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リーダーに続け

ゴールデンシャイナーとして知られるミノウ(ヒメハヤ)という魚は、オリンピックの最も厳しい審査員を感動させるほど見事なシンクロナイズドスイミングを披露する。こうした魚群が調和して方向転換する能力はかねて科学者の興味の的で、群泳のメカニズムを数式で表す方法がいくつか開発された。だがそれらは単純化されていることが多く、魚がリアルタイムで感知する情報を全て考慮しているわけではない。

魚が群泳中に実際にしていることを詳しく把握するため、プリンストン大学(米国ニュージャージー州)の生物学者Iain Couzinらはゴールデンシャイナーの群れに合図して全体をタイミングよく動かす方法を考案した。緑の光に向かえばエサがあることを数匹の魚に教えた後、群れに加えた。緑のランプを点灯すると、訓練された魚はそちらに向かって泳ぎ始め、これをきっかけに残りの魚たちも次々にリーダーの後を追った。

Couzinらはこの行動を高速ビデオカメラで撮影し、それぞれの魚の場所と頭の位置に基づいて、当の魚の視野をマッピングした。この結果、それぞれの魚は自分がこれから進む方向を最寄りの魚の動きに従って決めているのではないことが分かった。視野に入った魚全体がどこに向かっているか、その方向を合成して決めているようだ。この結果はCurrent Biologyに報告された。

「1匹の魚が光に向かって動き始める瞬間を特定できました。このおかげで、視野に見えている個体のうち動き始めた魚に反応して動いていることが分かったのです」とCouzin。

群れの遺伝子

一方、そもそも魚がなぜ群れをなすのかを突き止めようとしている研究グループもある。フレッド・ハッチンソンがん研究センター(米国ワシントン州シアトル)の生物学者Katie Peichelらは、イトヨの群泳行動が少なくとも2つの遺伝子群によっていることを明らかにした。片方の遺伝子群は他の魚を大きな群れに迎え入れる傾向を調節しており、他方の遺伝子群はその魚が隣の魚と向きをそろえて整列隊形で泳ぐ能力に影響している。この成果は、Current Biologyに報告された。

群れをなすという行動上の特徴と群泳を可能にする知覚能力によって、魚は捕食者から身を守るのに役立つ見事な泳ぎを実現している。「群れを作ることによって、魚は異なる方法で世界を感知しています」とCouzinは言う。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 1

DOI: 10.1038/ndigest.2014.140106a