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恒星進化における「真の原始星」を発見

観測可能な宇宙には、10倍程度は多かったり少なかったりすることはあるだろうが、おおよそ1022個の恒星がある。私たちが住む銀河系(天の川銀河)では、その質量の約20%を約2×1011個の光を放つ星が占め、別の20%あるいはそれ以上は、恒星になれなかった天体(小さすぎて熱核融合を点火できなかった褐色矮星)や恒星の残骸(ブラックホール、中性子星、白色矮星など)が占めている1

自然が、広範囲に分布した物質を常にかき集め、その密度を24桁も濃縮し、宇宙を照らす核融合炉すなわち、恒星を作り出す方法を見いだしたのは驚くべきことだ。しかし、そのメカニズムの詳細がどのようなものであるかは不明で、今ようやく解明されつつある。今回、米国立電波天文台(NRAO;バージニア州シャーロッツビル)のJohn J. Tobinらは、重要でありながら、これまで見つかっていなかった要素を、Nature 2012年12月6日号83ページに掲載された論文で報告した2。つまり、真に胎児段階にある原始星の初めての発見とその測定だ。

恒星はどのようにして生まれるのか。かいつまんで説明すると次のようになる3。星の間の領域を満たす希薄なガス、つまり星間物質の約5%は、巨大(直径6~150パーセク)で低温(数十ケルビン)の分子ガス雲(主に水素分子からなり、微量の一酸化炭素、水などの分子を含む)を作っている。分子ガス雲の密度は、1cm3当たり、約300個の分子が含まれる程度だ。その中の「クランプ」と呼ばれるわずかに密度の高い領域が、近くの超新星爆発などの偶発的な摂動が引き金となって、自らの重力のために収縮して「分子雲コア」を形成する。分子雲コアはかなり密度が高く、1cm3当たり約105個の分子を含む。

分子雲コアでは、強くなった内部乱流が重力によるさらなる収縮を押しとどめ、見かけ上は安定した中間点に達する。しかし、力学的な摩擦、磁力による制動、常に作用している重力により、物質は分子雲コアの中心に向かって徐々に落下していく。分子雲コアの中心では、高圧と高温により分子結合が壊れ、原子から電子が剝ぎ取られ、電離したガスは引きずられた磁場に結合される。分子雲コアの高温で電離した領域は、中心の凝集部の周囲にエンベロープ(星を覆う雲)を形成する。中心の凝集部は、やがては原始星と呼ぶことができるほど、周囲の環境と区別できるようになる。原始星が放つ光(大部分は遠赤外線)は、完全に成熟した星のエネルギー源である熱核融合ではなく、重力エネルギーの放出によるものだ。

フィギュアスケーターが腕を縮めることによってスピンの回転速度を上げるのと同様に、原始星の回転速度も多量の物質が星に降着すると速くなる。回転は非常に速くなり、その遠心力で収縮はそれ以上進まなくなってしまう。原始星からその角運動量の大半を奪い去る巧妙なメカニズムがなければ、私たちが知っているような星は存在しないはずだ。実際には、磁力、遠心力、重力が組み合わさった作用によって、流入する物質の約10%は向きを変えられ、細いビーム状のガスの流れとして星から流れ出る。これは「原始星ジェット」と呼ばれる4。このジェットが、角運動量の約70%を分子ガスに戻して原始星の回転速度を下げ、その結果、原子星の収縮は続く5

原始星は、「若い星状天体」(YSO)と呼ばれる天体群の最も若いメンバーだ。YSOは光のスペクトルによって、第0段階、第I段階、第II段階、第III段階という4つのグループに分けられる6。この分類は、星の進化の道筋を表していると考えられており、番号が大きいほど年齢の高いYSOに相当している。

第0段階の天体(多くの研究者が「真の原始星」と呼ぶ胎児期の星)は、その質量がエンベロープの質量よりも小さい。第I段階の天体は、その質量がエンベロープの質量を超える原始星だ。第II段階か第III段階のどこかで熱核融合が点火し、それによる突然のエネルギー放出で、エンベロープと分子雲コアに残っているものの大部分が吹き飛ばされる。後に残る天体は、前主系列星と呼ばれる。その周囲では、星の赤道面に位置する円盤に捕らえられた塵とガスが、惑星や彗星などの天体を作り、新しい星の周囲の軌道に残る。

巨大分子雲の重力収縮から前主系列星の出現までの星の進化プロセス全体は108年以内に進行し、真の原始星段階は105年にすぎない。太陽のような星の場合、その寿命は約1010年で、人間の一生に換算すれば真の原始星段階は約7時間でしかない。

