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大洪水に備える大気観測

暴風雨を引き起こす「大気の川」と呼ばれる細長い帯が、上空1.5kmのところを流れている。その長さは、海から陸に向かって数千kmにわたり、水量がミシシッピ川15本分になることもある(日経サイエンス2013年4月号「空を流れる川」参照)。これが卓越風とともに西から東へ移動して海岸に達すると暴風雨となり、それが数日から数週間続く。降水量やそのタイプ(雨か雪かなど)を予測するのは少し難しく、洪水になるかどうかの見極めも簡単ではなかった。しかし、2014年完成予定でカリフォルニア州に気象センサー網の導入が進んでおり、暴風雨と洪水の予測精度が大きく向上すると期待されている。

気象衛星のレーダーは、海上の空気中に含まれる水蒸気量の追跡は得意だが、陸上についてはよくわからない。また、雨域が陸上を移動するスピードは水蒸気流の中の風の影響を受けるが、この風のようすも気象衛星では把握しにくい。さらに、洪水の量は嵐の前にその地域の土壌がどれだけ湿っていたかに強く左右されるが、これを正確に測定するには地中にセンサーを埋め込むしかない。降水が雨になるか雪になるかを知ることも重要だ。雨はすぐに洪水につながるが、雪は後になってから洪水を起こす可能性がある。

上空の風から土壌の水分まで

新しい警報システムはこうした情報を提供する。システムの要は400km間隔で配置される4つの「大気の川観測所」だ。それぞれダンプカー程度の大きさのユニットで、上空の風速と風向を複数の高度について正確に測定し、それぞれの高度で雨になっているか雪になっているかを把握するとともに、上空の水蒸気の総量をつかむ。気温や湿度、気圧といった標準的な気象データも求める。複数の降雪レーダーと土壌水分センサーの配備をカリフォルニア中で進めている、とスクリプス海洋研究所の水文学者Michael Dettingerが2012年12月にサンフランシスコで開かれた米国地球物理学連合年会で報告した。

完成すれば、データはリアルタイムでウェブ上に一般公開される。より精度の高い予報を行ううえで、各国のモデルになるだろう。カリフォルニアだけでなく、ほとんどの大陸と陸塊の西岸は大気の川に見舞われる。2012年11月中旬には英国西部とウェールズ地方を大気の川による一連の暴風雨が襲い、1960年代以降最大規模の洪水を引き起こしている。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 4

DOI: 10.1038/ndigest.2013.130406b