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自然リンパ球の開拓者

–– 自然リンパ球の研究が活発化していますね。

小安: 新種のリンパ球を発見した私たちの2010年の論文(オンライン掲載2009年)1によって自然リンパ球がほぼ出揃ったことを契機に、自然リンパ球への興味が研究者の間に一気に広まりました。そして、自然リンパ球の概念の整理と、細胞の整理や分類が必要になりました。2012年には、オランダの研究者の呼びかけでメール会議を行い、命名法を相談し、Nature Review Immunology2に発表しました。

自然リンパ球とは?

–– そもそも自然リンパ球とは、どのような細胞なのですか?

小安: 「自然免疫で働くリンパ球」のことです。免疫で働く細胞は皆、造血幹細胞が分化してできたもので、リンパ球系と骨髄球系細胞に大別されます(図1)。これまでリンパ球系といえば、獲得免疫で働くT細胞やB細胞がよく知られ、一方、骨髄球系細胞といえば、自然免疫で働くマクロファージや樹状細胞などが主流です。ところが最近の研究から、リンパ球でありながら自然免疫で働くものが複数見つかり、皆が驚いたのです。

具体的には、ナチュラルキラー(NK)細胞やリンパ組織誘導(LTi)細胞、私たちが発見したナチュラルヘルパー(NH)細胞などがあります。

–– 自然免疫と獲得免疫の違いは?

小安: 人が病原体に感染すると、病原体と戦うために免疫系が働きます。免疫系の反応には、獲得免疫と自然免疫の2種類があり、時間差で起こるのです。

時間軸でみると、感染直後から起こる素早い反応が自然免疫。感染後約1週間経ってから起こる遅い反応が、獲得免疫です。獲得免疫は、病原体に特異的な抗体反応などで強力なのですが、起動が遅い。それまでの間、病原体の種類を大ざっぱに見分け、攻撃し続けてくれるのが自然免疫といえます。

–– 自然免疫でのリンパ球の役割は?

図2:感染後、時間差で起こる3つの免疫反応。
自然リンパ球による反応では、病原体により傷害された細胞や骨髄球系の細胞が、病原体由来の分子に反応したサイトカインを産生するのに時間がかかる。

小安: 自然免疫でも反応が段階的に起きていることが、自然リンパ球の発見により明らかになってきました。つまり、感染が生じると、感染部位周辺の傷害された細胞や病原体由来の分子により、まず初期応答が引き起こされます。その後、約24時間かかって、初期応答で作られたサイトカイン(細胞の情報伝達を担うタンパク質)に呼応した自然リンパ球による反応が立ち上がるのです(図2)。

自然リンパ球を3グループに分類

–– 自然リンパ球はどのように分類されるのですか?

図3:自然免疫で働くリンパ球(自然リンパ球)と獲得免疫で働くリンパ球には対応関係がある。ILCはInnate Lymphoid Cell、ILはインターロイキン、INFはインターフェロンの略。グループ1には他にThymic NK、グループ2には他にNuocyte、グループ3には他にNKp46陽性LTiといった細胞が見つかっている。

小安: 病原体の種類などに応じ、働く自然リンパ球も異なっていて、今では、大きく3つのグループに分かれることが分かっています(図3)。病原体がウイルスや細菌か、寄生虫か、また細胞内感染か、細胞外感染かなどによって分かれるのです。グループ1の自然リンパ球にはNK細胞、2にはNH細胞、3にはLTi細胞などが含まれます。

–– 自然リンパ球の働きは?

小安: 感染に伴う刺激で増殖し、サイトカインを分泌して作用を発揮します。例えば、グループ2に属するNH細胞は、主にインターロイキン33の刺激で増殖し、インターロイキン5、6、13などのサイトカインを多量に産生することで、さまざまな炎症免疫反応を誘導します。

–– 自然免疫と獲得免疫で働くリンパ球の関係は?

小安: 極めて興味深いことに、対応関係が見られるのです。つまり、産生するサイトカインや作用する病原体の種類が対応するのです。1型ヘルパーT細胞(Th1)がグループ1に、Th2がグループ2に、Th17がグループ3に対応します。例えば、獲得免疫で働くリンパ球であるTh2は、グループ2の自然リンパ球と同じ種類のサイトカインを産生し、同様に寄生虫感染防御に作用するといった具合です。

–– 自然リンパ球の英語表記は?

小安: 「Innate Lymphoid Cell(ILC)」と書きます。私は最初「Innate Lymphocyte」を提唱しましたが、ILCと同様に初期反応に関わるγδT細胞(γδT-lymphocyte)やNKT細胞などと混乱するという理由から、前述の英語に落ち着きました。

ところで2012年の命名法提案では、「グループ」という単語を用いていますが、多くの論文では単にILC1細胞などとひとまとめに表記しています。これだと、ILCが多様な細胞種を含むグループであることが伝わらないので、私は、Group1(あるいは2、3)Innate Lymphoid Cellと書くべきだと主張しています。

NH細胞発見を振り返って

–– NK細胞は、古くから知られていた自然リンパ球といえますね。

小安: NK細胞が自然免疫で働く例外的なリンパ球であることは以前から知られていましたが、LTi細胞が成体の自然免疫で働くことが発見されたのは、2009年です。でも、これらの全体像を自然リンパ球という枠組みで考えるまでには至りませんでした。私たちの論文が出てTh1、Th2、Th17との対応関係が見えたことで、初めてNK細胞とNH細胞とLTi細胞の共通性が見えたのです。

–– NH細胞を発見したきっかけは?