この段階は、星の進化においては短いけれども、重要な期間だ。天文学者たちはそれを観測しようと最大限の努力を重ねてきたが、果たせなかった。分子雲は大昔から観測されてきており、最も有名な例はオリオン星雲とも呼ばれるM42で、オリオン座のベルトの三つ星の南に裸眼で見える(図1)。しかし、星の形成における分子雲の役割が正しく理解されるようになったのは1960年代になってからだ7,8。また、分子雲コア9と第I段階から第III段階のYSO10も、かなり前から観測されてきたが、分子雲コアと第I段階YSOの間には概念的に大きな隔たりがある。

図1:オリオン星雲(M42)
この画像の下半分に写っている巨大分子雲M42は、主要な「星のゆりかご」の中でも地球に最も近く、ここでは星の進化の初期のあらゆる段階にある星が見つかるはずだ。

Credit: CAMBRIDGE ASTRON. SURV. UNIT/J. EMERSON/VISTA/ESO

ということは、とてもたくさんの物理現象が、第0段階に非常に短い時間スケールで起こり、この隔たりを埋めているにちがいなく、それを観測できていないことが、天文学者たちにとって、星の進化におけるミッシング・リンクとなっていた。真の原始星の発見が「赤外線天文学の究極の目標」とされてきたのは、このためだ11

第0段階の原始星を直接検出することは難しい。第0段階の原始星は持続期間が短く、光度が小さく、(定義により)それ自身の質量の何倍ものガスと塵に覆い隠されているからだ。原始星を直接観測できるのは、取り囲んでいる物質が十分に降着するか、あるいは吹き飛ばされてからだ。幸い、遠赤外線の波長は、大量のガスと塵があっても透過できる。しかし、Tobinらが使ったサブミリ波干渉計(SMA、ハワイ・マウナケア山)や、CARMA(米国カリフォルニア州)などの電波望遠鏡が、原始星の降着円盤ほど小さいものを、それを取り囲むエンベロープから見分けるのに必要な分解能を備えるようになったのは最近のことだ。

今回、直接撮影されたのは、第0段階の原始星そのものではない。Tobinらは、第0段階の原始星の周囲の降着円盤を検出することによって、原始星の存在を推測した(参考文献2の図2を参照)。さらに、観測された円盤の回転速度から、ケプラーの法則を使って生まれつつある原始星の質量を決定した。

Tobinらは、原始星の質量を初めて測定した訳ではないかもしれないが、彼らが観測した原始星(おうし座にあり、L1527 IRSと呼ばれている)は、第0段階原始星の例としてこれまでで最もよいものだ。L1527 IRSは太陽の0.19±0.04倍の質量を持ち、これは取り囲むエンベロープの質量の20%であり、これまでの最もよい例の10分の1の小ささだ。さまざまな意味で、L1527 IRSは、徐々に重力収縮する分子雲コアと第I段階YSOの出現との中間状態を、“現行犯”としてとらえたものといえる。

L1527 IRSは、本当に、赤外線天文学と星の進化の研究における「究極の目標」だったのだろうか。それは、後の科学史家が決めることだ。しかし、これは明らかに大きな発見であり、星がどのようにして誕生するのかに関する私たちの理解は、今後行われるL1527 IRSの研究で大きく深まるはずだ。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 3

DOI: 10.1038/ndigest.2013.130327

原文

A truly embryonic star
  • Nature (2012-12-06) | DOI: 10.1038/492052a
  • David A. Clarkeは、カナダのノヴァ・スコシア州ハリファックスにあるセントメリーズ大学天文・物理学科計算宇宙物理学研究所に所属。

参考文献

  1. Binney, J. & Tremaine, S. Galactic Dynamics 2nd edn (Princeton Univ. Press, 2008).
  2. Tobin, J. J. et al. Nature 492, 83–85 (2012).
  3. McKee, C. F. & Ostriker, E. C. Annu. Rev. Astron. Astrophys. 45, 565–687 (2007).
  4. Clarke, D. A., MacDonald, N. R., Ramsey, J. P. & Richardson, M. Phys. Can. 64, 47–53 (2008).
  5. Woitas, J. et al. Astron. Astrophys. 432, 149–160 (2005).
  6. Barsony, M. in Clouds, Cores, and Low Mass Stars ASP Conf. Ser. Vol. 65 (eds Clemens, D. P. & Barvainis, R.) 197–206 (Astron. Soc. Pacif., 1994).
  7. Elmegreen, B. G. & Lada, C. J. Astrophys. J. 14, 725–741 (1977).
  8. Blaauw, A. Annu. Rev. Astron. Astrophys. 2, 213–246 (1964).
  9. Myers, P. C. & Benson, P. J. Astrophys. J. 266, 309–320 (1983).
  10. Lada, C. J. & Wilking, B. A. Astrophys. J. 287, 610–621 (1984).
  11. Wynn-Williams, C. G. Annu. Rev. Astron. Astrophys. 20, 587–618 (1982).