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ハエ型ロボット

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130920

原文:Nature (2013-06-20) | doi: 10.1038/nature12258 | Flying like a fly

David Lentink

生物学者や航空工学者たちが昆虫の飛翔原理を解明すると、技術者たちは、その空気力学的メカニズムに基づくロボットの製作に着手した。 そして今回、マイクロ製造技術の延長から、最初のハエロボットが空へと羽ばたいた。

秘密の指令センターから送り込まれたハエロボットが、家の中の様子をひそかに監視している―。SF映画などでおなじみのこうしたシーンは、冷戦時代の異常な猜疑心が大衆文化に現れたものであり、純然たるフィクションだった。当時の科学者は、昆虫の飛翔メカニズムを理論的に説明することができなかった。彼らの空気力学理論は固定翼機を前提としていたため、昆虫の翅が作り出す揚力は小さすぎ、その体を空中に浮かせ続けることはできないはずだ、という計算結果しか出なかったのである。けれども、この20年間に、昆虫の飛翔についての空気力学的理解と、その飛翔メカニズムを摸倣・利用したロボットの製作技術が、飛躍的に進歩した。Woodらは、今回、現時点での最高到達点として、実物大のハエロボットの制御飛行に初めて成功したとScienceで報告した(Ma et al.1*

昆虫の飛翔メカニズムの解明にとって特に重要な研究は、1996年に巨大なスズメガの動的スケーリング模型を用いて行われた研究だった2。このロボットは、計算により決定された3秒に1回というゆっくりしたペースで悠然と羽ばたくことで、ホバリングするガの周りの気流と揚力を再現することができた。研究者らは、ロボットの翅の内部から煙が出るようにすることで、それぞれの翅の前縁に沿って竜巻のような渦が外側に移動していくのを可視化することに成功した。昆虫の翅が、飛行機なら気流が剥離して失速するような大きい迎角(翼の前縁と後縁を結ぶ線と、気流の方向とが作る角度)でも機能し、より大きな揚力を生じることができるのは、この前縁の渦が非常に安定しているためだったのだ。

煙を使った実験は、渦の存在は明らかにしたものの、渦により揚力がどれだけ大きくなったかを示すことはできなかった。そこで、別の研究グループが、昆虫の翅の揚力を測定するため、ショウジョウバエを100倍の大きさにしたハエロボットRoboflyを製作し、これを鉱油のタンクに沈めて研究を行った3。流体力は、粘性の2乗と密度との比に比例する。その他の条件をすべて同じにした流れでは、鉱油中での揚力の大きさは、空気中での揚力の5万倍もの大きさになる。この増幅により、ショウジョウバエがホバリングするときの複雑な動作に関する空気力学的メカニズムを記録し、解明することが可能になった。

Roboflyの研究から得られた知見は、電気工学者が実物大のハエロボットを設計することを可能にした4。空想の産物にすぎなかったハエロボットが、ついに研究者にとっても現実味のある存在になり5、ハエロボットの進化が始まったのだ。

図1:羽ばたくミニチュアロボット
3種類のミニチュアロボットは、それぞれ動物のホバリングのある側面を模倣している。
a. 受動的安定性によって飛行するDelFly 7 は、尾部で姿勢を制御する昆虫のようにホバリングすることができる。
b. 尾部のないNano Hummingbird 8 は、本体に搭載された自動操縦装置によって安定した姿勢を保つ。自動操縦装置は、本物のハチドリのように羽ばたきの迎角を制御している。
c. 今回初めて飛行したMaらのハエロボット 1 は、電線につながれていて、そこから翼のそれぞれの「飛翔筋」に調整された力を供給し、ロボットを制御している。

Credit: B.Nano Humming bird : AP/ アフロ

とはいえ、当時の電子部品は重かったため、「フライ級」ならぬ「ハエ並みの重さ」のロボットを製作することは不可能だった。ハエのようにホバリングする最初の羽ばたきロボットMentorの翼幅が360mmもあり、重さも400g以上あったのは、そのためだ6。Mentorは、その重さのせいで垂直飛行もホバリングも短時間しかできず、自動操縦装置によって安定した姿勢を保っていた。次に製作された翼幅280mmのDelFly(図1a)というロボットは、かさばる電子機器の代わりに、設計デザイン自体が持っている受動的安定性によって飛行し、重さはわずか16gで、16分間も飛ぶことができた7。DelFlyは、垂直離着陸とホバリングのほか、トンボのように前方に飛行することもできた。

その後、若いアマチュアが、このデザインを縮小して翼幅わずか60mm、重さ920mgのロボットを製作し、屋内で飛行させた。2009年にYouTubeに投稿された動画(go.nature.com/qhrbnl)では、電池式のこのロボットが、1分以上にわたって非常に高い飛行性能を披露する姿を見ることができる。この時期、同じような目標を掲げ、数百万ドルの資金を投入したライバル研究プロジェクトが進められていたが、全然うまくいっていなかった。

