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天然物の特許適格性の審査基準を示した米国特許庁

米国法の下では、海産巻貝類の毒のような天然物を用いた薬剤の特許を取得することが、ますます難しくなっている。

ALEX KERSTITCH/VISUALS UNLIMITED/CORBIS

2014年3月、広範囲の天然物、自然現象、自然法則に対する特許付与を拒絶することを定めた米国特許庁のガイドラインが公表された。このガイドラインは、最近の2つの米国最高裁判決を受けて米国特許庁が公表したもので、7月31日まで国民の意見を受け付けていた。

2012年3月の判決では、代謝物の濃度を用いて医薬品の用量を決定する方法に対する特許を無効とし、プロメテウス・ラボラトリーズ社(Prometheus Laboratories;カリフォルニア州サンディエゴ)が敗訴した。また、2013年6月の判決では、ミリアド・ジェネティクス社(Myriad Genetics;ユタ州ソルトレークシティー)の乳がんに関連するDNA塩基配列の特許を無効とし、他社による乳がんリスクの遺伝子検査法の開発に道を開いた。いずれの判決も「自然法則、自然現象および抽象的な観念」の特許適格性を否定する特許法第101条の解釈に基づいている。特許庁は、2つの最高裁判決がさまざまな自然現象と天然物が関係する過去の判例をもとにして組み立てられているため、そのような自然法則を引用した特許請求や自然法則が関係する特許請求の全てに対し、判決に示された方針を適用すべきだと判断したのである。

しかし、この新しい基準では、数多くの既存の医薬品が特許によって保護されなくなり、当然付与されるべき特許が拒絶される、という批判がある。「特許を取得できないということは、医薬品ができないということなのです」。こう話すのは、マクドネル・ボーネン・ハルバート・バーグホフ法律事務所(イリノイ州シカゴ)の特許専門弁護士Kevin Noonanだ。

また、ジョージア州アトランタに拠点を置く弁護士で、グラクソ・スミスクライン社の主任特許顧問であったSherry Knowlesは、このガイドラインが適用されると、1981~2010年に米国で承認された医薬品の約半数の特許が拒絶されると推定する。こうした医薬品は、天然物や天然物の誘導体、または抗体などの生体分子を含有するものであったり、遺伝子やタンパク質などの天然成分が含まれていることの多いワクチンだったりするからだ。

Knowlesをはじめとする専門家は、ミリアド判決で無効とされたのは「天然物から単離されたDNA」の特許だけだったにもかかわらず、特許庁は判決を拡大適用した方針を打ち出したと指摘し、この方針の影響を受ける天然物を用いた製品やプロセスが多過ぎると主張する。このガイドラインでは、例えば、果汁飲料の製造過程で鮮度を保つためにビタミンEを添加する方法は、果汁も保存料もその天然状態と有意に異なるものではないため、特許適格性が認められない可能性が生じることを特許審査官に示している。それに対し、特許庁の法律顧問June Cohanは「2つの最高裁判決では、『天然物』はDNAに限定されていません」と説明する。

ただ、このガイドラインが発表される前から、特許出願者は最高裁判決の影響を受けていたようである。ブルームバーグBNA社(メリーランド州ベセスダ)が2014年6月25日に公表した調査結果によれば、このガイドラインの適用対象で、2011年4月以降に特許庁に出願された約1000件の特許出願のうちの40%が拒絶されており、その大半がプロメテウス判決後に審査を受けていた。拒絶されたものには、診断用タンパク質、海洋生物から抽出された医薬品、養殖魚の特定の遺伝的形質を検出するための検査法がある。

この結果に弁護士は懸念を持っている。バイオテクノロジー産業協会(ワシントンD.C.)の次席法務顧問(知的財産担当)Hans Sauerもその1人だ。「ミリアド判決は、射程範囲が比較的狭く、過去の判例を徐々に発展させる趣旨だったことが、かなり明白です。その結果が、洗濯用洗剤に添加する工業用酵素や抗生物質に関する特許出願の拒絶で本当に良いのでしょうか?」とSauer。

これに対しては、政府はなすべきことをそのとおりに行っていると評する者もいる。クリーブランド・クリニック(オハイオ州)の医師で、ミリアド訴訟の原告団に加わった米国分子病理学協会(メリーランド州ベセスダ)の専門職種間交流委員会の委員長を務めるRoger Kleinは「科学、医学、患者にとって正しいことをしていると思いますよ」と話す。

特許庁は、国民からの意見を受けてその方針を修正する義務を負っているわけではないが、修正する可能性は非常に高い、と特許庁の広報官Patrick Rossは話す。「受け取ったコメントの検討がすでに始まっており、方針の修正可能性を模索しています」とRossは付言する。ただし、方針の修正に期限は定められていない。

ブルームバーグBNA社の調査では、特許出願した発明が自然界に存在するものと有意に異なっていることを特許審査官に明確に示すことで、多くの企業は特許出願拒絶を回避してきたことも指摘されている。例えば、前述の養殖魚の事例では、特許出願者が養殖に適したタラを飼育するために遺伝的情報を用いた過程を明確に示したことで特許が認められた。

ブルームバーグBNA調査報告書の執筆者の1人であるロビンス・キャプラン・ミラー&シレッジ法律事務所(ニューヨーク)の特許専門弁護士Matthew McFarlaneは、「各社が待ちの姿勢に転じ、問題を避けるために何ができるのか見極めようと努力しています。ルールが変わるときはいつもこうなるのです」と話す。

翻訳:菊川要

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 10

DOI: 10.1038/ndigest.2014.141017

原文

Biotech reels over patent ruling
  • Nature (2014-07-10) | DOI: 10.1038/511138a
  • Erika Check Hayden