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天の川が甲虫の道しるべ

『ファーブル昆虫記』でおなじみのフンコロガシは、子どもや自分の食料にするために、糞を丸めてボールを作り、それを転がして生きている。ただ、地面に這いつくばって地味な仕事をしているからといって、この甲虫に空を見上げる目がない訳ではない。なんと、日が沈んだ後も、夜空を見上げていることがわかったのだ。

最近の研究から、ある種のフンコロガシ(Scarabaeus satyrus)が、直進するために太陽や月の光を強力な手がかりにしていることが示されていた。だがスウェーデンのルンド大学と南アフリカ共和国のウィットウォーターズランド大学の研究チームは、月のない晴れた夜でも、多くのフンコロガシがまっすぐ進んでいることに気が付いた。

夜空が道案内役になっているかどうかを調べるため、研究チームは、フンコロガシに厚紙製の特別な帽子をかぶせて実験した(Current Biology誌オンライン版1月24日号に掲載)。星が見える夜、南アフリカの小さな町フライバーグの中心地域で、フンコロガシに帽子をかぶせ、糞のボールと一緒に放してみた。対照として、帽子をかぶせないものと、透明なプラスチック製の帽子をかぶせたものも放した。

すると、帽子なしと透明の帽子をかぶせたフンコロガシは、通常どおり比較的まっすぐ歩いた。フンコロガシの食物獲得競争は非常に厳しいので、糞をボール状に丸めるとすぐにまっすぐ歩き始めようとするのだ。これに対し、視界をさえぎられたフンコロガシは、ずっと遠くまで蛇行しながら進み、はるかに長くて非効率的な道をたどった。

星だけを目印にして歩いていることを確認するため、研究チームはさらにいくつかの実験を行った。例えばフンコロガシをヨハネスブルクのプラネタリウムに持ち込んで、実験してみた。個々の星と天の川など、実際の夜空に非常に近い映像を投影した場合、フンコロガシは正確に進んだ。天の川だけを薄い光の帯として投影しても、うまく直進した。しかし、天の川を抜きにして18個の明るい星だけを投影したところ、直進路を外れて、目的地まで50%以上も遠回りした。

これらの結果から、フンコロガシは単一の明るい星を道しるべにしているのではなく、天の川の光の帯を目印にしていることがはっきりした、と研究チームは考えている。動物界で天の川を道しるべとして使っている例を、初めて実証したといえるかもしれない。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2013.130506a