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銀河系外からの謎の電波バースト

オーストラリアのパークス天文台の電波望遠鏡で見つかった謎めいた電波バーストは、銀河系外のはるか遠くからやって来たらしい。

Credit: Getty Images

私たちの銀河系(天の川銀河)の外からやって来たことを強く示す波形を持った、極めて短時間の電波バーストが初めて見つかった。この謎に包まれた電波バーストの持続時間は数ミリ秒で、全天では約10秒に1回の頻度で地球に届いているとみられる。発見したのは、英国、米国、オーストラリアなどの国際研究チームで、「未知の電波放出現象によって生じているらしい」とScience 2013年7月5日号に報告した1

米国立電波天文台(バージニア州シャーロッツビル)のScott Ransomは「今回の発見は、電波天文学における、ここ20年で最も重要な発見の1つです」と話す。Ransomは今回の研究には加わっていない。

今回の論文の著者の1人で、英国マンチェスター大学の天文学者Dan Thorntonは、「数日から数か月かけて変化する電波信号であれば、何十年も前から、遠い銀河からやって来るものが観測されています。しかし、継続時間の極めて短い信号で銀河外から来たものは、これまで、明確に検出されたことはありませんでした」と話す。2007年に、そうした極めて短い電波バーストらしい信号が見つかったことを示唆する報告があり、Thorntonらは銀河系外からの電波バーストの探索を開始した2

2007年に電波バーストらしき信号を観測したのは、オーストラリア南東部にあるパークス天文台の口径64mの電波望遠鏡である。Thorntonらはここのアーカイブデータを使い、今回、銀河系外から来たとみられる4つのバーストを発見した。

電波が宇宙空間の電離した物質の中を進むとき、多数の電子の海に遭遇する。電子の海は電波信号の低い周波数成分の速度を遅くする。一方、高い周波数成分はそれほど影響を受けない。その結果、持続時間の短い電波信号であっても、長距離を旅する間に引き伸ばされ、分散が生じる。今回Thorntonらの研究チームが発見した4つの電波信号は、引き伸ばされ方(分散)が大きく、銀河系内の電子分布では、その分散の3~6%しか説明できない。これは、4つの信号(それぞれ、空の異なる領域から来た)が全て、私たちの銀河系の外から来たことを示す強力な証拠だ。「これらの信号が銀河系外から来たことはほぼ間違いありません」とRansomは話す。

行方不明のバリオン

電波バーストは、銀河系の果てよりはるか遠くからやって来ており、銀河間空間の電子分布モデルによれば、17億~32億パーセク(55億~100億光年)の宇宙空間を横切って地球に到達したとみられる。

電波バーストの短さと明るさは、マグネター(極端に強い磁場を持つ中性子星)など、小さくて高エネルギーの天体によってバーストが放出されたことを示唆している。「このバーストは、大量の質量とエネルギーが関わる、非常に激しい現象が存在することを示しています」とThorntonは話す。しかし、この短い信号がどこから来るのか、その位置を正確に突き止めることはできていない。起源は謎のままだ。

パークス天文台の研究者たちは今、電波バーストをリアルタイムで見つけ、同じ源から出ているとみられる可視光を光学望遠鏡で探そうとしている。その光の波長から、電波源がどれだけ遠いかを正確に計算できるかもしれない。

距離を正確に知ることができれば、電波の分散から、銀河間の宇宙空間にある電子の密度を知ることができる。電子の存在量は、銀河間空間に存在するバリオン(陽子や中性子など)の量についても教えてくれるはずだ。

研究者たちは、バリオンの存在量に強い関心を持っている。現在の宇宙の構成に関する未解決の問題を解くカギになるかもしれないからだ。地球に近い宇宙(現在の宇宙)の銀河などに含まれるバリオン量は、宇宙の初期にあったことが観測でわかっているバリオン量に比べてはるかに少ない。かつて存在したバリオンはどこへ行ってしまったのか。「今回見つかった電波バーストは、足りないバリオンを探し出す手がかりになるかもしれません」とThorntonは指摘している。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 9

DOI: 10.1038/ndigest.2013.130903

原文

Mystery extra-galactic radio bursts could solve cosmic puzzle
  • Nature (2013-07-04) | DOI: 10.1038/nature.2013.13332
  • Ron Cowen

参考文献

  1. Thornton, D. et al. Science 341, 53–56 (2013).
  2. Lorimer, D. R., Bailes, M., McLaughlin, M. A., Narkevic, D. J. & Crawford, F. Science 318, 777–780 (2007).