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核融合発電に挑むベンチャー企業

ジェネラル・フュージョン社の核融合炉は、液体鉛の回転する渦の中の燃料を巨大なピストンで圧縮する。

HUBERT KANG PHOTOGRAPHY

核融合研究に従事する企業には多かれ少なかれ秘密めいた部分があるものだが、米国のトライアルファ・エナジー社(Tri Alpha Energy;以下、トライアルファ社)の秘密主義は突出している。同社はカリフォルニア州アーバインのすぐ東、サンタアナ山脈の麓に広がる郊外型のオフィスパーク内にあり、曲がりくねった道を車で進んでいくと、何の目印もない大きな本部施設の外に着く。

秘密保持誓約書にサインをしていない部外者は、ここまでしか近づくことができない。同社は企業秘密を厳重に管理していて、ウェブサイトさえ持っていない。けれども、これまでに漏れ出してきた断片的な情報から、この建物の中で米国最大規模かつ最も革新的な「核融合実験」を行っていることが判明している。トライアルファ社は、40年以上にわたって核融合エネルギー研究の主流であったドーナツ状の「トカマク型」核融合炉ではなく、線形核融合炉の試験を行っているのだ。同社によると、線形核融合炉はトカマク型核融合炉に比べて小型で単純、かつ安価である。そのため、トカマク型核融合炉による商業発電が実現までに30~50年かかると予想されることが多いのに対して、線形核融合炉はわずか10年余りでこれを可能にするという。

トライアルファ社の主張が魅力的に聞こえるのは、EU、インド、日本、中国、ロシア、韓国、米国が中心となって進めている「国際熱核融合実験炉」(ITER;イーター)のプロジェクトが、スケジュールの遅れとコスト超過で窮地に陥っていることと無関係ではない。フランスのカダラッシュで建造が始まったITERは巨大なトカマク型核融合炉で、プラズマ燃料の持続的な燃焼により、投入したエネルギーより多くのエネルギーを発生させることのできる最初の核融合炉となることが期待されている。しかし、その建設費用は当初の見積もりの約10倍の500億ドル(約5兆円)に膨れ上がり、核融合実験に着手できるのは計画より11年も遅れた2027年以降になると予想されている。

米国の核融合エネルギー研究予算の大半がITERに費やされているため、トカマク型に代わる核融合炉の研究に対する米国政府からの支援は非常に少ない。それでも、トカマク型技術へのいら立ちが募るにつれて、トライアルファ社をはじめとする米国やカナダの多くの物理学者が、これとは別のアプローチを模索し始めた。こうした反主流派の研究者たちは、トカマク型に代わるデザインの核融合炉を開発しようと、過去15年間に少なくとも半ダースの会社を設立している。中には有望そうな結果を報告している会社もあり、当然、かなりの額の投資を引きつけている。トライアルファ社も、マイクロソフト社(米国ワシントン州レドモンド)の共同創設者で億万長者のPaul Allenやロシアの政府系投資会社ロスナノ(Rusnano;モスクワ)などから1億5000万ドル(約150億円)の資金を調達している。

けれどもトライアルファ社は、多額の資金調達に成功したが故に、その大胆な約束を守ることができるのか綿密に調査されるようになってしまった。マサチューセッツ工科大学(MIT;米国ケンブリッジ)の原子核物理学者Jeffrey Freidbergは、トライアルファ社は「核融合炉のスケールアップに着手するに当たり、非常に困難な問題に直面しています」と指摘する。例えば同社は、他の核融合プロジェクトとは異なる燃料を利用しようとしているが、その燃料に点火するのに必要な10億ケルビン(K)という超高温を実現できることを証明する他、発生したエネルギーを電気に変換する現実的な方法も実証しなければならない。米国核融合協会(Fusion Power Associates;メリーランド州ゲイサーズバーグ)会長のStephen Deanは、核融合研究に従事する他の会社も同様の問題点を指摘されるかもしれない、と言う。「正直なところ、どの企業も、すぐに核融合発電を実証できるような段階にはないのです」とDean。

トカマク型に代わる核融合炉の研究を進める企業は、今の勢いを失うことなく、設立者の楽観的な見通しを正当化することができるのだろうか? それとも、多くの核融合研究がそうであったように、はかない夢として消えてしまうのだろうか……。

