Editorial

抗生物質耐性菌対策に、機運が高まる

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130631

原文:Nature (2013-03-14) | doi: 10.1038/495141a | The antibiotic alarm

既存の抗生物質に耐性を持つ細菌の発生件数が、憂慮すべき急増を見せており、世界の人々の健康に及ぼす影響を見極めて、行動を起こさねばならない。 幸い、政策立案者の認識がようやく高まってきた。

本誌読者にとって、抗生物質耐性菌の脅威は新しい話ではないだろう。すべての抗生物質に耐性を示す「スーパー細菌」の報道も、最近では珍しくなくなった。そうした中で意外なのは、政策立案者の間でこの問題への認識が比較的低いことだ。特に、破局的な危機の様子が明らかになってきた現状からすると、認識の希薄さには愕然とせざるを得ない。要するに、これは病原菌との「軍拡競争」なのであり、我々は劣勢に立たされているのだ。

Credit: THINKSTOCK

何十年も前から医療・大学関係者などが警告してきたように、抗生物質の乱用と過剰処方が、耐性菌株を増加させてきた。新種の抗生物質の発見・開発が細っている現在、問題はより悪化しているといえる。しかし、そのぶん、警告メッセージの力は増しており、以前はばらばらだった声も1つにまとまるようになった。また、Antibiotic Action(英国抗菌薬化学療法学会による世界規模の取り組み)など、うまく組織化されたキャンペーンが功を奏し、全世界の政策立案者の間で、抗生物質耐性菌の脅威に関する認知度が着実に高まっている。

3月11日、英国主席医務官Sally Daviesが、感染症と抗菌薬耐性の増加に関する報告書を公表した。この報告書では、英国における感染症の負荷と、抗生物質耐性菌株による感染症の増加について概説されている。Daviesは、政策と政治行動に関する17項目の提言を行っており、内容は、抗生物質耐性、病原体監視、感染症予防、医療従事者の研修まで及んでいる。

その中で最も重要なのが、英国政府の国家安全保障上の脅威リストに、流行性インフルエンザとテロ行為とともに、抗生物質耐性を加えようという提言だ。この提言だけでも、問題の認知度が高まるのは確実だ。さらに、これが世界的な問題であること、解決のためには国際的な協調行動が必要であることを指摘している。今回のDavies報告書に続いて、「2013~2018年 英国政府間抗菌薬耐性戦略」が公表されることになっている。

一方、3月5日には、米国疾病対策センター(CDC、ジョージア州アトランタ)が報告書を公表し、ここでも、監視体制の充実と医療関係者向け研修の強化、抗生物質の慎重な使用を求める内容が含まれている。特にCDCの報告書では、重点がカルバペネム耐性腸内細菌(CRE)感染症に置かれている。

カルバペネム系抗生物質は、多くの細菌感染症治療の最後の手段となっている。しかし、過去10年間に米国でのCRE感染症の発生率が上昇しており、とりわけ重大な医療処置を受けた患者が、この感染症に罹患する頻度が最も高く、強い懸念が生じている。

抗生物質耐性への認知度を高め、政策を有意義な方向に転換する機運が、これまで何度も高まっていたが、その都度、期待外れに終わっていた。専門家が抗生物質の過剰処方を諌めても、全世界で医師による抗生物質の大量処方が続いてきたのだ。処方箋がなくても店頭で抗生物質を購入できる国がたくさんある。さらに、先進国でも開発途上国でも、抗生物質は家畜の成長補助飼料として広く使われ続けてきたのだ。批判があるにもかかわらずである。

しかし、抗生物質の問題に対する政治家や政策立案者の関心は、いまや確実に高まりつつある。科学者は、これらの人々を支援・応援すべきであろう。そして、次の段階として、この問題の利害関係者である研究者、医療関係者、政策立案者、製薬業・農産業の代表者をすべて結集して、一丸となって危機に取り組むための計画を策定しなければならない。

それは、決して容易な過程ではなく、本格的な政治的意思に加えて、おそらくは、多額の予算が必要となるだろう。現在の経済情勢を見れば、この資金の問題がネックとなる可能性は高い。しかし今この問題に取り組まないと、社会および個人の経済負担は、より大きくなることを知るべきであろう。

かつての英国では、兄弟姉妹が、今では治療可能な病気で命を失うことが日常的だった。それは決して遠い昔の話ではない。現在の英国で、こうした過去への逆戻りは、あってはならない。それは他の国にもいえることだ。

(翻訳:菊川要)

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度