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新気象予報システムがアフリカを救う?

2013年10月22日、気象学者たちは、中部ギニアの山岳地方で午後に発生した雷雨の発達を見守っていた。夕方には、風雨はさらに強まって、その範囲は大西洋岸に向かって西に移動していった。その日の20時20分、気象学者たちは観測システムから「雷雨警報」を受け取った。それから45分間にわたり、フリア市の13万人の住民は、豪雨と鉄砲水と秒速21mの強風に見舞われた。

この晩のような出来事は、ギニアでは珍しいものではない。雨季の間、フリア市や海岸沿いの首都コナクリは、この規模の暴風雨に日常的に襲われるのだ。鉄砲水はいろいろな場所で問題になっているし、竜巻もしばしば発生する。

ただ、1つだけ普段とは異なる点があった。それは、その暴風雨を検知した方法だ。雨の検知には、通常、ドップラー・レーダー・システムが利用される。けれどもギニアにはこの設備がなく、政府の気象学者たちはこれまで、ごく簡単な設備で気象観測を行ってきた。欧州と米国から提供される無料の衛星データと気象予報はあるものの、この情報は粗く、情報提供の頻度も低い。そこでギニアでは数カ月前から、これらに代わる最新かつ導入の簡単な方法で暴風雨を予報する取り組みが始まっている。観測するのは雨そのものではなく「雷」だ。

雨の代わりに雲間放電の観測データを使って、暴風雨を予報することができる。

Credit: THINKSTOCK

ギニア国立気象局が全国の暴風雨の発達状況を追跡することを可能にしたのは、わずか12カ所の携帯電話中継塔の頂上に取り付けられた雷センサーだった(「電光石火の早業」参照)。「このプロジェクトでは、全土からほぼリアルタイムにデータを受け取ることができます」と、気象局長のMamadou Lamine Bahは言う。

今回、雷検知システムを利用すれば、貧しい国でも短期間で比較的安価に基本的な気象サービスを国民に提供できるようになることが、このプロジェクトで示された。アース・ネットワークス社(米国メリーランド州ジャーマンタウン)は、約100万ドル(約1億円)を投じて、ギニアに現在のネットワークを整備した。Bahによると、ドップラー・レーダー・システムを配備しようとすれば、ごく単純なものであっても約1000万ドル(約10億円)はかかるという。問題は、設置にかかる初期費用だけではない。ギニアのような国には、ドップラー・レーダー・システムの専門家など当然いないため、システムを配備しても、維持・運用することができないのだ。

アース・ネットワークス社は、現在は無料でギニアに雷の観測データを提供しているが、将来的には有料でこのサービスを提供したいと考えている。

同社はすでに、米国海洋大気庁(NOAA;メリーランド州シルバースプリング)や米空軍を含む米国政府関係機関と500万ドル(約5億円)相当以上の契約を結んでいて、北米とカリブ海域に広く設置された700台近いセンサーで観測した雷のデータを提供している。ゴルフ場や空港などの小さい顧客も持っている。アース・ネットワークス社の社長で最高経営責任者であるRobert Marshallは、「私たちのシステムは、世界中のどんな場所でも機能し、すぐに結果を出すことができます。これこそ本物のブレイクスルーです」と語る。

Credit: EARTH NETWORKS

アース・ネットワークス社の雷センサーは、長さ26cmのアンテナを利用して、雷の放電からの高周波電磁シグナルを記録する。この技術は、マサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)で進められていた研究にルーツを持ち、同社は2006年にこの技術を取得した後、複数のセンサーが捉えた雷の位置を三角法により正確に特定するためのソフトウエアを開発した。

アース・ネットワークス社には、バイサラ社(フィンランド・バンター)をはじめとするライバル企業がいくつもある。けれども同社は2009年に、雲と地面の間で起こる大きな雷(対地放電)だけでなく雲から雲への放電(雲間放電)も追跡できるシステムを他社に先駆けて配備した。雲間放電は対地放電よりも頻繁に起こり、暴風雨が発達する過程で発生することが知られている。アース・ネットワークス社は、このデータを利用して暴風雨の活動の評価と雨量の推定を行い、ドップラー・レーダーを使用するNOAAの米国立気象局よりも9~16分早く暴風雨警報を出している。

NOAAは現在、暴風雨の追跡精度を高めるために、高解像度気象モデルに雷の観測データを組み込む方法を模索している。NOAA地球システム調査研究所(米国コロラド州ボールダー)のAlexander MacDonald所長は、「雷センサーは非常に強力な技術です」と言う。現在NOAAが使っている雷の観測データは、アース・ネットワークス社の携帯電話の中継塔に設置されたアンテナからのものだ。しかし将来的には、2016年にNOAAが打ち上げ予定の次の静止気象衛星によってデータを収集する予定であるとMacDonaldは説明する。

それでも、アース・ネットワークス社の革新的な技術は、人工衛星やレーダーを利用した気象サービスを提供する余裕のない国々に大きな影響を与え続けるであろう。同社は、ブラジルの大半をカバーする50基以上のアンテナと、インド全土をカバーする50基のアンテナを所有していて、この2カ国だけで合計数百万ドル相当の契約をしているという。ギニアでのプロジェクトは、科学力がほとんどなく気象インフラもないに等しい国に、同社の技術を紹介する目的で行われた販促活動の一環だ。

オクラホマ大学(米国ノーマン)の大気科学者で、間もなく出版される世界銀行の報告書『発展途上国における気象サービス』の著者であるJohn Snowは、ギニアでのプロジェクトは発展途上国にとって魅力的なモデルであると言う。簡単な気象センサーを備えた携帯電話の中継塔は、気象観測点として理想的な条件を提供するものではないが、アース・ネットワークス社が提携する電気通信会社が、安全と技術者と通信を提供してくれる点が重要と彼は指摘する。独自に気象観測点を設置すれば、より正確なデータを提供できるかもしれないが、既存の電話中継塔を利用する方が安価で確実であり、「これは実際的な解決策であり、私たちを正しい方向に導いてくれます」とSnowは語った。

Bahによると、ギニア国立気象局が次に考えるべきことは、人々に警報を伝える方法であるという。その手段はおそらく電話だろう。現時点では、同局は、1日に2回か3回、ラジオで気象予報を放送しているだけである。資金の問題もある。今後はアース・ネットワークス社に料金を支払わなければならないし、正式に雷の観測データを組み込んだ気象観測システムを構築するための資金も必要である。問題は残っているが、ギニアの気象サービスは、わずか数カ月で、おおまかな予報しか出せない段階から暴風雨をリアルタイムで追跡できる段階まで進歩することができた。「このシステムは、ギニアのような国でも配備できることが分かったといってよいと思います」とBahは言う。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 1

DOI: 10.1038/ndigest.2014.140112

原文

Lightning network tested out in Guinea
  • Nature (2013-10-31) | DOI: 10.1038/502604a
  • Jeff Tollefson