコで新たに発見された化石などから、その名前の由来でもある背の巨大突起に加え、ワニのような頭部や水をかくのに適した足など、数多くの特徴が明らかになり、2014年9月11日にScienceで報告された1。これらの特徴は、骨の密度が非常に高かった事実と共に、スピノサウルスの体が水中での移動や捕食に適していたことを裏付けている。

今回の研究を主導したシカゴ大学(米国イリノイ州)のNizar Ibrahimは、「これほど驚異的な水中生活への適応が確認された恐竜は、スピノサウルスが初めてです」と語る。

「現代の恐竜」とも呼ばれる鳥類に水面や水中で狩りをするものが多いことから、泳ぐ恐竜の存在は以前から推測されていた。実際、2010年には地球化学者のグループが、骨の化石に含まれる酸素同位体の分析により、スピノサウルスとその近縁種は現在のワニやカバのように半水生だったと結論付けている2。だが、約100年前にドイツの古生物学者Ernst Stromerによって発見されたスピノサウルスの部分骨格は、不運にも第二次世界大戦中の1944年、連合軍によるミュンヘン空爆で失われており3、この説を検証するのに十分な骨格材料は大幅に不足していた。

「ミステリー・ボックス」

2008年、モロッコで化石探しの旅を終えようとしていたIbrahimは、砂漠の街エルフードで、段ボール箱を抱えた1人の男性と出会った。箱の中には骨が複数入っており、それらの正体は不明だったが、Ibrahimには重要な標本に見えたため、彼はこれらの骨がカサブランカのハッサン2世大学へと送られるよう手配した。

翌年、イタリアのミラノ市立自然史博物館を訪れたIbrahimは、同館の研究者らがモロッコ産のスピノサウルスだと説明する骨を見て言葉を失った。「色や質感、大きさなどの特徴が、段ボール箱に入っていた謎の骨とそっくりだったのです」と彼は振り返る。

Ibrahimは、その男性を探しに再びモロッコへ戻った。だが、手掛かりは「口ひげ」くらいでなかなか見つからず、エルフードを離れる前日にはすっかり諦めかけていたという。ところがちょうどその時、彼が仲間と座っていたカフェのテーブル脇を、白い服に身を包んだ見覚えのある顔の長身の男性が通り過ぎていったのだ。すぐに後を追ったIbrahimは男性を説得し、スピノサウルスの骨を見つけたという洞穴に案内してもらった。

Ibrahimらは、そこで新たにスピノサウルスの化石を複数発掘し、段ボール箱の骨やミラノの骨、Stromerの失われた標本に関する記録やスピノサウルスと近縁な恐竜の化石情報などを総合して、9700万年前の骨格を復元し、これまでになく詳細なスピノサウルス像を描き上げた。

パズルのピース

スピノサウルスの骨格には水中生活への適応を示す特徴が数多く見られる。例えば、鼻孔は頭蓋の比較的高い位置にあり、おそらく半分潜りながらも呼吸ができたと考えられる。また、上下で交互にかみ合った歯は魚を捕らえるのに、力強い前肢は水をかくのに適しており、足には水かきがあった可能性もある。

他の獣脚類と比べると、スピノサウルスの後肢は著しく短い。Ibrahimらはこれを、四足歩行を示す証拠だと解釈した。その重心は比較的前方にあり、遊泳時にもスムーズに動くことができたと思われる。

今回の結果が、別々の標本をつなぎ合わせて得られたものであることから、その信頼性を懸念する声もあるが、Ibrahimはこれについて、異なる標本間にはいくつかの重複が見られたとし、自分たちの骨格像は十分に裏付けられていると説明している。

翻訳:小林盛方、要約:編集部

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 11

DOI: 10.1038/ndigest.2014.141107

原文

Swimming dinosaur found in Morocco
  • Nature (2014-09-11) | DOI: 10.1038/nature.2014.15901
  • Alexandra Witze

参考文献

  1. Ibrahim, N. et al. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1258750 (2014).
  2. Amiot, R. et al. Geology 38, 139–142 (2010).
  3. Zanon, E. T. (transl.) Proc. R. Bavarian Acad. Sci. Math. Phys. Div. XXVIII, 3 (1989). Available at go.nature.com/fYPPkJ