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宇宙飛行士に安眠を!

電球1個の交換に何人の技術者が必要になるのだろうか? NASA(米国航空宇宙局)にとって、それは冗談話ではなかった。国際宇宙ステーションの米国セグメントで、古くなった蛍光灯の交換が必要になったからだ。今、それを実行するのに1140万ドル(約9.7億円)を投じつつある。

実は、NASAがこの交換を考え始めたとき、医師たちはある全く別の問題に取り組むチャンスであることに気付いた。それが宇宙飛行士の不眠症だ。

睡眠不足でぼんやりするのは、地球上ではただ不快なだけだが、宇宙では危険だ。宇宙飛行士は1日に8.5時間の休眠時間が確保されているが、実際に眠っているのは平均6時間ほどだとNASAの医務官で航空医官でもあるSmith Johnstonは言う。浮遊感と騒音、変化しやすい室温、換気不足、腰痛や頭痛、そして90分ごとにやってくる夜明けが合わさって、24時間周期の概日リズムが崩れる。NASAは新しい照明によって、この問題を少なくとも部分的に解決したいと考えている。

睡眠の研究で、人間の目にある特定の光受容器が特定の波長の青色光にさらされると、意識がはっきりすることが明らかになっている。脳が、睡眠を調節している主要ホルモンのメラトニンを抑制するためだ。反対に、赤色光はメラトニンの分泌を増やす。

新しくボーイングが開発した照明は、さまざまな色のLED電球を100個以上まとめて配列してある。光拡散カバーで覆ってあるため、外観は白色光パネルに見える。しかし、同社のシニアマネジャーであるDebbie Sharpによると、この光パネルは3種類のモードを備えており、それぞれ微妙に異なる色になるという。白色光は普通に見るときのために、また、冷たく青みがかった光は意識をはっきりさせるために、そして、温かな赤みを帯びた光は眠気を誘発するために使うのだ。ボーイングとその下請け企業は、2015年にこの照明を20個納品する計画だ。

一方で、ハーバード大学医学部やトーマス・ジェファーソン大学などの科学者が、この照明の有効性について試験している。この技術は将来、宇宙だけでなく地球上でも広く普及する可能性がある。病室や原子力潜水艦、工場、教室などの照明用としてだ。「世界中で長年使われてきたからといって、蛍光灯が最良の照明だとは限りません」とハーバード大学の共同研究者Elizabeth Klermanは言っている。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 3

DOI: 10.1038/ndigest.2013.130306a