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宇宙とほぼ同年齢の星を発見

太陽系の近くにある星が、きわめて古い星であることが明らかになった。この星が生まれたのは少なくとも132億年前、すなわちビッグバンからまもなくのことだ。この発見は、米国のペンシルベニア州立大学(ユニバーシティパーク)の天文学者Howard Bondらが2013年1月10日、カリフォルニア州ロングビーチで開かれた米国天文学会で発表した1。Bondは「この星は、正確に年齢がわかった星の中で、最も古い星だと私たちは考えています」と話す。

最も古い星の1つの想像図。これらの星が生まれたのは132億年以上前だ。

Credit: ESO

今回の星はHD140283という名前が付いており、太陽系から190光年と比較的近い所にあって、すでに1世紀以上にわたって研究されてきた。この星がほぼ完全に水素とヘリウムからできていることも、昔からわかっていた。これは、後の世代の星がもっと重い元素を作る前、宇宙の歴史の早い段階で誕生したことを示している。しかし、その正確な年齢まではわかっていなかった。

最古の星

年齢の決定にはいくつかの手順が必要だった。ハッブル宇宙望遠鏡のファイン・ガイダンス・センサー(FGS)は、基準星をもとに標的の星の位置を測定する装置である。Bondらの研究チームはまず、ファイン・ガイダンス・センサーを使って2003年から2011年にかけて記録された11組の観測結果から、HD 140283と太陽系との距離を、新たにより正確に決定した。さらに、この星の見かけの明るさを測定し、固有の光度を算出した。

HD 140283は、星の一生のうちで中心核の水素を使い果たしつつある段階にある。そこで次に、研究チームはこの事実を利用した。「この段階の星では、光度は徐々に減少します。つまり、光度は星の年齢を精度よく示す指標になるのです」とBondは説明する。こうして研究チームは、HD 140283の年齢を139億±7億歳と算出した。誤差を考慮すれば、宇宙の推定年齢である137.7億年と矛盾しない。

この星の年齢は最低でも132億歳になるが、実は、すでにもう1つ、132億歳と見積もられている非常に古い星が見つかっている2。ただ、今回のほうが古い星かもしれない。「HD 140283の年齢は、もう1つの132億歳とされている星の年齢よりも、かなり確度が高いのです」とBondは話す。

第二世代の星は早く生まれた?

「今回の発見は、宇宙が誕生してからまもない時期の星の形成について、これまでわかっていなかった詳細を教えてくれます」と、テキサス大学オースチン校(米国)の天文学者Volker Brommは言う。「第一世代の星は、原始ガスから生まれました。原始ガスには、ヘリウムより重い元素は、検出可能なほど含まれてはいません」。ところがHD 140283の場合、非常に古い星であるにもかかわらず、その化学組成に、ごくわずかながらも重い元素が含まれている。つまりこれは、HD 140283が第一世代ではなく、後の世代の星であることを示している。

「したがって、第二世代の星ができる条件は、とても早い時期に整っていたに違いありません。宇宙で最初に星が生まれたのは、一般的にはビッグバンの数億年後だと考えられています」とBrommは話す。しかし、第一世代の星は巨大かつ短寿命で、わずか数百万年で超新星爆発を起こして死滅し、その爆発で周囲のガスを加熱して、より重い元素をまき散らした。

しかし、ガスが冷えないと、第二世代の星は形成されない。「第二世代の星であるHD 140283が非常に古いということは、第一世代の星が爆発してから第二世代の星が形成されるようになるまでの冷却期間は、実は極端に短く、わずか数千万年だったかもしれないことを示しています」とBrommは語っている。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 3

DOI: 10.1038/ndigest.2013.130303

原文

Nearby star is almost as old as the Universe
  • Nature (2013-01-10) | DOI: 10.1038/nature.2013.12196
  • Ron Cowen

参考文献

  1. Bond, H. E., Nelan, E., VandenBerg, D. A., Schaefer, G. H. & Harmer, D. Abstr. 443.08 221st meeting of the American Astronomical Society, Long Beach, California (2013).
  2. Frebel, A. et al. Astrohys. J. 660, L117 (2008).