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恐竜胚の最古の化石が見つかった!

最古の恐竜胚、つまり孵化前の子ども恐竜の化石群が中国で発掘された。そこには発生段階が異なる多数の個体が含まれており、先史時代の生物種の胚発生を知るうえで、またとない機会が得られた。

ルーフェンゴサウルスの胚の骨は、恐竜の発生に関する新たな情報をもたらした。

Credit: A. LeBlanc

トロント大学(カナダ・ミシソーガ)の古生物学者Robert Reiszの研究チームは、禄豊(ルーフェン)県のジュラ紀前期(約1億9700万~1億9000万年前)の骨化石包含層の中から、竜脚形類恐竜の化石群を発見した。この発掘区域には、複数の卵殻や、関節が外れた状態の骨が200点以上も含まれていた。これは、知られているかぎりでは、恐竜の胚の痕跡として最古のものである。研究チームはその成果をNature 2013年4月11日号で報告した1

王立オンタリオ博物館(カナダ・トロント)の脊椎動物古生物学学芸員David Evansは、「恐竜の胚の記録は、ほとんどが白亜紀後期(約1億~6600万年前)に集中しています」と語る。「今回の研究によって、恐竜の胚発生に関する詳細な記録が得られただけでなく、これまでの記録を1億年以上も塗り替えたことになります」。

研究チームによれば、今回の化石で注目すべき点は、その古さだけではないという。得られた骨組織の標本を分光分析した結果、陸上脊椎動物のものとしては最古の有機物が含まれていることが明らかになったのだ。Reiszによれば、化石化した大腿骨は多孔性で繊細なものであり、風化や地下水による浸食作用を受けやすいため、有機物が発見されたことは本当に意外だった、という。

「ということは、ほかの恐竜の化石にも有機物の遺物が含まれているかもしれません。まだ適切な方法で観察されていないからです」とReisz。

タンパク質が教えてくれること

研究チームがその有機物の中に見いだした複雑なタンパク質は、保存されたコラーゲンだとReiszは考えている。コラーゲンの組成は種によって異なるため、研究を進めれば、その竜脚形類の化石をほかの生物と比較することができるかもしれない。比較の対象としては、初期の竜脚形類に近縁で、おそらくはその子孫と考えられる巨大な竜脚類が挙げられる。竜脚類は1頭で約100tもあり、地上を歩いた史上最大の動物だ。

今回の禄豊の恐竜は、2005年にReiszが南アフリカで発掘した竜脚形類「マッソスポンディルス」2の無傷の胚骨格と多くの点で類似しているため、研究チームはやはり竜脚形類だろうと考えている。ただ、研究チームによる分析の結果、2つの化石には重要な違いも見いだされた。禄豊の胚は、マッソスポンディルスの胚より発生が進んでいないため、別属の「ルーフェンゴサウルス」のように見える。

二足歩行する首の長い恐竜である竜脚形類の成体は、どのようにして体長9m(その全盛期にあってそれは地上最大の動物だった)まで成長することができたのか。今回見つかった胚は、その謎を解明するのに役立ちそうな情報も与えてくれた。大きさと発生段階が異なる24点の大腿骨を比較することで、ルーフェンゴサウルスでは、急激かつ持続的に胚が成長し、孵卵期間が短かったことを示す証拠が得られたのである。

Reiszによれば、ルーフェンゴサウルスは、捕食者よりも速く成長することによって捕食を免れるために、孵化後もその急激な成長速度を維持した可能性が高いという。「それが、こうした生物群の巨大化を説明するモデルとなるのかもしれません」。

翻訳:小林盛方

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 6

DOI: 10.1038/ndigest.2013.130602

原文

Oldest dinosaur embryo fossils discovered in China
  • Nature (2013-04-10) | DOI: 10.1038/nature.2013.12779
  • Chris Palmer

参考文献

  1. Reisz, R. R. et al. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature11978 (2013).
  2. Reisz, R. R., Evans, D., Sues, H. D. & Scott, D. J. Vertebr. Paleontol. 30, 1653–1665 (2010).