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鼻で闘う味の受容体

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私たちの鼻には苦味を感じる受容体があるが、食べ物の味やにおいを感じるのには役立っていない。アイオワ大学(米国)の研究グループが2009年にそう結論付けて以来、科学者たちはこの受容体が鼻にある理由をずっと探してきた。1つの推測は、有害物質を検知して警告しているというもの。だが、別の役割も果たしている可能性がある。感染症との闘いに一役買っているかもしれないのだ。

鼻の苦味受容体は通常の苦い化合物に加え、細菌がコミュニケーションに使っている化学物質にも反応する。そこでペンシルベニア大学(米国フィラデルフィア)の耳鼻咽喉科医Noam Cohenは、この受容体は副鼻腔炎の原因となる病原体を検出しているのではないかと考えた。彼のチームは2012年の研究で、細菌の化学物質によって鼻と上気道の細胞に細菌と闘う2種類の反応が誘発されることを発見した。細胞突起を動かして有害物質を体外に追い出す反応と、細菌を殺す一酸化窒素の放出だ。

鼻炎に強いスーパーテイスター

この発見は臨床に応用できるかもしれない。最近、Cohenが慢性副鼻腔炎患者の苦味受容体遺伝子を解析した際、人口の約25%を占めるとされる「スーパーテイスター」が1人もいないことに気付いた。スーパーテイスターは味の刺激に強く反応する人たちで、特に苦味化合物に非常に敏感だ。私たちは皆、スーパーテイスターか味盲(ある種の苦味物質を全く感じない)、あるいはその中間のどこかに位置しており、これはT2R38という受容体の遺伝子を反映している。

Cohenは、スーパーテイスターは鼻にいる細菌が出す苦味化合物に活発に反応するので副鼻腔炎になりにくいと考えている。対照的に味盲の人はこの反応が弱いので、細菌が繁殖して副鼻腔炎を引き起こす。簡単な味覚テストによって、副鼻腔炎の再発リスクが高く積極的な治療が必要な人を予測できることを、この結果は示している。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 10

DOI: 10.1038/ndigest.2014.141006a