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野生のチーターのすばらしい身体能力

チーターは、広々と見渡せる環境や草木が密に茂った場所で、狩りを成功させることができる

Credit: KRYS GOLABEK

チーターは草木の茂みに身を潜め、若いアンテロープが群れからちょっとでも離れると、茂みから勢いよく飛び出て、自然界でも類のない猛烈なスピードで追いかけ、その獲物を仕留める。

これが我々の考えるチーターのイメージである。ところが今回初めて、野生のチーターの運動能力について生のデータを記録・収集・解析する研究が行われ、これまでの一般的な見方に反して、チーターが狩りをする際の武器は驚異的なスピードだけではないことが明らかになった。チーターが捕食者として成功しているのは、電光石火のごとき反射神経と、フェラーリをしのぐ高い加速能力のおかげでもあるというのだ。

動物の走る速度は、実はそう簡単に測定できるものではない。飼育されているチーターを動物園でまっすぐ走らせると、最大で秒速29m(およそ時速105km)もの速度を出せることがわかっている(N. C. C. Sharp J. Zool. 241, 493–494; 1997)。これは、短距離走競技の選手が出せる最高速度の倍以上である。しかし、チーターが野生環境でこれほどの速度を出せるのかどうか、実際に調べた研究はこれまでなかった。

そこで、ロンドン大学王立獣医カレッジ(英国)のAlan Wilsonたちは、GPS(全地球測位システム)と慣性測定装置を搭載した軽量型の太陽電池式首輪をチーターに装着して、獲物を狩る際の野生チーターの動きを詳しく追跡することにした。

研究チームは最初、この首輪をイヌに装着して浜辺を自由に走らせ、首輪の測定機能の精度を調べた。浜辺を走らせたことで、収集した情報と、砂浜に残った足跡を相互参照することができる。その結果明らかになった首輪の位置決め精度は、0.2mと驚くほど高かった。

次にチームは、ボツワナ北部のオカバンゴ・デルタ地帯を訪れ、麻酔銃で5頭のチーターを眠らせて首輪を付けた。その後17か月間のデータ収集はわりと順調に進んだが、得られたデータを解読するのはたいへんだった。データが予想と大きく異なっていたからである。

5頭の計367回の走行のうち、それぞれの個体の最高速度は、秒速25.9m、25.4m、22.0m、21.1m、20.1mだった。いずれも、飼育されたチーターの最速記録よりかなり遅い。そのうえ、大半の狩りでは中程度の速度しか出しておらず、最高速度の平均は秒速14.9mだった。このように、野生のチーターは飼育下の個体ほど高速では走らなかったが、ほかにいくつかの優れた運動能力を示した。それらの能力は、これまで計測が不可能だったものだ。

特に、加速時の仕事率(いわゆる馬力や瞬発力)は、体重1kg当たり最大120ワットとなった。これは、最速のグレーハウンド(ドッグレースや狩猟用の犬種)の約2倍、ウサイン・ボルトが100m競走で2009年に世界新記録を出したときの値の4倍以上である。チーターは急に減速することもでき、優秀なポロ専用馬(機敏な身のこなしができるよう品種改良や調教がなされた馬)より3倍も速く減速し、エネルギーを吸収できる。

Wilsonたちは、首輪からの情報と、チーターが現地で狩りに成功したかどうかの観察結果と、Google Earthからの地形情報とを組み合わせて解析した。その結果、チーターは、草木が生い茂る中で急角度のターンや急停止をして、狩りを成功させているケースが多いことがわかった。「チーターは短距離走者だと思われていますが、どうやらそれは、優れた能力のごく一部にすぎないようです」とWilsonは話す。

「これは、すばらしい研究成果です」と、ユタ大学の進化生物学者David Carrierは絶賛する。「チーターにとって、敏捷さと高い機動性が、少なくともスピードと同じくらい重要なことがわかったのですから」。

Wilsonの開発した首輪を使えば、いろいろなことが明らかにできそうだ。「広々としたサバンナに暮らすチーターで、果たして今回のような草木の茂った環境と同じ結果になるのかどうか、知りたいものです」と、動物園水族館協会(AZA;本部は米国メリーランド州)のチーター種保存計画の調整役を務めるJack Grishamは話す。

Carrierは、野生環境にいるほかの動物にこの首輪を付けて、それらの運動をさっそく調べたいと考えている。「ライオンや野生のイヌの群れで各個体から同時に記録を取れば、興味深いことがわかりそうです」と彼は期待を込めて語った。

翻訳:船田晶子

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 9

DOI: 10.1038/ndigest.2013.130906

原文

Speed test for wild cheetahs
  • Nature (2013-06-13) | DOI: 10.1038/498150a
  • Matt Kaplan