News

洋ナシ型原子核が物理学の探求を後押しする

今回、ラジウム224の原子核がずんぐりした洋ナシ型をしていることが明らかになり、その成果が、Nature 2013年5月9日号に掲載された1

物理学者のチームは、ガンマ線分光装置(写真)を用いて、ラジウム224の原子核が洋ナシのように一端が盛り上がった形をしていることを明らかにした。

Credit: CERN

原子核の形は、陽子間の静電反発力に対抗して作用する「強い核力」によって保たれている。しかし、これらの力の相互作用を第一原理から計算しようとすると話が複雑になってしまうので、理論家たちは、実験から得られたデータと計算を単純にする仮定に基づいて原子核の構造を説明するモデルをいくつか提案してきた。

ほとんどの原子核は球に近い形かラグビーボール型をしているが、理論モデルからは、洋ナシのように一端が盛り上がった形で安定している原子核もあることが示唆されている(その他に、バナナ型やピラミッド型の原子核もあると予想されている)。しかし、洋ナシ型をしていそうな原子核はどれかという問題になると、理論モデルの間で予想は一致していない。

これまで、実験により洋ナシ型であることがわかっている原子核は、1993年に確認されたラジウム226の1つしかなかった2。ラジウム226は寿命が長い(半減期1600年)ため、研究するのは比較的容易だった。洋ナシ型をしていると推定される原子核はほかにもあるが、いずれも非常に不安定で、取り扱いが困難である。

今回、ラジウム226以外の洋ナシ型原子核を探すため、リバプール大学(英国)の物理学者Peter Butlerらは、スイスのジュネーブ近郊にある欧州原子核研究機構(CERN)のISOLDE同位体質量分離施設で炭化ウランに高エネルギーの陽子線を照射した。「標的に陽子を叩きつけると、多くの種類の同位元素が生成します」とButlerは言う。研究チームは、その中からラジウム224とラドン220という2つの核種を単離してビームにし、第二の標的に照射した。入射原子核の1つが標的原子核に接近すると、励起してスピンを始め、やがてこの余分なエネルギーをガンマ線として放出する。

この接近の際に原子核がどのくらい励起しやすいかは、その形状によって決まってくる。ガンマ線検出装置からのデータから、ラドン220が球に近い形と一端が盛り上がった形の間で振動しているのに対して、ラジウム224の方は洋ナシ型、それも、カンファレンス種のような細長い形ではなく、コミス種やアンジュー種のようなずんぐりした形で安定していることが示唆された(http://nature.asia/14DN4Psのビデオ参照)。

原子核の果物かご

今回、洋ナシ型原子核が2種類になったことで、物理学者たちは既存の原子核理論モデルの検証に取りかかれるようになった。例えば、クラスターモデルでは、洋ナシ型原子核は、球体の横にヘリウム原子核がくっついたものとして扱われ、ラジウムの軽い同位体は重い同位体に比べ、よりはっきりとした洋ナシ型をしているはずだと予想される。けれども、最新の研究成果により、ラジウム224はラジウム226ほどいびつな形をしていないことが明らかとなり、クラスターモデルに疑問が投げかけられた。ほかにも平均場モデルと呼ばれるものがあるが、このモデルの予想は完全ではないものの、クラスターモデルに比べれば観測データとよく合致している。現時点の実験技術では、これらの原子核モデルを決定的に検証することはできないが、Butlerらのチームは、2015年にCERNの高エネルギー・高強度施設HIE-ISOLDEがオープンしたときに検証したいと考えている。

マンチェスター大学(英国)の原子核物理学者で、Butlerの研究チームのメンバーではないGavin Smithは、「洋ナシ型原子核の存在は、今回の実験よりはるかに広い範囲に影響を及ぼすかもしれません。ひょっとすると標準モデルに制約を加える可能性もあると思います」と言う。

翻訳:三枝小夜子、要約:編集部

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 7

DOI: 10.1038/ndigest.2013.130704

原文

Pear-shaped nucleus boosts search for new physics
  • Nature (2013-05-08) | DOI: 10.1038/nature.2013.12952
  • Stephen Battersby

参考文献

  1. Gaffney, L. P. et al. Nature 497, 199-204 (2013).
  2. Wollersheim, H. J. et al. Nucl.Phys. A 556, 261-280 (1993).