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脱アセチル化による細胞死

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130325

原文:Nature (2012-12-13) | doi: 10.1038/nature11761 | Death by deacetylation

壊死はさまざまな疾患に関連して見られるが、プログラム細胞死の中で、おそらくは最も解明が進んでいないものだ。今回、サーチュインというタンパク質が、脱アセチル化反応を介して壊死の一部を調節していることが明らかになった。

壊死性の細胞死は、長い間、調節された機構であるというよりは、単なる受動的な過程と考えられてきた。例えば感染や外傷のために細胞に重度のストレスが与えられた結果、必然的に起こってしまう現象というわけだ。しかし、少なくとも壊死の一部は、ネクロトーシス1と呼ばれる細胞プログラムによって仲介されるとする証拠が増えている。Nature 2012年12月13日号199ページで、Nisha Narayanたちは2、ネクロトーシスが脱アセチル化酵素活性を有するサーチュイン-2によって調節されることを示した。これは、これまでの一連の証拠をさらに後押しする結果だ。特に、壊死の特徴を示して死にゆく細胞はさまざまな疾患において見られるので、ネクロトーシスの過程の分子基盤を解明することは非常に興味深いし、有望である。ネクロトーシス機構についての知見から、疾患に関連する細胞死の阻害剤を開発するヒントが得られるかもしれない。

ネクロトーシスは、TNF-α(関節リウマチ3や炎症性腸疾患4のような疾患に関連する免疫メディエータータンパク質)によって活性化される。TNF-αが、細胞膜上の受容体TNFR1と相互作用すると、TNFR1の細胞内ドメイン側に複合体Iと呼ばれる細胞質複合体が速やかに形成される。すると、複合体Iの構成タンパク質であるRIP1が、転写因子NF-κBの活性化を仲介し、その結果、アポトーシスと呼ばれる別のタイプのプログラム細胞死の機構が働き出すのを防ぐ(図1a)。

図1:細胞死複合体の進化
a. TNF-αがその受容体であるTNFR1(細胞膜を貫通しているタンパク質)に結合すると、TNFR1が活性化され、複合体Iとして知られる一群のタンパク質がTNFR1の細胞質側に形成される。複合体Iの構成タンパク質であるRIP1は、NF-κBの活性化を仲介し、それによって細胞の生存を促進する。
b. 複合体Iから解離したRIP1はアセチル化されているが、アセチル化されたRIP1は、RIP3と安定した相互作用ができない。Narayanたち2は、脱アセチル化酵素であるサーチュイン-2(SIRT2)がRIP3と相互作用しており、RIP1の脱アセチル化に必要であることを示した。脱アセチル化されたRIP1は、RIP3と別の安定な複合体(複合体IIb)を形成し、ネクロトーシスを引き起こす。

RIP1はキナーゼ(リン酸化酵素)で、基質にリン酸基を付加することでその活性を調節する。RIP1のアミノ末端ドメインはネクロトーシスの仲介に不可欠である。アポトーシスにおいて主要な役割を果たす酵素であるカスパーゼ-8を阻害した場合、RIP1は複合体Iから解離する。そして、解離したRIP1はRIP3(RIP酵素ファミリーに属する別の因子)と相互作用し、複合体IIbを形成する。この複合体IIbの形成はネクロトーシスに不可欠であるため5-7、この複合体形成を調節する生化学的機構が精力的に研究されている。

こうした中で、Narayanの研究チームは今回、複合体IIbの形成にサーチュイン-2が関与していることを示す興味深いデータを示した。サーチュイン-2は、脱アセチル化酵素であるサーチュインファミリーに属しており、その基質からアセチル基を取り除く活性を持つ。脱アセチル化酵素は、特に転写、アポトーシス、ストレス応答および加齢の調節に関連するとされている8。Narayanの研究チームは、サーチュイン-2の結合タンパク質を探索する過程で、RIP3を見いだした。また彼らは、サーチュイン-2を欠損する細胞、あるいはサーチュイン-2の薬理学的阻害剤の存在下で、TNF-αが仲介するネクロトーシスが阻止されることも見いだした。この知見は、サーチュイン-2が仲介するタンパク質の脱アセチル化が壊死の制御に関与することを示唆している。

実際に、Narayanの研究チームは、サーチュイン-2がRIP3に結合するだけでなく、RIP1の特定のアミノ酸残基(リシン)を脱アセチル化することも示した。この脱アセチル化はRIP1とRIP3の直接の相互作用に必要だと考えられる。さらに、サーチュイン-2が存在しない場合には、TNF-α刺激後のRIP1とRIP3の相互作用と定義される、複合体IIbの形成は起こらなかった(図1b)。

