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スケスケ科学

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動物の内部を熟視すると科学的発見につながる──これは確かだ。1960年代と1970年代に遺伝生物学と発生生物学が爆発的に進んだのは、線虫の一種(Caenorhabditis elegans)やゼブラフィッシュ(Danio rerio)などの生まれつき透明な動物が調べられるようになった後だ。それらによって、若い細胞が完全な有機体に発達するのを観察することができた。

そして今、哺乳動物の体を透かして見ることが初めて可能になった。マウスやラットを透き通らせる技法で、おそらくはもっと大きな動物にも適用できる。

血管から薬剤を入れて透明化

哺乳動物の脳などの組織を透明にすることは以前から可能だが、その処理には数カ月かかる場合がある。この処理速度を速め、より大きな組織に適用するため、カリフォルニア工科大学(米国パサデナ)の神経科学者Viviana Gradinaruはネズミの血管を利用した。死んだラットの血管を通して一連の化学物質を組織へ送り込むと、これらの化合物によって濁った脂肪が除去され、澄んだ液体に置き換える。2週間もすればラットの体全体はスケスケになり、クラゲのような標本となった。この結果は2014年8月、Cellに発表された(写真付き。食事の前でなければどうぞ)。

透明化した後には、抗体や色素で標識しておいた細胞を見ることができる。こうした透明化技術は、神経線維の位置特定やがん細胞の追跡に役立つだろう。「以前は見ることができなかったものを見られるようになったのです」と、マサチューセッツ大学医学系大学院(米国ウースター)の遺伝子治療研究者Guangping Gaoは言う。Gaoは体内のウイルスを追跡したいと考えている。

Gradinaruによると、この手法は血管系を持つ生物なら大きさを問わず、人間にも使えるという。

翻訳:鐘田和彦

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 11

DOI: 10.1038/ndigest.2014.141109a