Editorial

科学予算の支出は、スピードより安定性

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130330

原文:Nature (2012-12-06) | doi: 10.1038/492008a | Haste not speed

議会が科学予算の予測可能性と安定性を高めることが、米国の科学のためになるのだ。

米国の超伝導超大型加速器SSCの悲話は有名だ。約20億ドル(約1700億円)をかけてテキサス州の平原での地下トンネルの掘削が行われた後、米国議会は、1993年になって、この陽子加速器の建設プロジェクトを一挙に中止してしまった。

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これと対照的なのが、スイスのジュネーブ近郊に建設されたヨーロッパの素粒子物理学研究施設CERNで、予算の支出が厳然と続けられ、これが大型ハドロン衝突型加速器の建設に用いられた。CERNに参加する20か国は、すでに決まっている5年予算に対して、条約に定める特定額の資金をそれぞれ拠出している。

つまり、ヨーロッパでは科学予算が決まるまでが遅いが、支出は安定的に行われ、米国での予算は、議会歳出委員会の年1回の決定によって支出されるが、安定性に欠けているということだ。両者のこの明白な違いが、先の大統領科学技術諮問委員会(PCAST)の報告書(Nature 2012年12月6日号18ページ参照)で指摘された。

運営に苦労しているのは大規模な研究機関だけではない。米国の科学部局の最重要予算でさえかなり変動し、それが破壊的作用を生み出している。例えば、米国立衛生研究所(NIH)の予算は、1998年から2003年までの間に倍増し、その結果、多くの大学で、学部の開設、博士課程を修了した学生の採用、建物の新設が行われた。しかしその後、NIHからの資金が突然途絶え、生物医学分野のブームは終わりを迎えたのだ。

議会歳出委員会が複数年度予算の歳出に全力を尽くす可能性は低い。これに対して、PCASTの報告書では、米国の予算サイクルの最悪の側面を抑制するための妙案が示されている。

第1に、政府系研究機関が将来に向けた予算計画を始めるよう提言している。たとえ、議会歳出委員会がそれを無視してしまう可能性があっても、である。ワシントンDCでは、どのようなプログラムであっても、その計画過程で中身が明らかになると、予算削減派議員が大なたをふるう対象になりやすくなる、という考え方がある。しかし、それは正しくない。

現に国防総省は、これまで何年にもわたって、5~6年ごとに予算計画を公表してきている。議会歳出委員会は、この計画に従う義務はないが、国防総省が示す根拠を知ることができる。また、米航空宇宙局(NASA)も抽象的な5年予算を立てている(ただし、大型ミッションの費用見積りが的外れだったこともある)。これらを見習って、NIHも米国立科学財団(NSF)もエネルギー省も、しっかりとした5年予算を立てるべきだ。

第2の提言は、議会歳出委員会が、授権委員会(義務的経費を決める委員会)の定めるレベルに適合した予算額を認めることだ。授権委員会に属する議員は、担当する科学部局を熟知しており、2~3年ごとに予算計画を立てることが多い。しかし、そうした予算計画はほとんど創作に近く、例えば直近の2012年NSF予算の再授権では、78億ドル(約6600億円)とされた額が、議会歳出委員会で最終的に決まった予算額では、70億ドル(約6000億円)にとどめ置かれてしまった。

もちろん米国流がすべて悪い訳ではなく、利点もある。米国の科学部局は、1年の間に、新しい科学的アイデアを採用し、明確なビジョンを持つプログラムを提案し、そのための予算を獲得することができる。そのようなことがヨーロッパで起こるのはまれであり、中には、研究の最盛期を相当過ぎてから予算が支出された研究プログラムさえある。

しかし、科学予算の場合には、予測可能性はスピードよりも価値があり、意外性より安定性のほうが長所となる。米国の科学的活動はダイナミックだが、科学予算がもう少し堅実であったほうが、米国の科学のために役立つと考えられるのだ。

(翻訳:菊川要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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