Editorial

市民がいくら銃の犠牲になっても、変わらない米国

3月26日、オバマ米国大統領は、政府暫定予算を2013会計年度末まで延長する法案に署名した。この法案には、2012年12月14日のサンディーフック小学校での銃乱射事件に対応した初めての銃規制法案が含まれていた(コネチカット州ニュータウンの事件で20人の児童と6人の教員が犠牲になった)。しかし現在、この法案のマイナス面が注目されている。現在の米国の銃器関連政策には無数の疑問があるが、その闇に光を当てる法案とは到底いえず、政策策定に不可欠な銃関連研究を制限している規定も、従来のまま認めているからだ。銃器による殺人事件の発生件数が他の富裕国の約20倍となっている米国に必要なのは、まさに真逆の法案だ。

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似た状況は何度も起こる。2012年7月、コロラド州の映画館で、銃を持った犯人が12人を射殺し、58人にけがを負わせる事件が発生した。その直後、Natureは、全米ライフル協会(NRA)がシンパの国会議員を使って、1996年以降、米国疾病対策センター(CDC、ジョージア州アトランタ)の年次予算に関する法案に制限的文言を追加してきたことを指摘した。この文言ゆえに、CDCは「銃を規制するための擁護や助成」に予算を支出することが禁じられている(Nature 2012年8月8日号129ページ参照)。

2012年には、この制限的文言が、CDCの上部機関である保健社会福祉省まで拡大適用され、そこには生物医学の研究機関である米国立衛生研究所(NIH)も含まれる。NIHは、銃器所持者が銃器による襲撃から身を守れなかったと結論付けた研究(C. C. Branas et al. Am. J. Public Health 99, 2034-2040; 2009)に助成金を交付しており、銃所持推進派の怒りを買っていた。この研究には、一部の論者から方法論上の批判があったことは確かだが、NRA会長のWayne LaPierreは、2010年に、インターネット上での論説において、この研究を利用して、NIHが助成した銃器関連研究が、すべて「論理的根拠のない公衆衛生研究だ」と一刀両断にした。その後まもなく、議会は、禁止条項をNIHに拡大適用したのだった。

今週、オバマ大統領の法案署名によって成立した法律には、NRAが後押しする禁止事項が存続している。1月にニュータウンでの銃乱射事件への対応を発表したオバマ大統領は、この法律の条文を厳格に読めば、銃規制の擁護や助成と無関係な研究自体は、全く禁止されていないと説明した。

オバマ大統領が発表した対策には、銃による暴力の原因究明と防止策について、活発に研究を始めるようにCDCとその他の政府機関に指示する覚書が含まれており、称賛に値する。また大統領は、議会に対して、CDCで緊急を要する研究を支援するために、1000万ドル(約10億円)の追加予算を求めた。大統領府の法務担当者の解釈によれば、そうした研究は現行の禁止条項に違反していないという。添付資料において、オバマ政権は、「銃による暴力についての研究は、銃規制の擁護ではなく、すべての米国国民に対して必要な情報を与えるための極めて重要な公衆衛生研究だ」と主張した。

確かに米国国民は、そのような情報を必要としている。この17年間にわたって、政府資金による研究が不足し、それと並行して、米国政府機関による銃器関連データの収集が萎縮してしまい、政治家は、政策策定に必要とされる最も基本的な情報が得られなくなっていた。例えば、私人同士の銃器取引に関する司法省の最新データは、実に1994年のものしかないのだ。また、銃器による暴力に関する学術論文の数は1996年のピークから60%も減少したことが、「銃の不法所持に反対する市長連合」の分析で明らかになっている。

オバマ大統領が考える研究課題は、現行の禁止条項ゆえに実施は望み薄だ。この禁止条項は、研究者と研究助成機関を威嚇するために制定されたものであり、まさにその効果を発揮し続けている。

あと何回のニュータウン事件が起これば、こうした疑問や緊急の問題に答えるための研究に、議会は予算を認めるのだろうか。

翻訳:菊川要

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 6

DOI: 10.1038/ndigest.2013.130632

原文

Under the gun
  • Nature (2013-03-28) | DOI: 10.1038/495409a