Editorial

地震リスクの管理と、世界地震モデル(GEM)

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地震多発地帯に居住する人の数は年々増加しており、そのリスクの低減はこれまでになく重要な課題となっている。そうした中で、地球科学者、社会科学者、工学者などからなるコンソーシアムが、世界地震モデル(GEM)を2014年に公開すべく準備を進めている(Nature 2013年6月20日号290ページ参照)。

GEMプロジェクトが実際に人命を救えるかどうかは、そのデータとツールが各地域でいかに活用されるかにかかっている。また、そうした情報が政策決定者にどう伝えられるのかも、重要な要素だ。2009年のイタリアのラクイラ地震に関連して、地震危険度を誤って伝えた6人の科学者に有罪判決が下ったが、あの例を思い出すべきだ。

全世界で地震対策に取り組んでいる人々は、多くの情報を集めて、最も危険度の高い地域を割り出す必要に迫られている。このニーズに応えようというのがGEMプロジェクトだ。インドネシア、ペルーなど、入手できる地震情報が限られている国は多い。したがって、GEMが提供するデジタル方式のデータ、全球データベース、一連のソフトウェアツールなどは、そうした国の人々が、災害分析したり緊急時対応策を立てたりする際に、有効に使われるはずだ。ただし、これは出発点にすぎない。

災害評価は専門性の高い仕事であり、誤った解釈もなされやすい。GEMへの批判の1つに、権威ある筋書きと立派な図表が誤った信頼感を与えている、という指摘がある。確かに、基礎データとなる過去の地震の組み合わせを変えるだけで、ハザードマップの様相は大きく変わってしまうのだ。もちろん、こうした問題については、関係者の間で盛んに議論されており、GEMによって大規模な研究が実施できるようになれば、より良い方法が見つかる可能性はある。

それはともかく、何よりも大事なのは、データなどの不確定要素をきちんと伝えることだ。また、見解が一致しないケースは多々あり、その不一致が危険度を減らしているわけではないことを、しっかりと教え込む必要がある。

知識と最善の対策を共有すれば、地震は単なる「不可抗力」ではなくなり、建造物を改良するなど、政府や地域社会の施策や行動へとつながっていく。GEMは、そのためのパイプとなりうる。イタリアやギリシャの地震研究や対策は多くの問題を抱えているが、それらを正常化する契機となるかもしれない。

GEMを有益なものとするためには、できるだけ広範なデータを集めるべきである。全世界の政府と大学は、透明性を担保し、地震データ、対策計画のデータ、社会経済に関するデータをGEMに提供すべきである。

そして何よりも、実際の行動へとつなげることを優先課題としなければならない。科学者と実務家の研修を拡充し、地震危険度モデルの知識を現地で普及させるよう努力すべきだ。知識を最も必要としているのが現地だからだ。すでにいくつかの地域では、研修会が開催されており、その地域の歴史的地震データが発掘されるなど、GEMの有用性が明らかになっている。活動に参加する学生やポスドクのための奨学金制度や教育の充実も必要だ。

大地震発生という不可避の事態が発生した場合、GEMは、そこから多くの教訓を得ることになるだろう。情報が現地の人々にどの程度伝わり、死者を減らすうえでどの程度役立ったのか、全世界の災害関係者が評価できるような形で報告がなされるだろう。GEMには多額の投資がなされているので、5年後辺りをめどに、GEMとは独立した立場の社会科学者により、厳格な評価も行われるべきだ。

GEMコンソーシアムは、リスクコミュニケーションの論争に巻き込まれたくないと考えている。GEMから提供された情報が不正確であった場合、GEMの責任を追及しようとする個人や政府が現れるかもしれない。しかし、GEMは、経済協力開発機構(OECD)や世界銀行や数か国の政府のバックアップを受けており、ラクイラの科学者に比べれば、訴訟に対する抵抗力はずっと強いはずだ。それでも、地震のリスクをいかに報告し、どう対応するのか、最も難しい決定を下すのは個人なのだ。全世界の実務家が共通の言葉で語り合えるよう手助けするのがGEMの役割といえる。

翻訳:菊川要

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 9

DOI: 10.1038/ndigest.2013.130932

原文

Risk management
  • Nature (2013-06-20) | DOI: 10.1038/498271a