地上の太陽

核融合炉の建造は、原理的には太陽を模倣することだといえる。もう少し詳しくいうと、水素などの軽い元素の適当な同位体を高温にして、原子核から電子が剝ぎ取られた「プラズマ」と呼ばれる状態にする。このプラズマを圧縮し、高密度状態をしばらく保持して、原子核同士が融合して質量の一部がエネルギーに変換されるようにするのだ。原理的にはこれだけだが、実際にやってみようとすると、技術的に非常に難しい。例えば、磁場中に閉じ込められた高温のプラズマは、捕まったヘビが逃げようとしてのたうち回るように、くねくねと曲がってしまうのだ。

核融合研究者たちはこれまでずっと、荒れ狂うプラズマを閉じ込めるにはトカマク型核融合炉が最適であると考えてきた。1950年代に旧ソビエト連邦の物理学者によって開発され、その10年後に西側諸国に公表されたトカマク型核融合炉は、プラズマの密度、温度、閉じ込め時間の点で、既存のどの核融合炉よりも優れていた。そして、物理学者たちがトカマク型核融合炉のデザインを改良するにつれ、高エネルギープラズマの制御方法も改良されていった。

ILLUSTRATION: JASIEK KRZYSZTOFIAK/NATURE

しかしながら、商用規模の発電量を得られるまでトカマク型核融合炉をスケールアップすることができるかについては、当初から多くの物理学者が疑問視していた。代替方式の研究者に言わせれば、トカマク型核融合炉は複雑過ぎるのだ。ドーナツ型の容器に多数の電磁コイルを巻きつけてプラズマを閉じ込める磁場を作り出さなければならないし、ドーナツの孔にもコイルを入れて、プラズマ中に大きな電流を誘導しなければならない(「核融合の火を閉じ込める」参照)。

燃料となるのは、水素の同位体である重水素(D)と三重水素(トリチウム;T)の混合物だ。重水素と三重水素は、他のどの組み合わせよりも低い温度(たったの1億K!)で点火し、はるかに多くのエネルギーを発生するため、核融合炉の燃料として唯一現実的な組み合わせであるとされている。けれども、D-T反応で生成するエネルギーの80%は高速中性子の形をとり、この中性子は核融合炉の炉壁を傷つけ、強く放射化してしまう。また、高速中性子のエネルギーを利用して水を加熱し、おなじみの蒸気タービンを回して発電するプロセスの効率は、わずか30~40%である。

トカマク型をはじめとする磁場閉じ込め方式に代わる方式として最も有力視されているのは「慣性閉じ込め」方式だが、コストの高さ、複雑さ、進歩の遅さという問題を抱えているのはこちらも同じである。凍結させた燃料ペレットを高出力レーザービームで爆縮させるこのアプローチにも、政府から多額の資金が提供されてきた。しかし、ローレンスリバモア国立研究所(米国カリフォルニア州リバモア)の国立点火施設(National Ignition Facility;NIF)などのイニシアチブは、数十年にわたる努力にもかかわらず、いまだに慣性閉じ込め方式による核融合発電を実現できずにいる(Nature 2012年12月8日号、159ページ参照)。

大胆な一歩

トカマク型核融合炉へのこうした懸念から、近年、「ヘリカル型」核融合炉が注目を集めるようになっている。これはトカマク型核融合炉の一部の要素を単純にしたドーナツ型の核融合炉だが、さらに複雑な磁石を必要とする。それにもかかわらず、主流派のプラズマ物理学者のほとんどが、プラズマ物理学さえ完成すれば技術的問題はどうにかなるとして、問題解決を先送りにしている。一方、核融合研究を独自に切り開いてきた異端児たちは、根本的な解決が必要であると考える少数派だ。彼らは、電力会社が実際に購入したくなるような単純で安価な核融合炉をデザインして技術的問題を解決するのが先で、プラズマを行儀よくさせる方法を考えるのはその次だ、と主張する。

その1人であるカリフォルニア大学アーバイン校の物理学者Norman Rostokerは、1998年に72歳でトライアルファ社を共同設立した。彼らは、重水素と三重水素ではなく、陽子(p)とホウ素11(11B)を燃料とすることを提案した。ホウ素11は、天然のホウ素の約80%を占める安定同位体である。p-11B燃料に点火するためには、約10億Kという高温が必要だ。これは、太陽の中心核温度の約100倍に相当する。その上、1回の核融合反応で発生するエネルギーは、D-T反応で放出されるエネルギーの約半分にすぎない。しかし、p-11B反応からは高エネルギーヘリウム原子核(α粒子)が3個生成するだけで、厄介な中性子はほとんど生成しない。また、α粒子は荷電しているため、磁場を使って「逆サイクロトロン」内に誘導し、そのエネルギーを90%前後の効率で電流に変換することができる。