そんな状況を変えたのが、Nano Hummingbird(図1b)だった8。Nano Hummingbirdは、初めて製作された尾部のない羽ばたきロボットで、垂直に離着陸することができた。その翼幅は160mmで、電池で11分間飛行することができ、自動操縦によって安定した姿勢を保ち、「名誉昆虫」とも呼ばれる本物のハチドリ(hummingbird)と同じように、1回ごとの羽ばたきの間に迎角を制御することで、操縦することができた。このように、Nano Hummingbirdは、ハチドリやハエに匹敵する非常に高い運動性を示したが、その重量は、まだ一般的なハチドリの5倍、イエバエの1000倍もあった。

これらのロボットは、「羽ばたき飛行機は、昆虫サイズに縮小しても機能しうる」という実験予測を実証した。基本的に、飛行機の飛行の基礎をなす空気力学的メカニズムは、スケールの制約を受けない7。しかし、ミリメートルスケールでは、効率よい軽量製作技術がないため、さらなる小型化は壁にぶつかっていた。Wood研究室の研究者らは、この解決に、10年以上の歳月を費やした。そして2012年に、ミリメートルスケールでの画期的な軽量製作技術を報告した。この技術は「飛び出す絵本」をヒントにしたもので、重さ80mg、翼幅30mmのハエロボットを大量生産することを可能にする9。このスケールになると、電気モーターとベアリングの性能の低下が避けられないため、研究チームは、ミニチュア圧電アクチュエーターと、低摩擦の柔軟ジョイント(関節)を開発した。

こうした技術的進歩が、Woodらの実物大ハエロボット(図1c)を実現させた。ただし、このロボットは電線につながれている。本体とは別のところに電池と自動操縦装置があるのだ。自動操縦装置は、ほぼ1回の羽ばたきごとにロボットの飛行経路を監視し、調整している。ロボット本体に搭載可能なマイクロメートルサイズの自動操縦装置は完成に近づいているが、マイクロ電池の開発はなお非常に難しい。つまり、自由に飛行する羽ばたきマイクロロボットがSFの世界から現実世界に飛び出すためには、なお、革命的な電池技術を必要としているのだ。

図2:羽ばたく昆虫は、飛翔する超小型ロボットのお手本

Credit: Getty Images

それが実現したら、昆虫サイズのロボットは、まずは目立たない(そして安価な)見張り役として空に放たれ、人質事件や市街戦の状況把握に用いられるようになるだろう。そしてさらに人工の花粉媒介者として農業に利用されるかもしれない。Maらは、自分たちのハエロボットは、昆虫の飛翔の生物学的理解を深めるうえでも役立つだろうと指摘する。例えば、ハエロボットを操作して、昆虫の飛翔の安定性や制御に関する仮説を検証することができるはずだ。

しかし、残念ながら、ロボットの羽ばたき翼が、空気力学的効率の上限をさらに押し上げることはない。重量に基づいて一対一で比較すると、ヘリコプターの回転翼が必要とする力は、常に、羽ばたき翼が必要とする力より小さいからである7,8。けれども気流の乱れた環境の中では、羽ばたきロボットの方がヘリコプターより安定に飛ぶことができる。動物は、乱れた気流の中でもうまく飛ぶことができるが、今の世代のマイクロ飛行機はまったく飛ぶことができない。あるいは、未来の兵士は、戦場で常にハエ叩きを携行することになるのかもしれない。

(翻訳:三枝小夜子)

David Lentinkは、スタンフォード大学機械工学科に所属している

*このNEWS&VIEWS記事は、2013年6月12日にオンライン版に掲載された

参考文献

  1. Ma, K. Y., Chirarattananon, P., Fuller, S. B. & Wood, R. J. Science 340, 603-607 (2013).
  2. Ellington, C. P., van den Berg, C., Willmott, A. P. & Thomas, A. L. R. Nature 384, 626-630 (1996).
  3. Dickinson, M. H., Lehmann, F. O. & Sane, S. P. Science 284, 1954-1960 (1999).
  4. Fearing, R. S. et al. in Proc. IEEE Int. Conf. Robotics Automation 1509-1516 (2000).
  5. Flynn, A. M. in Proc. IEEE Micro Robots and Teleoperators Workshop 221-225 (1987).
  6. Zdunich, P. et al. J. Aircraft 44, 1701-1711 (2007).
  7. Lentink, D., Jongerius, S. R. & Bradshaw, N. L. in Flying Insects and Robots (eds D. Floreano et al.) 185-205 (Springer, 2010).
  8. Keennon, M., Klingebiel, K., Won, H. & Andriukov, A. in 50th AIAA Aerospace Sciences Meeting 0588, 1-24 (2012).
  9. Sreetharan, P., Whitney, J., Strauss, M. & Wood, R. J. Micromech. Microeng. 22, 055027 (2012).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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