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製薬会社のデータを開示させる機運が高まる

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130617

原文:Nature (2013-03-28) | doi: 10.1038/495419a | Drug-company data vaults to be opened

Daniel Cressey

欧州では、製薬会社の臨床試験データを開示する方向で事が進み出した。

大手製薬会社が安全性や有効性に関する重要なデータを隠していた事実が明るみに出たこともあり、製薬企業に対して臨床試験の結果を公表するよう求める声が、世界中でかつてない高まりを見せている。現在、ヨーロッパの施策は、データ開示を大幅に増やす方向へと傾きつつある。

Credit: THINKSTOCK

EU内で使用される医薬品の承認を行う欧州医薬品庁(EMA、英国ロンドン)は、企業から提出された臨床試験データの一部を公表するため、その政策と手続きを検討中だ。4月には英国の医学界の重要人物が集まり、データの公開にまつわる実際的な問題について討議が行われる。

討議の主な参加者は、生物医学分野の公益団体であるウェルカムトラストのほか、医科学アカデミー、英国製薬産業協会、医学研究助成機関協会の代表者などである。ウェルカムトラスト(英国ロンドン)の基本戦略を取り仕切るNicola Perrinは、今回の討議は、議論から行動への転換を示すものとなるだろうと語る。「データの開示が重要なのかどうかを議論するのはもう止めて、前に進む方法について実際的な議論をしなければなりません」。

すでに米国では、医薬品の承認を受けるための臨床試験をオンラインの公開レジストリーに載せることが求められている。臨床試験の登録を促す規則が定められている国もある。

しかし、カギとなる詳細情報の公開が進んでおらず、このため医薬品の安全性評価は困難であり、研究者はデータを得ることができない、と懸念する研究者や運動家もいる。

近年、例えば、製薬会社のアストラゼネカ社(英国ロンドン)は、抗精神病薬セロクエル(クエチアピン)の副作用に関するデータを隠したとして訴訟となるなど、法的な問題を抱えている。グラクソ・スミスクライン社(GSK、英国ロンドン)も、糖尿病薬アバンディア(ロシグリタゾン)の安全性と抗うつ薬パキシル(パロキセチン)の小児での有効性に関する不適切な報告に関する訴訟で罪を認め、数十億ドルの支払いに応じている。また、国際的な医療専門家集団であるコクラン・コラボレーションは、ロシュ社(スイス・バーゼル)に対して、インフルエンザ薬タミフル(オセルタミビル)について有効性を評価するためのデータを開示することを求めている。

このような背景もあり、製薬会社は譲歩を重ねている。GSKとロシュ社は、要求に正当性があると考えられれば、科学者に対してデータ開示することを了承した。しかしロシュ社に関しては、要求を評価するための完全に独立したグループが構築されていないという指摘もある。

昨年、運動団体からの圧力を受けたEMAは、製薬会社から提出された特定のデータについて自発的に公表する方向性を発表した。EMAは、それがどのように役立つかについて、産学の研究者と投資家の意見を聴いているところで、2014年1月1日までには政策が実行に移される見通しだ。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校の薬理学者で、科学的発表の偏りについて研究しているLisa Beroは、「この領域では、米国よりもヨーロッパの方が進んでいます」と話す。さらに、「誰もが成り行きを見守っています。今までになかったことなのですから」とも付け加える。

透明性を高める方向への動きは「勝利」だとBeroは言う。しかし、情報をどのようにして公表するのか、どの程度詳細なデータを公表するのか、誰が公表を管理するのか、誰にデータの利用を認めるのか(データからは誰が試験の参加者なのかがわかる可能性がある)については「さらに多くの戦い」があるだろう。

政府や規制当局者に圧力を加えることを目的として1月に結成された国際的グループ「オール・トライアルズ」などの運動団体は、医薬品の承認申請のための試験のみに公開を限定せず、実施済み・実施中の試験の方法と結果をすべて対象とするよう求めている。

多くの医学研究者にとっては、結果の概略が(理想的には査読済みの論文として)公開されれば十分だろう。しかし、製薬会社が規制当局に提出する詳細な臨床試験報告書全体を公表するよう求める研究者もいる。複数の試験のデータを集めてメタ解析を行う研究者も、個々の参加者に関する匿名データを利用したいと考えている。

2010年、欧州オンブズマンは、臨床試験の詳細なデータを企業秘密と見なすべきではないと判断した。そのことが、情報の公表を進めようというEMAの方針策定を後押ししている。しかし、患者レベルのデータが無差別に公開されることにはならない見通しで、どの研究者にデータの利用を認めるかを誰が決めるかについては、企業、研究者、試験への出資者、患者団体などの間で意見が一致していない。

患者団体は、誰がその規則を施行するかについても問題にしている。医学研究の基準と規制を監督する英国医療研究機構(HRA、ロンドン)は、現実性を考えて、臨床試験を承認するのと同じ倫理委員会にその業務を付託することを検討している。

ジョンズホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院(米国メリーランド州ボルティモア)の臨床試験センターで所長を務めるKay Dickersinは、透明性によって不正があぶり出された場合、法的に厳しく対処することが必要だと説く。不適切な研究報告があれば罰金では不十分だとさえDickersinは言う。重大な違反の場合、「誰かを刑務所に入れなければなりません」。

(翻訳:小林盛方)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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