ここで、10億Kのp-11Bプラズマをトカマク型核融合炉内で燃焼させることは問題外だ。大きな理由は、これを閉じ込められるほどの強い磁場を発生させることができないからだ。そこでRostokerらは、2門の大砲の砲身を向かい合わせたような線形核融合炉を設計した。それぞれの大砲は、リング状の非常に安定なプラズマ(プラズモイド)を発射する。このプラズマ中のイオンの流れが磁場を生成させ、この磁場によってプラズマを閉じ込めた状態に保つ。ワシントン大学(米国シアトル)のプラズマ物理学者Alan Hoffmanは、これを「考えられる中で最も理想的な構成」であると評価する。

核融合炉を始動させるためには、それぞれの大砲が中央容器内にプラズモイドを発射し、そこで2つのプラズモイドを融合させて、より大きなプラズモイドを形成させる。このプラズモイドは容器内に浮かんだ状態で存在し、燃料が追加されるかぎり持続する。反応により生成するα粒子は、別の磁場に誘導されて大砲内を戻り、エネルギー変換器に捕らえられる。

トライアルファ社の研究チームがこの概念を発表した1997年には1、米国エネルギー省は、より確実そうに見えたトカマク型核融合炉の開発に投資を集中していて、同社の装置の開発に資金を提供するつもりがないことは明らかだった。「トカマク型核融合炉の大規模実験には何十年も資金が提供されているため、設定した目標を達成できることはほぼ確実です」とワシントン大学のプラズマ物理学者John Sloughは言う。「一方、それ以外の方式の研究に資金提供を始めるとなると、全てが不確実なところから出発しなければならないのです」。

そこでRostokerらは、米国の活気あるハイテク起業文化とベンチャーキャピタルの投資を利用することにした。彼らは会社を設立して、p-11B反応の生成物である3個のα粒子にちなんで「トライアルファ」と命名し、100人以上の社員を雇い入れられるほどの資金を調達することができた。

トライアルファ社がこれほどまでに秘密主義である理由について、Deanは、起業家に特有のものの考え方で説明できるかもしれないと考えている。「ベンチャーキャピタルからの資金調達を成功させるためには、誰にも気付かれないうちにアイデアを発展させる必要があるからです」と彼は言う。とはいえ同社は5年ほど前から、社員に論文を発表させたり、学会で発表を行わせたりするようになっている。トライアルファ社は、全長10mの現在の試験核融合炉C-2を使って、衝突したプラズモイドが予想どおり融合していることを示した他2、燃料ビームが供給されているかぎり、この火の玉が最大で4ミリ秒持続できることも示した3。4ミリ秒という持続時間は、プラズマ物理の基準からするとかなり長い。2013年には、トライアルファ社の研究員Houyang Guoが、米国テキサス州フォートワースで開催されたプラズマ学会において、燃焼の持続時間が5ミリ秒まで伸びたと報告した。同社は現在、より大型の装置を建造するための資金を求めている。

Allenがトライアルファ社に投資すべきかどうかを決定する際に同社の研究を評価する仕事を引き受けたHoffmanは、「科学プログラムとしては非常にうまくいっていますが、それはp-11B反応ではありません」と言う。彼によると、トライアルファ社のC-2は重水素を燃料にしていて、最終的な燃料を燃焼させるのに必要な極端なプラズマ状態を実現できるのはまだまだ先のことだという。

トライアルファ社はα粒子から電気への直接変換も実証していない。米国エネルギー省の核融合エネルギー諮問委員会の前会長であるMITの物理学者Martin Greenwaldは、「実用化できそうな案は、まだ見たことがありません」と言う。実際、トライアルファ社の計画では、第一世代の発電用核融合炉は従来型の蒸気タービンシステムを利用することになっている。核融合炉開発に挑む他の起業家たちも同様の問題に直面することになるが、その困難さが彼らを躊躇させることはない。Sloughは、大型トラックに載せて運べる程度の大きさのビーム衝突型線形核融合炉を開発しているヘリオン・エナジー社(Helion Energy;米国ワシントン州レドモンド)の科学最高責任者である。同社の核融合炉は、両側から容器内に向かってプラズモイドの定常流を発射する。燃料はそこで磁場によってつぶされて、核融合反応が始まる。1秒にも満たないうちに核融合生成物が容器の外に送り出され、次のプラズモイドのペアが入ってくる。「この仕組みは、ディーゼルエンジンに例えられます」と、同社の最高責任者であるDavid Kirtleyは言う。「ストロークのたびに燃料を送り込み、ピストンで圧縮することで火花なしに燃料に点火し、その爆発でピストンを押し戻すのです」。

