Editorial

研究・教育目的のドローン利用への不当な規制に声を上げよう

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米国連邦航空局(FAA)は2013年、ミズーリ大学コロンビア校のジャーナリズム講座においてカメラを搭載した遠隔操作式の小型飛行機の使用禁止を命じ、米国全土の研究者はその事態の推移を不安な面持ちで見守った。このドローンは、所有者の許可を得た上で私有地を飛行しており、飛行高度は120m未満に保たれて大型飛行機の飛行妨害にならないように操縦されていた。大部分の研究者は、そうした飛行は合法だと思っていた。

ところが、FAAはこれを違法とした。FAAは、同校が必要な許可を得ずに飛行させたと判断したのである。

ドローンの増加により安全性やプライバシーに懸念が生じており、FAAは、安全性を確保するための規則が制定されるまでの間、ドローンの商業飛行をほぼ全面禁止とした。このことは周知の事実だが、FAAが研究と教育を「商業活動」と見なしていることについて、多くの科学者は気付いていなかった(Nature 2014年8月21日号239ページ参照)。このFAAの歪んだ定義は遺憾なものであり、これによって、幅広い学問領域での研究プログラムが危機に瀕している。科学者は、そうした影響が生じていることをFAAに知らせるために明確な意見表明をすべきである。

その際に言うべきことはたくさんある。例えば、ドローンの飛行に特別許可を求めることのできる「申請資格者」に関するFAAの定義は、該当者がいるのかと思われるほど狭い。さらにFAAは、政府が運営する航空機と民間で運営される航空機という旧来の区分を大学に適用して、政府から多額の助成金を受け取っている「公立大学」と受け取っていない「私立大学」という無意味な区分を作り出している。その結果、公立大学の研究者は商業飛行禁止の免除申請の資格があるのに対して、私立大学の研究者にはその資格がないという事態になっている。

ドローンは、技術の進歩によって、犯罪捜査から宅配に至るまで数多くの用途で魅力を増している。その一方で、FAAは、ドローンのそれぞれの用途での安全性と妥当性を確実なものとする規則を構築しなければならない。この問題で、FAAが困難な任務を負っていることは明らかだ。例えば、2014年8月2日には、イエローストーン国立公園の有名な温泉に旅行者が操縦していたドローンが墜落するなど、わずかながらドローンの事故が起こっており、そうした規則の重要性が浮き彫りになっている。FAAは、ドローンという急成長分野の発展を妨げることのないように注意を払うべきである。

産業用ドローンのメーカーと航空機パイロットの組合のロビイストたちによる声高の主張の中で、研究者は自分たちのニーズを伝えなければならない。しかし、自らの研究が危うくなっていることに気付かない研究者は多い。それどころかFAAのルールを知らずにドローンの飛行を続けている研究者もいるし、ルールの内容を知りつつ平気で無視している者もいる。

科学コミュニティーは、ドローンの使用制限が続くと研究に脅威が及ぶ、というメッセージを科学コミュニティーに属する人々とFAAの両方に対して広める必要がある。6月23日、FAAは、ドローンに関する姿勢を明確にし、研究者が懸念する区分について概説したガイダンスを公表した。このガイダンスに対する国民の意見は、9月23日まで受け付けられていた。FAAに対して懸念を表明する機会であることは明白であった。

FAAは、ドローンに関する規則の策定に懸命に取り組んでおり、年末までに最初の草案を公表したいと考えている。この草案に対しても、国民は意見を提出することができるが、科学者はそれを待たずにFAAに意見すべきだ。この問題に関する議論の方向性が定まってしまう前に、議論を正しい方向に導くことが大事なのだ。

翻訳:菊川要

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 11

DOI: 10.1038/ndigest.2014.141130

原文

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  • Nature (2014-08-21) | DOI: 10.1038/512231a