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不安が健康によいこともある

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130909a

短期ストレスが、免疫系を活性化する場合がある

Firdaus Dhabharは赤ちゃんが泣きながら注射されているところを撮影するのが好きだ。サディスティックな趣味からではない。大泣きはよいしるしだと考えているからだ。

スタンフォード大学でストレスが身体に及ぼす影響を研究しているDhabharらは、ストレスで疲れ切ったマウスが、ストレスなしの環境に置かれた対照群よりも、ワクチンに対して強い免疫反応を示すことを発見した。

同様のことが人間でも起こる。例えばひざを手術した患者を調べたDhabharの研究では、手術が近づいて不安を感じることで患者の血液中の免疫細胞の数が増えることが明らかになった。

こうした結果から、Dhabharは、ストレスは必ずしも悪いものではなく、場合によっては健康によい影響を与えることがあると確信するようになった。

Dhabharらは短期ストレスの利点と慢性ストレスの結果とを比較した。慢性ストレスは免疫系を抑制することが以前から知られてきたが、この実験では、免疫系が過活動状態になっているアレルギーや喘息や自己免疫疾患などが、慢性ストレスによってさらに悪化する例が見られた。いったいストレスは免疫系を刺激するのか、それとも抑制するのか?

この点に関しては、生物ではよくみられるように、事情が入り組んでいるせいで非常にわかりにくい。答えは状況や個人しだいで変わる。一時的な強いストレスは免疫系の一部を活性化する傾向があるが、免疫系の他の部分は変わらない。反対に、慢性ストレスは一般に免疫系全体を抑制するが、免疫系が良性の組織を攻撃しがちになることもある。

ひざを手術した患者の研究では、手術前の不安に対する免疫系の反応は患者によって違いがあった。ある患者はすばやい適応的な反応を示し、血中の免疫細胞数が手術の数日前に最大となり、それらが全身の組織に移動するにつれて血中の数は減った。別の患者はもっと鈍い不適応的な反応を示し、免疫細胞のレベルは基準値からほとんど変動しなかった。予想されるとおり、免疫系が適応的な反応を示した患者は術後の回復が速かった。

こうした個人差の背後にある生物学的メカニズムをさらに深く理解するには、何十年もの研究が必要になるだろう。だが現時点でも確実にいえることが少なくとも1つある。注射の際にストレスを感じることに問題はない。よいことかもしれないのだから。

(翻訳:粟木瑞穂)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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