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ポリオウイルス最後の隠れ家

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130909b

ポリオ撲滅のカギは、「慢性排菌者」の特定だ

世界のポリオ根絶が目前に迫った現在、油断のならない別の脅威が浮上している。隠された感染源が目の前にあるのだ。

ポリオの最後の隠れ家となっているのは「慢性排菌者」だ。免疫系の働きが弱いため、子どもの頃に投与された経口ワクチンに含まれていた弱毒化ポリオウイルスが体内で生き続け、長年にわたって腸や上気道から排出され続けているのだ。健康な子どもでは、ワクチンに反応して生じた抗体がウイルスの増殖を止め、感染に対する免疫を獲得する。それに対し、慢性排菌者はこのプロセスが不完全に終わり、大量のウイルスを排出し続ける。経口ワクチンの弱毒化ポリオウイルスは、変異によって病原性を取り戻す可能性があり、感染するとポリオ特有の麻痺を生じる。この可能性は1990年代に広く認識されるようになり、関係者に大きな衝撃を与えた。

英国立生物学的製剤研究所(NIBSC)の副所長Philip Minorは、以下のような生物医学的悪夢を思い描いている。野生株のポリオウイルスが絶滅し、各国がワクチン接種を削減する。ある慢性排菌者がワクチン接種を受けていない赤ん坊にキスし、その子が保育所に行く。そして一大事になる。まわりによだれを垂らして、ウイルスをまき散らす。「つまり、先進国からポリオが復活する可能性があるのです」。

同じことは途上国でも起こりうる。2009年、その5年前にポリオ経口ワクチンを投与されていたインドの11歳の免疫不全の少年がポリオによる麻痺を発症した。それまで、この少年が慢性排菌者であることは気付かれなかった。

慢性排菌者は普通本人が発症して初めて特定されるので、それまで何年も密かにウイルスをまき散らしてしまう。だが幸い、そうした例はまれだ。世界保健機関(WHO)で「世界ポリオ撲滅イニシアチブ」を統括しているRoland W. Shutterによると、ワクチンウイルスの排出を止める有望な薬も開発中だという。

ただ、そうした薬も慢性排菌者が特定されないと役に立たず、この特定が容易ではない。都市下水を監視している国もあり、慢性排菌者からのウイルスを発見した例も多いが、個人の特定には至っていない。医師にかかっている免疫不全患者ではなく、自分が免疫不全であることに気付いておらず、専門的な治療を受けていないのかもしれない。

「慢性排菌者の頭上にはダモクレスの剣がつるされている」とShutterは言う。そして、私たちの頭上にも、同じ剣がつるされている。

(翻訳:粟木瑞穂)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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