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断層深部で次の巨大地震を待ち受ける

研究チームはニュージーランドのファタロア村の近くの地震断層に深さ1.3kmの掘削孔を掘ろうとしている。

HANNAH SCOTT

地震断層の深部にセンサーを設置し、応力の蓄積から巨大地震の発生に至る過程を記録する世界初の研究プロジェクト、「断層深部掘削プロジェクト2」(Deep Fault Drilling Project 2;DFDP-2)がニュージーランドで始動する。

国際研究チームは、南島のアルパイン断層に深さ1.3kmの掘削孔を掘り、未来の地震を予知するのに役立つ可能性のある重要なデータを収集することを計画している。アルパイン断層は、約330年に一度のペースで破壊して、最大でマグニチュード8の地震を引き起こしている(K. R. Berryman et al. Science 336,1690-1693; 2012)。ここで最も新しい地震が発生したのは1717年で、今は、次の地震がいつ発生してもおかしくない時期に来ている。

このプロジェクトのリーダーで、ニュージーランド政府の地球科学研究機関であるGNSサイエンス(ロワーハット)に所属する構造地質学者のRupert Sutherlandは、「この場所で記録を続けていくうちに次の地震が発生すれば、我々の実験は特別なものになるでしょう。大地震に至る過程で生じる事象と大地震の発生中に見られる事象を完全に記録することができれば、他の地質断層での地震を予知するための基礎となるからです」と説明する。

SOURCE: GNS SCIENCE

ニュージーランド南島の西岸沿いに約600kmにわたって走るアルパイン断層は、太平洋プレートとオーストラリアプレートの境界線を形成している(「アルパイン断層」参照)。2つのプレートはお互いに対して毎年約2.5cmずつすべって圧力を高めていく。Sutherlandによると、地質学者たちは、この断層が「今にも破壊して次の地震を引き起こそうとしている」ことを確信しており、今後50年以内に破壊する確率を28%と見積もっているという。今回アルパイン断層が掘削サイトに選ばれた理由は、この断層が地震サイクルの末期にあるからなのだ。

2011年、Sutherlandのチームは断層深部掘削プロジェクト1(DFDP-1)という試験段階を終了した。DFDP-1では断層に2本の掘削孔を掘ったが、深い方の掘削孔でも151mという浅さだった。2014年8月には、ファタロア村に近い同じ掘削サイトに直径10cm、深さ1.3kmの掘削孔を掘る「DFDP-2」に向けた現地での準備作業が始まる(訳註:GNSサイエンスのウェブサイトによれば、掘削開始は2014年10月上旬に予定されている)。この深さまで掘ると、2つのプレートが出合う「破砕帯」に到達するため、地震が発生する地殻深部の典型的な状態を測定できるようになる。

DFDP-2の費用は米ドルにして約200万ドル(約2億円)に上り、国際陸上科学掘削計画(ドイツ・ポツダム)とニュージーランド王立協会(ウェリントン)マースデン基金が支援している。

実験ではまず、地質サンプルを収集し、浅い掘削孔に断層内部の温度と圧力を測定するためのセンサーを挿入する。次に、掘削孔を補強してもっと深くし、地震活動のカギとなる指標(画像、音、温度、圧力など)を記録できる観測装置を断層内部に下ろす。研究チームは、2014年12月上旬までには掘削と掘削孔へのセンサーの設置を完了したいと考えている。

センサーが収集したデータは、断層破壊過程の理論を検証するためのコンピューターシミュレーションに利用される。このデータを利用して、地震サイクルのさまざまな時点での断層のふるまいにつき、詳細なモデルを構築することもできるだろう。また、断層の両側の地下水圧に大きな差があるかどうかは地震の切迫性の指標となるか、といったことも検証できるかもしれない。

このプロジェクトに参加しているヴィクトリア大学ウェリントン校(ニュージーランド)の地震学者John Townendは、「現在、この断層は不透水壁を形成しているように思われます。そうした場合、断層の両側での地下水圧の差の時間依存性変化は、震源核の形成過程や地震波の放射を決定する要素の1つになっている可能性があります」と指摘する。

英国地質調査所(カーディフ)の地質学者David BoonはDFDP-2に関与していないが、この研究はプレート境界の力学と地震ハザードに関する理解を深めるのにも役立つだろうと期待する。「今回の掘削は、地殻応力の蓄積と解放のモデル化の科学に裏付けを与えます。特に、地殻応力の解放は、破壊的な巨大地震や、津波、地すべり、液状化(地震の際に地盤が液体のようにふるまう現象)のような二次災害を引き起こす恐れがあるので重要です。

深部掘削データはこれまでにもモデル作りに利用されてきたが、それらは地震発生後のものだった。けれどもSutherlandは、「地震が発生する過程をコンピューターでシミュレーションするためには、破壊されようとする地質断層内部の初期条件に関する情報が必要不可欠なのです」と言う。また彼は、「DFDP-2が実施されれば、観測に基づく現実的なデータを利用したモデル作りが可能になり、そうしたモデルは今日のモデルよりはるかに価値あるものになります」 と語る。

活断層の内部を探る過去の本格的な試みとしては、米国カリフォルニア州パークフィールドの近くで深さ3.2kmの掘削孔を掘るサンアンドレアス断層掘削計画(San Andreas Fault Observatory at Depth;SAFOD)しかないが、掘削が行われたのは低い頻度で大規模な破壊が起こる場所ではなく、定期的に小さな地震が起こる「クリープ」が生じている場所だった。

DFDP-2に参加しているウィスコンシン大学マディソン校(米国)の地震学者Cliff Thurberは、このプロジェクトではSAFODほど深いところまで掘削しないが、SAFODの経験は非常に参考になる、と言う。SAFODでは、地下深部の高温・高圧という環境のために装置が壊れるなどの技術的失敗があり、こうした失敗から学ぶところは大きいからだ。Thurberは、今から次の掘削計画のことも考えている。震央にもっと近いところで掘削を行いたいのだ。「DFDP-2は偉大なプロジェクトですが、私としては、そう遠くないうちに、もっと深く掘り進むDFDP-3を実現させたいのです」。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 10

DOI: 10.1038/ndigest.2014.141010

原文

Project drills deep into coming quake
  • Nature (2014-07-31) | DOI: 10.1038/511516a
  • Katia Moskvitch