また、Narayanの研究チームは、培養マウス細胞でのネクロトーシスでは、RIP1のアセチル化が大きく低下することを示した。これも、壊死におけるRIP1の脱アセチル化の重要性と符合している。このRIP1の脱アセチル化は、心臓の虚血再灌流傷害(心臓への血液供給の途絶後に血液供給が再開する場合、心臓組織が傷害されること)のマウスモデルでも観察された。さらに、サーチュイン-2活性を阻害すると、RIP1の脱アセチル化が抑制され、心臓の損傷が抑制された。

ネクロトーシスは虚血性脳損傷も仲介するので1、サーチュイン-2が中枢神経系に豊富に存在していることを考えると、サーチュイン-2がRIP1を脱アセチル化することで、神経変性疾患におけるネクロトーシスにも寄与している可能性がある。

複合体IIbでRIP1-RIP3が形成される理由の1つは、RIP3に結合したサーチュイン-2がRIP1の脱アセチル化を実行できるからだと考えられる。最近の研究9から、RIP1-RIP3は、複合体IIbの一部として、アミロイド構造(さまざまな神経変性疾患と関連して見られる)と呼ばれる不溶性の繊維状タンパク質塊に存在する可能性が示唆されている。したがって、タンパク質の脱アセチル化は、アミロイド形成およびアミロイド形成の見られる神経変性疾患に関与する可能性があり、アミロイドが形成された状態において安定なRIP1-RIP3複合体を維持する分子基盤として機能しているのかもしれない。

ところで、サーチュイン-2の酵素活性は、代謝の中間産物である補酵素NAD+のレベルに依存している。NAD+の活性低下は、細胞におけるエネルギー欠乏と酸化ストレスに関連している。つまり、脱アセチル化(そしておそらくネクロトーシス)は代謝による調節を受けるということだ。NAD+レベルとサーチュイン-2の活性は、ネクロトーシスの過程では変化しないが、虚血の急性期には、酸素欠乏のためにNAD+の枯渇が起こる。ただ血流が再開すると、NAD+レベルが再び回復する。つまりこのことが、虚血の最初の段階では大規模な細胞死が起こらず、血流再開後に大規模な細胞死が起こることの説明になるかもしれない。したがって、血流が再開する前にネクロトーシスを阻止することで、虚血性損傷を抑制できるかもしれない。

なお、複合体IIbの構成要素や、複合体IIbがどのように調節されているのかについてはほとんど解明されていない。Narayanたちの研究は、この複合体IIbの1つの局面を明らかにすることで、ネクロトーシスの調節において新しい段階が存在することを示した。しかし、まだ、解明すべきことはたくさんある。例えば、アセチル化されたRIP1はRIP3と相互作用しないことを考えると、RIP3に結合するサーチュイン-2はどのようにRIP1を脱アセチル化するのだろうか? RIP1とRIP3は、RIP1の脱アセチル化によって安定化されると考えられる一過性の相互作用複合体を形成する可能性もあれば、RIP1とRIP3を近くにとどめておくためのほかの足場タンパク質が存在する可能性もある。また、RIP1とRIP3のお互いの相互作用には、キナーゼ活性も不可欠である。RIP1とRIP3は両方ともが、自己およびお互いをリン酸化する。しかし、リン酸化と脱アセチル化が、複合体IIbの活性化状態を達成するために、どのように協調するのかはわかっていない。特に、ネクロトーシスのヒト疾患における意義を考えると、このような疑問に対する答えを見つけることが、今後の主要な目的になるだろう。

(翻訳:三谷祐貴子)

Wen ZhouとJunying Yuanは、ハーバード大学医学系大学院(米国)に所属。

参考文献

  1. Degterev, A. et al. Nature Chem. Biol. 1, 112–119 (2005).
  2. Narayan, N. et al. Nature 492, 199–204 (2012).
  3. Taylor, P. C. & Feldmann, M. Nature Rev. Rheumatol. 5, 578–582 (2009).
  4. Chowers, Y. & Allez, M. Curr. Drug Targets 11, 138–142 (2010).
  5. He, S. et al. Cell 137, 1100–1111 (2009).
  6. Cho, Y. S. et al. Cell 137, 1112–1123 (2009).
  7. Zhang, D. et al. Science 325, 332–336 (2009).
  8. Milne, J. C. & Denu, J. M. Curr. Opin. Chem. Biol. 12, 11–17 (2008).
  9. Li, J. et al. Cell 150, 339–350 (2012).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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