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景気刺激策で、日本の科学予算が大幅増額

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130412

原文:Nature (2013-01-24) | doi: 10.1038/493465a | Japan’s stimulus package showers science with cash

David Cyranoski

日本の新政権による景気刺激策で、科学技術関連予算も大盤振る舞いだ。

3年前の日本の研究資金調達状況は厳しかった。当時の民主党政権は、国家予算を3兆円切り詰めるために科学予算の大幅削減を提案したが、これが引き金となって、高名な研究者による抗議行動が起こった。スーパーコンピューター「京」に対しても「事業仕分け人」が疑問を呈したが、辛くもプロジェクトの中止を免れた。

2013年の現在、自民党主導の新政府を率いる安倍晋三首相は、そんな疑問は全く持っていない。1月11日に次世代スーパーコンピューター施設の見学を終えて、安倍首相は報道陣にこう答えた。「やはり世界一をめざさなければダメだ!」。

1月15日に閣議決定された総額10兆3000億円の大型景気刺激策では、科学が多額の予算を得た。この景気刺激策は、日本を不況から引っ張り出すには、本気で研究に取り組む必要があるという新政権の決意の表れだ。この補正予算によって、重要な研究分野に数十億円規模の資金が支出され、大規模科学施設を大きく後押ししている(「多額の予算を得た研究施設と研究分野」参照)。ここには、「京」と日本の各大学との間にデータリンクを構築するための84億円も含まれている。

このほかに多額の予算を獲得した施設に、大型放射光施設SPring-8がある。この施設では、材料とタンパク質の構造研究に用いられていたビームラインが老朽化しており、施設更新のために29億円の予算が支出される。また、発足以来、予算の確保に苦労してきた国際的な核融合エネルギープロジェクトITERにも166億円の予算がついた(Nature 2012年7月26日号420ページ参照)。一方、日本の宇宙機関であるJAXAは、施設の改装のほかに、自然災害の監視と大気中の二酸化炭素濃度を測定する人工衛星ALOS-2の開発を加速させるための予算として229億円を得る。予算の増額によって、2014年4月までの打ち上げという計画は予定どおり進むだろう。

とりわけ、安倍政権の景気刺激策で最も大きな恩恵を受けるのが幹細胞研究、特に臨床応用に向けた研究だ。文部科学省だけでも幹細胞研究予算として214億円が計上され、主に人工多能性幹細胞(iPS細胞)に関係する研究に焦点が絞られている。

笹井芳樹は、未発達の網膜、脳の部分やその他の組織を幹細胞から作り出し、科学者以外の人々をも驚嘆させている(Nature 2012年8月23日号444~446ページ、本誌2012年11月号4ページ参照)。彼は、所属する理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)での基礎研究と病院と産業界を結びつける施設の設立を求めて、長い間、政府と交渉を続けてきた。それが今回の景気刺激策で実った。「青天のへきれきのようなものでした」と彼は言う。再生科学総合研究センター内に新しいビルを建設するための38億円が予算計上され、計画されているプロジェクトの多くが、日本の企業との協働事業となる。

さらに多額の予算の恩恵に浴するのが、iPS細胞の作製方法を世界で初めて開発したノーベル賞受賞者・山中伸弥の研究だ。山中が所長をつとめる京都大学iPS細胞研究所は、iPS細胞の再プログラム化機構と臨床応用の研究を行う施設の建設に40億円の予算を受け取ることになった。

一方、再生科学総合研究センターに隣接する先端医療振興財団(神戸市)に所属する高橋政代を主に支援するため、細胞プロセシングセンターの設立に7億円の予算が支出される。高橋は、2013年から始まる眼科の黄斑変性症に関する研究の一環として、ヒトiPS細胞の初の臨床試験を計画している。

ほかの省庁もiPS細胞研究の時流に乗っている。例えば厚生労働省は、22億円の予算で、iPS細胞の誘導と培養のための研修施設を2か所建設しようとしている。

日本の幹細胞研究者にとって、今回の大幅な資金獲得は、単なる好景気の始まりにすぎないのかもしれない。4月からの来年度政府予算に、10年間のiPS細胞研究イニシアチブ(総額900億円)が含まれることが発表される見通しだからだ。

大盤振る舞いで新たな期待感も生まれている。文部科学省の7210億円の科学・技術予算のうち、1800億円が大学での研究を商業的応用に生かすために支出され、その他の大部分のプロジェクトも臨床応用や工業的応用を指向している。この景気刺激策で、政府は、「iPS細胞関連技術をできるだけ早く患者の役に立つものにしてほしい、というメッセージを送っているのです」と山中は話している。

(翻訳:菊川要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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