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過少報告されていた中国遠洋漁船団の漁獲量

いろいろな意味で、その漁獲量は桁はずれに大きい。2013年3月23日に発表された研究によると、中国は海外での漁獲量を1桁以上も過少に報告しているという1。この問題は、西アフリカの豊かな漁場で特に深刻であり、中国による不透明な報告は、この水域の生態学的健康を評価する取り組みに悪影響を及ぼしている。

研究チームのリーダーであるブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ・バンクーバー)の水産科学者Daniel Paulyは、「海から何が持ち去られているかがわからなければ、海の状態を評価することはできません」と主張する。彼によると、報告されなかった漁獲量は、西アフリカの人々に食料を供給する現地の零細漁業に打撃を与えているという。

水産学の専門家たちは、以前から、中国が国連食糧農業機関(FAO、ローマ)に報告する漁獲量は少なすぎるのではないかと疑っていた。2000~2011年に中国がFAOに報告した海外での年間漁獲量は平均36万8000トンだった。けれども、欧州連合(EU)から助成金を受けて行われた今回の研究によると、世界最大の遠洋漁船団を擁していると主張する中国の漁獲量はもっと多いはずだという。Paulyらは、2000~2011年の中国の海外での年間漁獲量は、実際には平均460万トンだったと推定している。これは、中国が報告した数字の12倍以上である(「過少報告されていた漁獲量」参照)。そのうちの290万トンが、世界で最も豊かな漁場の1つである西アフリカで獲ったものだった。

SOURCE: PEW CHARITABLE TRUSTS

中国水産局国際協力部長のLiu Xiaobingは、2012年6月にEUに対して行った演説の中で、同国の海外での年間漁獲量は115万トンであると報告した。Paulyは、総漁獲量ではなく中国に持ち帰った量という意味なら、その数字は正確だろうと言う。この点についてコメントを求める電子メールに対して、Liuは返事をしなかった。

水産科学者は、今回の推定に驚愕している。モーリタニアとEUの漁業協定に関して助言を行う科学委員会のメンバーであるブルターニュ欧州大学(フランス・レンヌ)のDidier Gascuelは、「我々の魚が中国に行っていたとは!」と言う。彼らは、モーリタニアの海底に生息するタコ、ハタ、タイなどの個体数を増やそうと長年努力してきたにもかかわらず、個体数は一向に増えなかった。これは底引き網漁による乱獲の兆候である、とGascuelは言う。「我々は、中国の漁獲量がそんなに多いとは考えていませんでした。もちろん、我々のモデルでも考慮されていません」。

中国企業とアフリカ諸国の間で締結される漁業協定は秘密にされているため、Paulyらは、探偵のような調査によって中国の実際の漁獲量を見積もらなければならなかった。中国企業の漁船は、時に現地の国旗を掲げて操業することがあり、真相をさらに不明瞭にしている。そのため、10人以上の研究者が、現地での聞き取り調査、学術論文、新聞、14の言語でのオンライン報告書から得た手がかりを照合して、93の国と地域で何隻の中国漁船が操業しているかを推定した。その結果、中国が漁をしていると報告していない国々でも、多数の中国漁船が操業していることが明らかになった。これらの推定値の平均をとった研究チームは、中国には少なくとも900隻の遠洋漁船があり、そのうちの345隻が西アフリカで操業していて、さらにその256隻が底引き網漁船であるという結論に達した。

科学者たちは、各種の漁船の平均漁獲量を仮定し、それに基づいて各国の漁獲量を推定した。ダルハウジー大学(カナダ・ハリファックス)の海洋生態学者Boris Wormは、「これらの数字は厳密なものではありませんが、問題の大きさを最初に指摘するには十分です」と言う。なお、彼はこの研究には関与していない。

Paulyらの見積もりに懐疑的な専門家もいる。FAO水産養殖局の統計情報部長であるRichard Graingerは、「今回の推定値は、大きすぎるように見えます」と言う。彼によると、以前行われた研究では、(すべての国による)西アフリカでの未報告の年間漁獲量は合計30万~56万トンと推定されていたという2。その研究は、英語で発表された科学的研究を比較検討することにより、公式に報告された漁獲量に欠けているものを明らかにしようとするものだった。

新しい推定漁獲量の方が妥当であるなら、西アフリカ諸国との漁業協定の更新に影響を及ぼす可能性がある。EUの遠洋漁船団は、世論の高まりを受けて、モーリタニアとモロッコを除く西アフリカ沿岸のほとんどの水域での操業を2000年代から中止している。そんな状況で、主として大型の底引き網漁船からなる中国の遠洋漁船団がこの水域に進出して沿岸の禁漁水域で操業していることに、抗議の声があがっている。

Gascuelは、魚類の集団崩壊を回避するために許容される漁獲量の見極めに協力している。彼によると、現在、EUとモーリタニアの漁業協定によりEU諸国(主としてスペイン)に認められているタコと小エビの漁獲量は多くはないという。しかし、中国の実際の漁獲量を考慮するなら、「スペイン漁船による漁獲を禁止せざるを得ないでしょう」と言う。

皮肉にも、中国が国内での漁獲量を600万トン以上水増しして報告していることを12年前に発見したのもPaulyのチームだった。Paulyによると、中国の中級官僚は自分たちの業績を誇張することが多いという3

けれども、中国が遠洋漁業の漁獲量を過少報告していたことは、はるかに大きな問題だと彼は指摘する。「西アフリカでは多くの人々が海産物を主要なタンパク源としています。この水域の漁獲量は、彼らの資源をどれだけ略奪しているか、示しているのです」。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 7

DOI: 10.1038/ndigest.2013.130728

原文

Detective work uncovers under-reported overfishing
  • Nature (2013-04-04) | DOI: 10.1038/496018a
  • Christopher Pala

参考文献

  1. Pauly, D. et al. Fish Fish. http://dx.doi.org/10.1111/ faf.12032 (2013).
  2. Agnew, D. J. et al. PLoS ONE 4, e4570 (2009).
  3. Watson, R. & Pauly, D. Nature 414, 534-536 (2001).