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ニセの論文誌にだまされるな!

論文投稿にかかわるサイバー犯罪が発生した。定評あるヨーロッパの科学論文誌2誌が、偽のホームページを使った、なりすまし犯罪の被害に遭ったのだ。この偽のウェブサイトに数百人の研究者がだまされ、著者負担金を払わされ、お金はアルメニアに還流した。

Credit: THINKSTOCK

問題となった論文誌の編集者が最初に詐欺に気付いたのは2012年で、詐欺を止めさせるための対策をとったが、今のところ何の成果もない。なりすまされたのは、ジュネーブ物理学・自然史協会(SPHN、スイス)が出版する総合論文誌 Archives des Sciences(1791年創刊)と、カリンチア地域博物館(オーストリア・クラーゲンフルト)が出版する植物学論文誌 Wulfenia だ。

犯人たちは、巧妙かつ細心の注意を払っており、正しい雑誌名だけでなく、そのインパクトファクター、住所とISSN雑誌コード(国際標準逐次刊行物番号)まで、複数のウェブサイトに表示していた。ISSNは全世界の雑誌に1つ1つ割り当てられている識別番号のこと。

かたりにあった論文誌の編集者たちは、犯人の陰謀によって論文誌の名声が傷付いたことを深く悲しんでいる。

「被害を受けた研究者は、投稿論文の状況を定期的に問い合わせてきています。送金したのに論文が掲載されないからです」。こう話すのは、Wulfenia の編集長で、カリンチア地域博物館付属植物センター長であるRoland Eberweinだ。同センターは、20万点以上の植物標本を所蔵している。

「我々は今、犯人との闘いに無益な時間を費やしています」と話すのは、Archives des Sciences の編集長で、ジュネーブ大学に所属する植物生物学者、電気生理学者のRobert Degli Agostiだ。

これら2つの論文誌には、専用のウェブサイトがなく、それゆえに詐欺師たちの格好の餌食となった。しかし、事件を受けて、SPHNもカリンチア地域博物館もホームページに警告文を掲載し、Wulfenia は、オンライン版のバックナンバーを掲載し始めた。

偽のウェブサイトは実に本物らしく作られていたため、最初はトムソン・ロイターもだまされた。同社は米国ニューヨークに本社があり、サイエンス・サイテーション・インデックスを制作し、論文誌のインパクトファクターをまとめている。

しかし、2012年5月に、トムソン・ロイターは疑いを抱き、同社が索引登録している Archives des Sciences の印刷版に掲載されている論文コンテンツと問題のウェブサイトの内容に「非常に大きな食い違い」があることについて、SPHNに対して文書で説明を求めた。トムソン・ロイターは、発行頻度の不一致についても指摘し、質問状には、こう記された。「弊社は、毎年、各巻2号を受け取り、索引登録していますが、現在のウェブサイトには、各巻12号、つまり、毎月の発行となっております」。

犯人の1人は、トムソン・ロイターの索引登録文献リストから偽のウェブサイトにリンクを張らせることにも成功していた。ただし、詐欺の発覚後、このリンクは直ちに削除された。それ以降、「偽の論文誌を代表する者からのクレームとリンクの復活要求の集中砲火が始まったのです」とトムソン・ロイターのコンテンツ選定部長のMarie McVeighは話す。問題の論文誌によって受理された論文が、なぜ同社の索引に登録されていないのか、という問い合わせもあったという。

厚顔無恥な犯人たちは、いくつかの Archives des Sciences の偽ウェブサイトで、87人からなる編集委員会のリストまで掲載している。その中には、ワシントン大学(米国シアトル)の化学者、材料科学者Daniel Gamelinとベイラー大学(米国テキサス州ウェーコ)の高エネルギー物理学者Gerald Cleaverが含まれていた。もちろん両人とも困惑・憤慨している。「私の名前が含まれていることを初めて知りましたが、この組織とは、過去、現在を問わず、一切関係したことはありません」とGamelinは言う。Cleaverも自分の名前が無断で使われたと話している。

Archives des Sciences のウェブサイトでは、“Prof. Dr. Eliana Schmid”なる者が編集長とされ、所属は「スイス・ジュネーブ」となっている。偽 Wulfenia のウェブサイトでは、Vienna S. Franzが編集長とされ、編集委員会の35人の委員が列挙され、そのほとんどの所属は国と都市の名前だけとなっている。EberweinとDegli Agostiは、いずれの編集長も架空の人物だとみている。

これら偽論文誌に論文を投稿した研究者は、多額の金銭をすでに支払ってしまった。偽の Archives des SciencesWulfenia での著者負担金は、500ドル(約5万円)を超えており、支払いに当たっては、アルメニアのエレバンにある2つの銀行の口座へ送金するよう指示されていた。

Degli Agostiは、偽の Archives des Sciences のウェブサイトをスイスのサイバー犯罪特捜部に報告した。しかし、これらの偽ウェブサイトが米国内で運営されているため、犯人に対して直接的な措置を発動できないという回答だった。それでも、スイスのサイバー犯罪関連法による刑事告発は可能だという助言を得た。ジュネーブ大学の法務担当者は、SPHNに対して、告発状を作成するよう支援しているが、SPHNはジュネーブ大学に所属する組織ではないため、実際の告発は単独で行わざるを得ない。

一方、Eberweinによれば、Wulfenia に関するオーストリア警察の方の進展はほとんどない。オーストリアで運営されていた偽ウェブサイトは閉鎖されたが、国外のサーバーには、この偽サイトのコピーが複数出現した。オーストリア当局はEberweinに対し、法的救済がわずかしかないと通告した。しかし納得のいかないEberweinは、Archives des Sciences と連絡を取り、意見交換を進めている。

翻訳:菊川要

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 6

DOI: 10.1038/ndigest.2013.130616

原文

Sham journals scam authors
  • Nature (2013-03-28) | DOI: 10.1038/495421a
  • Declan Butler