ヘリオン社は、3分ごとにプラズモイドを発射するD-D核融合炉によってこの概念を実証し4、現在は、D-T燃料を使って均衡点(核融合炉に投入されるエネルギーと発生するエネルギーが等しくなる点)に到達できるフルスケールの核融合炉を開発するため、今後5年間に1500万ドル(約1億5000万円)の民間資金を求めている。同社は、この核融合炉が将来的には重水素とヘリウム3を反応させるのに必要な、より高い温度を達成できるようになることを期待している。これも、副産物として中性子を生成することなくα粒子と陽子だけを生成する組み合わせである。

Kirtleyは資金調達の見通しについて楽観的だ。「低コストで、安全で、クリーンな電力を求める市場は巨大です。我々は、代替エネルギー開発に投資を行う民間投資家から強く支持されています。資金調達がうまくいけば、6年後には試験発電施設を稼働させる予定です」と話す。

未来は不透明

その他の代替方式はいずれもD-T燃料の使用を考えているが、閉じ込め方式はさまざまだ。ジェネラル・フュージョン社(General Fusion;カナダ・バーナビー)の研究チームは、D-T燃料のプラズモイドを液体鉛の回転する渦の中に注入し、多数のピストンによりこれを圧縮する核融合炉を設計した。数マイクロ秒以内に圧縮することができれば、プラズマが爆縮して核融合反応が起こり得る状態を作り出す5。2002年に同社を設立したMichel Labergeによれば、この設計の長所として、液体鉛が中性子に衝突されても劣化しないことを挙げている。

ジェネラル・フュージョン社は、火薬で駆動するピストンを使った小規模の装置によってこの概念を実証し、ベンチャー投資家とカナダ政府から約5000万ドル(約50億円)の資金を調達した。あと2500万ドル(約25億円)も調達できれば、おそらく2年以内に、核融合反応を引き起こすのに必要なレベルまでプラズマを圧縮できる頑丈な爆縮システムを建造することができるだろう、とLabergeは言う。

このように、トカマク型に代わる核融合炉を模索する企業はいずれも楽観的だが、Deanは、そうした方式を採用する核融合発電所が実際に建設されるまでには、少なくとも10年、もしかするともっと長い時間がかかるかもしれないと見ている。実証すべき新技術が多過ぎるのだ、と彼は言う。「彼らはやる気満々ですし、支援を受けてしかるべきでしょう。けれども、今はまだ飛躍的進歩が期待できる時期ではないと思います」。

そうした支援のうち、米国エネルギー省からの支援がどの程度の割合を占めることになるかは不明である。同省の核融合エネルギープログラムは、ヘリオン社と、トカマク型に代わる核融合炉を研究している小規模な学術研究機関に、わずかな額の資金を提供している。ハイリスク・ハイリターンのエネルギー研究に対して資金提供を行う同省のエネルギー高等研究計画局(ARPA-E)も一部の代替方式に興味を示していて、2013年にワークショップを開催している。核融合エネルギー諮問委員会は、2015年に始まる10年間の研究計画を準備しているため、起業家たちは支援を受けやすくなるかもしれない。とはいえ、彼らに供給される資金は潤沢とはいえず、相変わらずITERばかりが巨額の資金を受け取ることになると予想される。

まとまった額の資金が必要ならば、当座は民間セクターから調達するしかないだろう。技術的難関は多いが、投資家たちはこの賭けに前向きであるように見える。

「他のやり方もあるかもしれないと人々が考えるようになっているのです。それが本当かどうか、数百万ドルを投じて確かめる価値はあるかもしれません」とSloughは言う。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 10

DOI: 10.1038/ndigest.2014.141012

原文

THE FUSION UPSTARTS
  • Nature (2014-07-24) | DOI: 10.1038/511398a
  • M. Mitchell Waldrop
  • M. Mitchell WaldropはワシントンD.C.在住のNatureの特集記事担当編集者。

参考文献

  1. Rostoker, N., Binderbauer, M. W. & Monkhorst, H. J. Science 278, 1419-1422(1997).
  2. Binderbauer, M. W. et al. Phys. Rev. Lett. 105, 045003(2010).
  3. Tuszewski, M. et al. Phys. Rev. Lett. 108, 255008(2012).
  4. Slough, J., Votroubek, G. & Pihl, C. Nucl. Fusion 51, 053008(2011).
  5. Laberge, M. J. Fusion Energy 27, 65-68(2008).