小安: 偶然によるところも大きいですね。当時大学院生の茂呂和世さんが、腹腔の腸管膜辺りを観察したときに、これまでに報告のないリンパ球細胞の集積を見つけました。研究テーマを探していた彼女は、この集積を調べてみることにしました。細胞表面のマーカータンパク質を調べると、教科書に載っていない新しいタイプのリンパ球が含まれていたのです。

–– それが、NH細胞だったのですね。

小安: そうなのですが、最初は、リンパ球の前駆細胞で未分化なのだと考えました。それで分化するのではと2年間調べましたが、何の細胞にも分化しなかったのです。

そこで、機能を調べようと、マイクロアレイで遺伝子発現を解析しました。すると、Th2型サイトカインの発現が高いことが分かり、また細胞を刺激すると、多量のIL5とIL13を産生したのです。驚きましたね。

IL5とIL13は、寄生虫に感染したときにTh2細胞が分泌するサイトカインで、その働きにより、寄生虫を攻撃する好酸球を誘導することや寄生虫を洗い流す粘液分泌が起こることが知られています。そこで、私たちが発見した細胞と寄生虫感染の関係を調べてみると、この細胞は、寄生虫感染の初期(感染後約2日目)からIL5やIL13を分泌し、Th2細胞が働き始めるまで、寄生虫を攻撃していることが分かったのです。この細胞は抗原特異的受容体を持たないことから、自然免疫の細胞と考えられ、ナチュラルヘルパー細胞と名付けました。

NH 細胞を発見・解析した茂呂和世上級研究員。「Nature に掲載されるまでは、学会でポスター発表などしても、誰も興味を示してくれませんでした」と言う。「でも私は、どの教科書にも載っていない、私の見つけた細胞がかわいくて、研究がつらいと思ったことは一度もありませんでした」。

–– これまで発見されなかったのはなぜ?

小安: 理由の1つは、脂肪組織に含まれていたことでしょう。免疫の研究では、「脂肪細胞はきれいに取り除いて実験する」が鉄則です。免疫細胞が脂肪細胞に付着して、収量が落ちてしまいますから。

また、茂呂さんが観察に用いたマウスが、出産年齢を過ぎた予備実験用の高齢マウスだったことも幸いしたと思います。若いマウスでは、このリンパ球の集積が少ないことが後になって分かりました。病気や加齢により、こうした集積が増えるようです。

今後の研究

–– NH細胞はアレルギーにも関係するのですか?

小安: はい。ダニなどのアレルゲンが気道の上皮細胞から入り込むと、その刺激によって作られるIL-33に反応してNH細胞が活性化されることが分かりました。免疫による炎症反応で制御を逸脱したものがアレルギーです。ぜんそくの治療薬ステロイドはNH細胞を殺す働きをしますが、重症化するとステロイドは効きません。このときNH細胞は、TSLPというサイトカインの働きで死ななくなっていることが分かりました3。今後も、アレルギーに関する研究を深めていきたいと考えています。

–– 理研の新センターの名称は「免疫」ではなく、「統合生命医科学」ですね。

小安: 人間の健康には、免疫だけでなく、代謝、神経系などさまざまな働きが関わっています。そのため、体の機能は少々の環境変化には影響されません。この「恒常性」を保つことが健康にとって大切です。恒常性が破綻するとさまざまな疾患にかかります。これまでの研究から、特定の疾患にかかりやすい遺伝子型(疾患関連遺伝子)が次々と明らかにされています。遺伝学などの情報に着目しつつ、恒常性の維持機構と破綻に至る過程を明らかにすることで疾患の発症機構を明らかにし、疾患の予測や予防につなげることを目指しています。こういう観点からの命名です。

個人的には、脂肪組織の恒常性と、それが逸脱して起こる代謝疾患の観点からも、自然リンパ球の研究を深めていきたいという希望を持っています。

–– 今後の抱負は?

小安: いろいろな仕事があり、大変ではありますが、若手には楽しそうな様子を見せなくちゃ、と感じています。自分が学生だった頃、教授や先輩たちはすごく楽しそうに研究していましたから。実は、研究テーマはまず自分で考えるというのが私のラボの方針ですが、最近は、「テーマをください」と言う学生が時々いて、驚いてしまいます。今の教授や先輩研究者たちは、楽しそうに研究していないのかもしれない。だから、効率のよいテーマを求めるのかもしれない。そこで、うそでも楽しそうな姿を見せようと、反省した次第です。もっとも、こんな発見ができて、本当に楽しいのですが。

–– ありがとうございました。

聞き手は藤川良子(サイエンスライター)。

Author Profile

小安 重夫(こやす・しげお)

理化学研究所 統合生命医科学研究センター センター長代行および免疫細胞システム研究グループ グループディレクター。理学博士。1978年 東京大学理学部生物化学科卒、81年 同大学院中退。81年(財)東京都臨床医学総合研究所研究員。88年ハーバード医科大学ポスドク。助教授、准教授を経て、95年より慶應義塾大学医学部 教授(微生物学・免疫学教室)。2011年より理研 免疫・アレルギー科学総合研究センター 副センター長。2013年より現職。

小安 重夫氏

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 1

DOI: 10.1038/ndigest.2014.140117

参考文献

  1. Moro, K., et al. Nature. 463, 540-544 (2010).
  2. Spits, H., et al. Nat. Rev. Immunol. 13, 145-149 (2013).
  3. Kabata, H., Moro, K., et al. Nat Communication. 10.1038/ncomms3675 (2013).