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毛を生む組織再生のカギは培養法にあった

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140103

原文:Nature (2013-10-21) | doi: 10.1038/nature.2013.13983 | Cultured follicles offer hope for beating baldness

Brian Owens

毛包は、毛髪を生み出し支える皮膚内の器官で、毛髪再生に重要だ。毛包の誘導は、これまでマウスでしか成功していなかったが、今回、古典的な培養法を用いることで、ヒト毛包の誘導にも成功した。

ヒト毛乳頭細胞を培養してできた細胞塊。この細胞塊をヒト皮膚に移植すると、ヒトの毛が新たに生えてきた。

Credit: Claire Higgins/Christiano Lab at Columbia University Medical Center

昔も今も、脱毛症による頭髪の減少に悩む人々にとって人生は不公平なものだ。40年以上も前にはすでに、生まれつき毛のない齧歯類(無毛マウス)に、毛髪形成に重要な毛包と呼ばれる構造を生じさせる方法が明らかになっている。これは、シャーレで培養した皮膚細胞を皮下移植するという方法だ。ところが、これと同じことをヒトで試みてもいっこうに成功しなかった。しかし今回、細胞の培養法を少し変えるだけで、脱毛症の治療にとって有望そうな結果が得られることが分かり、2013年10月21日にProceedings of the National Academy of Sciencesに発表された1

毛包の形成には毛乳頭細胞と呼ばれる皮膚の細胞が大きく関わっている。この毛乳頭細胞を採取してシャーレで培養すると、マウスの場合は増殖して細胞塊を形成する。しかし、ヒト毛乳頭細胞の場合は細胞塊を形成しない。このことから、コロンビア大学(米国ニューヨーク州)の遺伝学者Angela Christianoと共同研究者であるダラム大学(英国)の細胞生物学者Colin Jahodaは、マウスで毛包誘導が成功するのは、その毛乳頭細胞の凝集塊形成能力であるからではないかと考えた。

そこで彼らは、ヒト毛乳頭細胞を懸滴培養してみた。この方法は100年ほど前に編み出され、シャーレの蓋側に培養液で懸濁させた細胞を付着させて培養する。この培養法を用いると、細胞は平面状には広がらず、重力のために水滴の底部に集まって、より自然な三次元的配置の塊となる。

「懸滴培養法を使うことで、培養細胞は空間的配置を維持して細胞外マトリックスを形成することができます。そのおかげで、毛乳頭細胞は毛包形成を誘導できるようになるのだと思われます」とChristianoは話す。

髪形に悩まぬ日も近い?

今回Christianoは、ラットの背中にヒトの毛のない皮膚を移植し、懸滴培養した細胞塊をその皮下に移植した。すると、毛包の発生が誘導されたことが確認できた。

またChristianoは、細胞を平らな面で二次元的に増殖させると、約4000個の遺伝子の発現が異常になるが、懸滴培養法を用いることで、それらの遺伝子のうち約22%の機能が正常に回復することを見いだした。従って、細胞が毛包形成の誘導能を持つには、それくらいの数の遺伝子が機能していればいいようだ。なお機能が回復した遺伝子の中には、細胞外から細胞内へシグナルを伝える重要なWntシグナル伝達経路に関わる遺伝子など、すでに発毛と関連付けられていたものも含まれていた。この結果についてChristianoは、「毛包形成を誘導するには案外少ない遺伝子で十分なのだと分かって驚きました」と話す。

上皮の生物学的特性に詳しいスタンフォード大学(米国カリフォルニア州)のAnthony Oroは、細胞塊の取る構造がこれほど重要だという知見は、そう驚くことではないだろうと話す。「美しい三次元構造のものを平たい二次元の構造にさせても、それを構成する細胞は本来の特性を保持するだろう、というのは我々の勝手な思い込みです。それは、細胞に尋ねるべき問題なのです」。

Oroはさらに、今回の研究成果は刺激的なものだが、マウスの背に毛が生えたといっても「まだ、ゴールデンタイムのニュースで取り上げられるほどのものではない」と付け加えた。なぜなら、今回の研究で得られた毛包全てが皮膚から生える毛を作り出したわけではなく、また、この毛包には色素や皮脂腺も備わっていなかったからだ。Christianoによれば、そうした問題点を解消して、この手法を実用化にこぎ着けるまでには、まだしばらく時間がかかるという。今回の手法はさらに、抜け毛防止剤や育毛剤を体外条件下で試験するための組織スクリーニングモデルの開発にもつながるだろうと、彼は語った。

(翻訳:船田晶子)

参考文献

  1. Higgins, C. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1309970110 (2013).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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