Editorial

オバマ政権は、証拠に基づいて歳出を決める政策へ

米国のように大きな歳出超過が日常化している場合、歳出の大幅カットで財政赤字を減らそうとするのは、最も愚かな対応策だ。ところが米国政府は、2013年の「強制歳出削減」で、この道を選んでしまった。より賢明な方法は、証拠に基づく医療(EBM)が開いた道をたどること、つまり、有効な事業に予算をつけ、そうでない事業の予算を削ることだ。オバマ大統領が4月10日に議会に提出した2014年度の予算教書では、まさにこの方法が追求されている(Nature 2013年4月18日号277ページ参照)。

マスコミ報道ではほとんど触れられていないが、オバマ政権は、予算教書の1つの章で、証拠に基づく意思決定を政府全体で実行するための青写真を示している。要するに、政策決定に科学的方法を取り入れようというのだ。

この改革努力はジョージ・W・ブッシュ前大統領の時代に始まり、現在、大きく加速している。予算を大幅に削減したうえで、これまでより相当に大きな成果を挙げる必要性が生じたためだ。米国行政管理予算局(OMB)は、2012年5月に活動の方向性を示した覚書を発し、各政府機関に対して、証拠に基づいた方法を業務全体に組み込むよう指示した。

この命令は、行政府の全機関に適用され、科学研究助成機関も含まれる。しかし、最優先されるべきなのが社会福祉部門の膨大な事業で、幼児期充実プロジェクトから高齢患者の在宅介護まで、多岐にわたる。いずれも真面目な意図で創設されたものであるため、専門家査定や厳しい有効性評価が、ほとんど行われていない。

OMBの覚書には、こうした状況を変える方法が、いくつか示されている。その1つは、段階的に行われる臨床試験のように、社会事業も段階的に進めることだ。最も低い段階としては、実績はないが有望な構想がある。この場合、例えば計画書に、独立した調査者による厳格な成果評価が組み込まれていれば、政府機関は着手資金を配分することにすればよい。

次に高い段階に、もっと強力な証拠と評価プロトコルに裏付けられた事業計画があり、より高額の助成金が交付される。そして最も高い段階として、複数の比較試験によって裏付けられた数億円規模の事業計画がある。

連邦政府関係機関では、6つの事業計画(10代の妊娠防止、教育など)に対して、この段階的歳出モデルをすでに適用しており、2012年に総額で約10億ドル(約1000億円)となっている。今回の予算教書では、これを2014年に44%増額する提案がなされている。

OMBが提案したもう1つの戦略は、英国で開発された社会的インパクト債券(成功報酬債券)というモデルだ。慈善団体と民間企業が予防的サービスに対する助成を行い、こうしたサービスで税金が節約されたと政府による審査で判断されれば、政府から助成金の払い戻しが受けられる。実際、試験的に、小規模な職業訓練プログラムや刑期を終えた受刑者の再犯を防ぐプロジェクトに適用されている。2014年度には住宅や教育の分野にも適用範囲を拡大し、最大1億9500万ドル(約195億円)を使う計画だ。

データに基づいた意思決定という戦略は、米国政府の効率と有効性を徹底的に向上させる可能性があり、議会の積極的な支持を受けるべきものだ。ただし、1つだけ注意点がある。それは、議会も大統領も「成功」の定義とその測定方法に関する研究を積極的に推進する必要があるということだ。これらの論点に関して、まだ大部分の政策領域で結論が出ていない。例えば、良質の教育とは共通試験で良い成績をとることだけではない、と大部分の親が認識しているが、無形の利益の定量化は簡単ではない。しかし、だからといって試さない理由とはならないのだ。

政府の有効性という構想には、誰もが賛同する。しかし、現在実施されている政府の事業ひとつひとつは、誰かの暮らしを支えている。もし何らかの指標によって事業が有効でないと判定され、廃止か整理統合が決まっても、激しい反対運動やロビー活動が行われる。政府関係者がその圧力に耐えることができれば、今必要とされているイデオロギーからプラグマティズムへの転換が、この「証拠に基づいた政策決定」によって実現できるかもしれない。

翻訳:菊川要

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 7

DOI: 10.1038/ndigest.2013.130734

原文

Look after the pennies
  • Nature (2013-04-18) | DOI: 10.1038/496269a