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「トポロジカル絶縁体」の発見

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130315

原文:Nature (2012-12-13) | doi: 10.1038/492165a | Hopes surface for exotic insulator

Eugenie Samuel Reich

SmB6に関する最新の研究成果は、40年来の懸案である「バルク材料としてのトポロジカル絶縁体」へと結びつくかもしれない。

奇妙な電気的挙動によって数十年も前から物理学者を当惑させてきた化合物が、量子物理学や電子機器メーカーに恩恵をもたらす可能性を持つことが明らかになった。

6ホウ化サマリウムSmB6の結晶は、内部は絶縁体だが、表面は導電性である。

Credit: JOHNPIERRE PAGLIONE

2005年、理論家たちが、表面は電流を流すが、それ以外の部分は絶縁体として振る舞うような材料(トポロジカル絶縁体)が見つかるはずだと提案した。この予想に興味をもった物理学者たちは、そのような材料が示す量子効果を調べて、低消費電力エレクトロニクスや量子コンピューティングへの応用可能性を探りたいと考えた。しかし、トポロジカル絶縁体を作るのは非常に困難であることが明らかになった。一部の研究者は、たいへんな苦労をしてトポロジカル絶縁体の薄膜を作ったが、その技術は複雑すぎて、産業への応用に必要なレベルまでスケールアップするのは、ほとんど不可能に近い。別の研究者は、トポロジカル絶縁体とよく似ているものの、内部にある程度の導電性が残っている化合物で満足している。

しかし、このほど相次いで発表された3本の論文1-3によれば、6ホウ化サマリウムSmB6という化合物が、薄膜でなくバルク材料(つまり塊)の形で、トポロジカル絶縁体として振る舞う可能性があるという。SmB6は、まだよく理解されていない化合物であり、1969年にはベル研究所(米国ニュージャージー州)の研究者により、非常に低い温度で導電性を獲得することが確認されている4

今回の3本の論文の中で最も遅く発表されたもの1は、カリフォルニア大学アーバイン校の研究者らによって2012年11月28日にオンライン投稿された論文だが、そこでは、SmB6結晶の表面を高速で移動する電子が見られたと報告している。彼らはこれを、SmB6がすばらしい表面導体であることのサインだと考えている。

その5日前には、メリーランド大学カレッジパーク校(米国)の研究者らが、SmB6サンプルを冷却しながら電子を注入し、その通り道をたどる測定を行った結果について報告している2。彼らの結果は、この材料は約30K以下の温度で内部が絶縁体になることを示唆している。

そして、いちばん早く2012年11月21日に投稿された論文では3、ミシガン大学アナーバー校(米国)とカリフォルニア大学アーバイン校の科学者が、SmB6の表面とバルク部分での導電率を測定し、欠陥や不純物の存在にもかかわらず、表面の導電性が保たれていることを確認した。これは、本物のトポロジカル絶縁体に期待される性質だ。

ここ数年間、トポロジカル絶縁体に対する関心が急激に高まっており(「急増する論文数」参照)、2010年には、SmB6もトポロジカル絶縁体であろうという予測が発表されていた5。この予測をした4人の理論物理学者のうちの1人であるラトガーズ大学(米国ニュージャージー州ピスカタウェイ)のPiers Colemanは、「とりあえず、我々の主張が正しいことが証明されたと言ってよいでしょう。今回の新しい結果に胸を躍らせています」と語っている。

興味深い特徴

こうした予測が行われたきっかけの1つは、近藤絶縁体として知られる材料の研究だった(編集部注:この絶縁体は、近藤淳博士による近藤効果の理論的拡張として理解され、こう呼ばれるようになった)。普通の絶縁体とは異なり、近藤絶縁体は、絶対零度から数度高い程度の温度まで冷却されたときにも、わずかな導電性を保持している。しばしば近藤絶縁体に分類されるSmB6は、この説明によく合う振る舞いをする。

Colemanやそのほかの理論家たちは、SmB6がトポロジカル絶縁体であるなら、その振る舞いを理解できることに気付いた。普通の導電体では電子はどこでも自由に流れることができるが、SmB6がトポロジカル絶縁体であれば、表面以外の部分では電子が自由に流れられないような量子的特性を持つはずだ。Colemanは、この推測が正しいなら、SmB6やその他の近藤絶縁体から得られた洞察は、すべてのトポロジカル絶縁体に当てはまるはずだと考えている。

SmB6は奇妙なトポロジカル絶縁体である。サマリウム原子の外殻電子は、互いに強く相互作用して、協調した運動を発現させているからだ。スタンフォード大学(米国カリフォルニア州)でトポロジカル絶縁体の先駆的な研究を行っているShoucheng Zhangは、「SmB6のこの性質を利用すれば、磁気モノポールやマヨラナ粒子(量子コンピューティングに役立つ可能性のある準粒子)などのエキゾチックな量子効果を作り出せるかもしれません」と言う。Zhangはまた、SmB6に対する関心が急激に高まったのは、互いに強く相互作用する電子を持つ材料全般の研究が、盛んになっていることを反映していると指摘する。「我々は現在、いくつかの系を調べていますが、非常に刺激的な展開になっています」。

ビスマス系化合物のトポロジカル絶縁体としての振る舞いを研究しているジョン・ホプキンズ大学(米国メリーランド州ボルチモア)のPeter Armitageは、物性物理学の分野では実験が理論を先導するのが普通だが、今回の発見はこれとは逆に理論主導である点で珍しい、と指摘する。彼は早速、SmB6の表面状態を確認し、これを詳細に調べる実験に着手しようと考えている。「我々のすぐ近くに、こんなに美しい効果が隠れていたのです。これは非常に大きな前進です」。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Botimer, J. et al. Preprint at http://arxiv.org/ abs/1211.6769 (2012).
  2. Zhang, X. et al. Preprint at http://arxiv.org/ abs/1211.5532 (2012).
  3. Wolgast, S. et al. Preprint at http://arxiv.org/ abs/1211.5104 (2012).
  4. Menth, A., Buehler, E. & Geballe, T. H. Phys. Rev. Lett.22, 295-297 (1969).
  5. Dzero, M., Sun, K., Galitski, V. & Coleman, P. Phys. Rev. Lett.104, 106408 (2010).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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