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米国の医学生物学研究機関の倒産

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130228

原文:Nature (2012-11-22) | doi: 10.1038/491510a | Private labs caught in budget crunch

Heidi Ledford

連邦政府、直接的には米国立衛生研究所(NIH)の予算削減によって、ボストン生物医学研究所(BBRI)といった著名な独立系研究所が倒産し始めた。

Charles Emersonが所長を務めるボストン生物医学研究所(BBRI)で、解散の是非を問う投票が行われることになった。その前夜、どちらに投票するのかEmersonに尋ねたところ、彼は押し黙ってしまった。連邦政府の助成金が減額され、それに輪をかけた景気低迷の結果、BBRIは赤字経営に陥った。慈善団体に対する要請、学術機関とのパートナーシップの模索、果てはBBRIビル(マサチューセッツ州ウォータータウン)の部分的な賃貸まで、資金調達のために必死の努力が重ねられたが、焼け石に水だった。Emersonが、ようやく口を開いた。「解散に賛成の投票をするつもりです。これ以外に方法はありませんから」。

2012年11月15日、BBRIの理事会メンバーは、61対15の投票結果により、44年間の生物医学研究の歴史に終止符を打つことに合意した。BBRIは、アルツハイマー病ワクチンの研究などのほか、米国立衛生研究所(NIH)からの助成金によって、成人筋ジストロフィー症の一種を重点的に研究する付属機関の設立なども進めてきた。米国には、ここと似た運命をたどることが懸念される独立系研究所が、ほかにもいくつか存在している。「BBRIは、こうした倒産の最初の犠牲者なのかもしれません。同じことが、ほかの研究機関に起こる可能性があり、BBRIより大型の研究機関でさえ、起こりうる話なのです」。こう話すのは、フォックス・チェイスがんセンター(米国ペンシルベニア州フィラデルフィア)の最高科学責任者Jonathan Chernoff だ。

独立系研究機関では、研究者は、大学や病院の研究者の義務である学生や実習生の指導研修のほか、煩わしい事務手続きからも解放されていることが多い。しかし、それゆえに授業料収入はなく、大学のような資金調達を組織的に進める経営インフラストラクチャーや熱心な同窓会組織も存在しない。「我々の研究所は、大学にない機敏さを備えています。しかし我々のような小さな船には、常に沈没の危険性が背中合わせにあるのです」とChernoff は言う。

フォックス・チェイスがんセンターは、最終的にはその沈没を回避するために、独立性を犠牲にした。同センターは2008年の金融危機からの回復に苦しんだ末に、2012年7月、テンプル大学ヘルスシステム(フィラデルフィア)に8380万ドル(約71億円)で売却された。「この売却による影響に対応するため、私たちは今も努力を続けています。今後、我々の研究組織の風土がどのように変わっていくのか、よくわかりません」とChernoff は話す。

多くの生物医学研究機関の収入は、個々の研究者に対するNIHの助成金に大きく依存している。しかし、NIHの予算は、2010年以降、継続的に削減されており、この傾向がすぐに反転する気配は見られない。これが、BBRIの命取りになった。研究所に属する多くの研究者が、NIH助成金の更新に難航し始めたとき、まさにそれと歩みを共にするように、重要な多額の助成金受給者が退職したり、あるいは別の研究機関に移籍してしまったのだ。

数字を挙げよう。2010年にBBRIに交付されたNIH助成金は、1000万ドル(約8億5000万円)で、その年のBBRI予算の80%以上を占めていた(「バランスのとれたポートフォリオの重要性」参照)。しかし2012年には、NIH助成金は650万ドル(約5億5000万円)まで削減された。そして、2012年7月、Emersonは、2013年のNIH助成金による収入が、なんと約300万ドル(約2億6000万円)にすぎないとする見積りを入手したのだ。そのとき、BBRIには打つ手がなくなったとEmersonは打ち明けた。

SOURCE: IRS

ラホヤ・アレルギー免疫研究所(カリフォルニア州)も、BBRIと同様に、予算の中でNIH助成金の占める割合が約80%となっている。NIHの財政危機が差し迫っていることを同研究所がはっきりと認識したのは、今から5年前のことだったと最高技術責任者Stephen Wilsonは話す。それ以降、研究所内では、基幹スタッフ以外の人員削減を進めてきた。現在、ラボマネージャーに予算管理ソフトウェアの研修を受けさせ、研究所員に対しては、紙コップを使うのではなく、マグカップを持参するよう推奨している。また、多くの研究機関と同様に、同研究所も慈善団体への寄付の働きかけを積極的に進めている。

ところが、慈善団体による寄付には欠点がある。多くの慈善団体は、研究の間接経費、すなわち、電気・ガス・水道や管理職員といった地味な運営費用の負担を求められることを嫌うのだ。したがって、一般諸経費に十分に対応してくれない高額の寄付金を受け取ると、逆に、研究機関の金銭的持ち出しが増えてしまうことがあるのだ。「慈善団体が『100万ドルを寄付しますが、間接費には対応しません』と言った場合、我々自身がかなりの額の資金を用意して対応しなければならないのです」とグラッドストーン研究所(カリフォルニア州サンフランシスコ)のSanders Williams所長は話す。

もう1つの資金調達ルートが、製薬会社やバイオテクノロジー会社との提携だ。例えばモネル化学感覚センター(フィラデルフィア)は、全世界の企業約50社との関係を構築することで、体制強化を図った。システムズ生物学研究所(ワシントン州シアトル)は、立ち上げに助力した新興会社の株式を保有している。また、バック加齢研究所(カリフォルニア州ノバト)は、自分たちの研究成果をもとに、スピンアウト会社を2社立ち上げている。

しかし、産業界から資金を調達することも決して容易な解決法ではない、とモネル化学感覚センターのGary Beauchamp所長は言う。「産業界そのものも予算削減に苦しんでいるところが多いのです」と彼は続けた。Williamsも同じ考え方で、「こうした連携を維持するためには、日々の努力が必要なのです。今、我々は最悪の状況に直面しています。我々のすべての収入源が、さまざまな課題を背負い込んでいるからです」と話している。

EmersonとBBRIの場合は、もう手遅れだ。Emersonは、2012年の初めにBBRI理事会に新たな資金調達方法の最終リストを提示したが、結局、BBRIの850万ドル(約7億2000万円)の基金では、この事態を乗り切ることができず、また、組織を再編成するための時間的余裕もなくなった、と結論付けられた。

現在、Emersonは、ほかの研究機関への研究員の移籍を世話しながら、自らはマサチューセッツ大学医学系大学院(マサチューセッツ州ウースター)への移籍準備に力を注いでいる。「こうした結末にはなってほしくなかったです。今は、研究所の科学者が研究を続けられることを望むばかりです」と彼は話している。

(翻訳:菊川要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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