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南極大陸の氷底湖で生命を発見

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130402

原文:Nature (2013-02-11) | doi: 10.1038/nature.2013.12405 | Lake-drilling team discovers life under the ice

Quirin Schiermeier

米国の掘削チームが南極大陸の氷底湖からサンプルを採取することに成功し、そこに多数の微生物が存在することを発見した。

南極から米国西海岸まで、回り道をしながら48時間に及ぶ旅路をたどって帰国したばかりのJohn Priscuは、激しい時差ぼけに悩まされていた。しかし、そんな疲労も、彼の興奮を隠すことはできない。彼のチームは、南極大陸での数週間の集中的なフィールドワークにより、酷寒の大陸の氷床の下に閉じ込められた湖に生息する生物を、世界で初めて発見したのだ。

南極大陸を覆う氷床に穿(うが)たれた直径50cmのボーリング孔。米国の掘削チームは、この孔の向こうに、800mの氷の下に隠れた微生物生態系を発見した。

Credit: ALBERTO BEHAR/JPL/ASU & NSF/NASA

「ウィランズ湖に生物がいることは明らかです」と彼は言う。「南極大陸の氷床の下には大きな湿地生態系があり、活発な微生物相が形成されているのです」。

ウィランズ湖は、西南極のロス棚氷の端に位置する、広さ60km2の湖である。この湖は厚い氷床に覆われているため、モンタナ州立大学(米国ボーズマン)の氷河学者Priscuとそのチームは、氷を800mも掘削しなければならなかった。

環境を汚染しない熱水ドリルが氷を突き破って湖面に到達したのは、2013年1月28日のことだった。彼らは、湖の水深がわずか2mほどであることを見いだしたが、これは地震探査による10~25mという推定値に比べてかなり浅かった。ただ、Priscuは、もっと深い場所もあるだろうと言う。

掘削チームはまずボーリング孔からカメラを下ろして、サンプル採取装置がこの孔を下り、無事に戻ってこられる広さがあることを確認した。その後の数日間で、彼らは約30Lの液体の湖水を採取したほか、湖底から長さ60cmの堆積物コアを8本採取した。

こうして採取された貴重な材料は、その場で顕微鏡を使って確認された。その結果、湖水中にも湖底の堆積物中にも、日光がなくても生きられるタイプの微生物が多数含まれていることが明らかになった。研究チームは、1mlの湖水中には約1000の細菌が含まれていると見積もった。これは、海水中の微生物の密度のざっと10分の1という多さである。Priscuによると、ウィランズ湖から採取された細菌は、培養皿の中で「申し分ない増殖速度」を示したという。

ブリストル大学(英国)の南極研究者で、2012年12月に英国チームを率いて南極大陸の別の氷底湖であるエルズワース湖の掘削を行ったMartin Siegertは、「これはすばらしい知見です。正真正銘の大発見です」と言う。残念なことに、彼のチームの掘削は技術的問題のため中止になった。

その先に見えてくるもの

米国チームが氷の下から採取した生物の詳細な性質については、現在、DNA塩基配列決定法などのテストによって調査中である。基本的な作業には少なくとも1か月はかかるだろう、とPriscuは言う。

「もちろん、目下の最大の関心事は、『それはどんな生物なのか』『どのようにして生きているのか』ということです」と彼は言う。

研究者らは、氷河の下の微生物の生存戦略が、地球外生命の生物学の手がかりを提供してくれるかもしれないと期待している。例えば、木星の衛星エウロパの地表を覆う分厚い氷の下には巨大な海があると考えられているが、その海水中には、ウィランズ湖で見つかった微生物のような生物が生息できるかもしれない。

なお、日光が届かない場所では光合成ができないため、ウィランズ湖の細菌は、別のところからエネルギーを獲得しなければならない。細菌は、元からある有機材料を利用しているのかもしれないし、金鉱の中や深海熱水噴出孔の近くで見つかる「化学栄養生物」のように、南極の岩盤中の鉱物や湖水中に溶けた二酸化炭素を利用した化学反応によりエネルギーを得ているのかもしれない。

「私たちはついに、南極大陸の氷河の下の世界を垣間見ることができました」とPriscuは言う。「今回の成果は、人々が南極大陸を見る目を変えるに違いありません」。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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