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深海の太古の泥層から、カビが発見された

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130316

原文:Nature (2012-12-13) | doi: 10.1038/492163a | Ancient fungi found in deep-sea mud

Richard Monastersky

海底堆積物の深層部からカビが見つかった。そのカビはペニシリウム属であることから、未知の抗生物質が得られる可能性がある。

太平洋の海底のはるか深く、栄養分の乏しい1億年以上も昔の堆積物の中で、なんとカビが生息していることがわかった。未知の生命を追い求める生物学者や薬剤耐性細菌に対抗できる抗生物質を探索している製薬会社にとって、この褐色の海底の泥が、黄金へと変わるかもしれない。

培養に成功した、大昔の堆積物から採取された Penicillium 属のカビ。

Credit: BRANDI REESE/HEATH MILLS

南カリフォルニア大学(米国ロサンゼルス)の生物地球化学者Brandi Reeseは、「今回のカビから新薬が生まれる可能性があります」と期待する。彼女は、今回発見されたペニシリンを産生するPenicillium属をはじめ、いろいろなカビを調べてきた。深海底堆積物中という不毛な環境で多細胞生物が発見されたことについて、共同研究者であるテキサスA&M大学(米国カレッジステーション)の分子地球微生物学者Heath Millsは、「地球における生物圏の限界を広げる成果」だと説く。この研究成果は、2012年12月6日に開催された米国地球物理学連合(AGU;カリフォルニア州サンフランシスコ)の会議で発表された。

2010年に行われた統合国際深海掘削計画(IODP)に基づく南太平洋での実地活動で、海底下127mという深層の堆積物が採取され、以前、深海のカビに関する調査を行ったReeseらの研究チームが引き続きその堆積物を調べた。研究チームが「カビの遺伝物質」の存在を探ったところ、その試料から少なくとも8つの分類群に由来する塩基配列を見いだすことができ、さらに、そのカビのうちの4種類を培養することに成功したのだ。

深層の堆積物中に生息することが知られていた生物は、10年前までは、単細胞生物の細菌と古細菌だけだった。2005年になってようやく、カビが生息する可能性が見つかった(J. F. Biddle et al. Geobiology 3, 287–295; 2005)。だが、海底堆積物や海水からカビを調べている研究者は今なおごく少数だ。「どこにでもいるのに、ほとんど顧みられることがないのです」と語るのは、海底堆積物由来のカビの培養研究では草分けの、デラウェア大学(米国ルイス)の微生物生態学者Jennifer Biddleだ。

一部の生物学者はこうした報告に懐疑的で、試料が汚染されていたのではないかとか、泥に表層のカビの不活性な胞子が入り込んだのではないか、などと言っている。それに対しReeseの研究チームは、汚染を避けるために数段階の処置を行ったと反論する。堆積物中の微生物を研究するロードアイランド大学(米国ナラガンセット)のSteven D’Hondtは、「Reeseのチームを含めて、深層の堆積物中にカビがいることを示す証拠は、すでに大量に蓄積されています」と話す。

さらに、ウッズホール海洋研究所(米国マサチューセッツ州)の分子生態学者William Orsiによれば、証拠の物質は胞子ばかりではないようだ。Biddleや同研究所の微生物学者のVirginia Edgcombとともに研究を進めているOrsiは、ペルー沖の深海堆積物を調べ、わずかだが複数のタンパク質をコードするカビのメッセンジャーRNAを発見した。その中には、細胞膜を介したイオンや金属の輸送に関与するタンパク質も含まれていた。これは深層のカビが代謝活性を持っていることを示すものだと、AGUの会議でこの研究成果を発表したOrsiは説明する。

深層の堆積物中にカビがいることを示す証拠が増えてきた今、「解明が急がれるのは、カビが何をしているのかという問題です」とOrsiは言う。Reeseらが調べた堆積物が採取された場所は南太平洋環流の下にあり、Millsによればそこは、「地球上で、きわめて生命の少ない所」だという。その環流は陸地から離れているため、陸地からはほとんど栄養分が届かない。海生生物もまばらで、表層堆積物の微生物は、海底に沈んでくるわずかな有機物をむさぼり食っている。

こうした栄養分の乏しい深層生態系において、カビが重要な役割を担っているのではないかとMills は推測する。堆積物に何百万年も残されたままの有機物は、多くの単細胞生物にとって利用がきわめて困難だと、かつては考えられていた。しかしMillsによれば、カビは消化が困難な有機物分子の分解に長けており、カビが海底のさらに奥深くにいる微生物に食物を供給している可能性がある。

Reeseの研究チームは、最深層堆積物中のカビが1億年以上前のものかどうかは、まだ判断できないとしている。後代の堆積物から移行してそこに棲み着いた可能性もあるからだ。しかし、そのカビが長期間にわたって隔離されていたとすれば、細菌に対する生物学的防御を独自に進化させている可能性があり、このカビが有用な抗生物質の供給源となる期待が高まる。「新バージョンのペニシリンだったらどうでしょう。深海の生物圏まで足を延ばす甲斐があるというものです」とMillsは言っている。

(翻訳:小林盛方)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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